6月中旬の昼過ぎ、愛車で自宅に戻る買い物帰りの百恵さん

「百恵さんの還暦の記念なんです。32年間やってきたキルト作品がたまってきたんですよ。だから、今回は本を出版したいというよりも、今まで制作してきた作品をまとめたいという思いでしょう」

 そう話すのは、日本にキルトとパッチワークを広めたパイオニアのひとりである鷲沢玲子さん。“百恵さん”とは、'80年にスターとして絶頂期の中、三浦友和との結婚で電撃引退した三浦百恵さんのこと。彼女が来月末、自身のキルト作品集『時間の花束 Bouquet du temps』(日本ヴォーグ社刊)を出版する。

「引退の1か月後に発売された自叙伝『蒼い時』以来の自著となります。前作は自身の人生を赤裸々に語った内容で、300万部を超えるベストセラーとなりました」(スポーツ紙記者)

 引退後は表舞台からいっさい姿を消し、専業主婦となった百恵さん。

「この本にはキルト作品の説明やあとがきなどいわゆる百恵さんの“生声”や、この本のために撮影されたという最近の写真が掲載されています」(同・スポーツ紙記者)

 百恵さんのキルトの師匠・鷲沢さんは続ける。

「32年前、百恵さんが私のキルト教室にいきなり訪ねてきたんです。ご自身でここを調べてきたようですよ」

 教室の生徒たちとも交流を深めているようで、

「同世代の方が多いので、よく食事会を開いたりして仲よくやっていますよ。周りも百恵さんだからと特別扱いはしませんしね」(鷲沢さん、以下同)

百恵さんが家族を守りながら、作り続けたキルト作品集。表紙はまだ制作途中だという

 教室に通い始めると、

「最初は毎週、来ていましたね。今は2か月に1度程度になっていますが、それは私の都合に合わせてもらっているだけなんです」

 始めのころは、長男・祐太朗と次男・貴大の子育てに手間がかかる時期だったが、教室を休むことは1度もなかった。2人の息子のためにキルトのベストを作ったり、通学用の袋を作ったりしているうちに、

「うちのクラスは技術のレベルによって8階級あるのですが、百恵さんはトップのクラスにいます」

 なぜ、こんなにも百恵さんのキルト熱は高まったのか。

 出版元の担当者は「百恵さんにはこんな思いがあります」と、次のように本誌に明かした。

「家族、友人を思って針仕事、手仕事をするということ。あるいは、手仕事を通じて自己表現をするということがとても幸せなことであり、人生を豊かにするということを、できるだけ多くの人に知ってほしい」

 歌手・女優として活躍した百恵さんが引退後、自己表現の場に選んだのが“キルト”だった。定期的に開催される作品展示会では、妻として、そして母としての思いが込められた作品が発表されていた。

「キルトとは、アメリカの開拓時代に母親たちがありあわせの端切れを縫い合わせて、愛するわが子や家族のために衣類や敷物を作ったのがそもそもの始まり。百恵さんの作品にも家族への思いがいっぱい詰まっていますよね」(教室の生徒のひとり)

 '16年の作品『静寂と薔薇』では、夫・友和への愛を表現していた。

「薔薇の花言葉は“あなたを愛しています”。大胆なプリント布地に1本の薔薇を縫い込めた情熱的な作品でした」(教室の別の生徒のひとり)

 この作品の展示期間の翌日が友和の誕生日だったという。

’80年11月、挙式後に記者会見を開いた三浦友和・百恵さん夫妻

「友和さんへのメッセージを込めた、百恵さんの愛にあふれたバースデープレゼント作品だったんでしょうね」(同・教室の別の生徒のひとり)

 同書にある『巣立ちのキルト』の章には長男、次男、甥っ子に向けて作った3つの連作『未来へ…』が掲載されている。そこには百恵さんのこんな言葉が添えられている。

《子育ての大きな節目の一つは子どもが成人を迎えるとき。やがて独立して家を離れていくとき。そんな巣立ちをしていく我が子にキルトを贈ることで向き合いました。長男、次男、甥それぞれの“未来を祈る心”は針仕事を通して形になりました。純粋な心洗われるような制作のときがあったことを尊く思います》

(左)長男・三浦祐太朗(右)次男・三浦貴大

 連作の1作目となる長男に贈った作品には、特に思い入れが強かった。

「制作にミシンを使う人もいますが、百恵さんは縦219×横200㎝という大作をひと針ひと針、自分の手で縫い上げたんです。制作期間は18か月にも及んだそうです」(前出・教室の生徒のひとり)

 太陽を思わせる明るい作品で、百恵さんの未来への思いのすべてが鮮やかに表現されているという。今回の出版は、出版元と以前から付き合いのあった鷲沢さんが紡いだ縁でもあった。

「この本を今のタイミングで出版するのは、百恵さんのキルト作家としての機が熟したからですが、私どもの悲願でもありました。本作には未発表の新作も多数掲載され、その中には家族、友人のための作品も含まれています」(出版元の担当者)

“キルトの向こう側”に込められた百恵さんの思い。そして40年ぶりに語られるメッセージにも注目が集まる。