8月に茨城県で起こった『あおり殴打事件』。逮捕された男と一緒に行動し、現場を撮影していた“ガラケーの女”の存在も大きな話題になったウラで、全く別人にも関わらずSNSで実名や写真を拡散された30代女性がいた。10月30日、公的な立場にありながら“デマ情報”を拡散したとして、女性は愛知県豊田市の原田隆司豊田市議を提訴。市議は「身勝手な正義感からシェアしてしまった」と謝罪したのだが初期対応に非難がやまず、辞職を発表した。この件について放送作家でNSC講師を務める野々村友紀子が感じた“ズレ”とは──?
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確かに誰にでも「うっかり」や「間違い」はある。しかし、これはそんな言葉では許すことができないポイントが多すぎた!
間違いを犯してしまったときに大事なのは、その後どんな行動を取るか。せめてそれを「間違えないこと」ではないでしょうか。
すでに市議は辞任されたそうですが、公人として、大人として、一人の人間として、その「間違いだらけ」の今回の対応にはイライラしてしまった人も多いのでは。そして、二度とこんなことが起きないよう、私たちは何を学ぶべきでしょう。
まず、確認もせずに不確かな情報を拡散したこと。これは一般人でもアウトの、大きな間違いです。ましてや発言に影響力がある市議ともなれば、そこはめちゃくちゃ慎重にならないといけなかったはず。
そもそも、仮に、情報が本物だったとしても、あの時点ではまだどんな罪になるのかもわからない人物の情報をわざわざ拡散すること自体、自身の立場を考えたら控えるべきだったのでは。「正義感から拡散した」とのことですが、この時点でもう、正義の名の下に本来やらなくてもいい「いらんこと」をしていますから。もし、私がそのとき市議の横にいて、シェアするところを見ていたら、「ちょいちょい!市議さん!それはやめといたほうがいいんじゃないっすか?」と絶対止める! が、残念ながらそんな人は側にいなかったようで、やがてシェアされた情報は間違いだったことが判明します。
市議と同じく、歪んだ正義感で多くの人が間違った情報を拡散したせいで、事件に無関係の女性は、突然、日本中から言われのない激しい非難と誹謗中傷を受け、個人的な情報が知らない間に世界中にどんどん拡散されました。何も悪いことをしていないのに、こんなに怖くて辛い思いをされた女性の心のダメージを、市議はこのとき、どこまで深く考えたのか。これが、今回大きなポイントになったのではないでしょうか。
自分のことしか考えていない
この時点で過ちを素直に認め、しっかり謝罪と訂正文を載せ、直接女性に謝罪して記者会見を開くなど、誠心誠意、謝罪していれば被害を受けた女性の心情も変わっていたかもしれません。正義感からであろうとなんだろうと、結果的に自分の軽率な行動により、一人の女性の名誉を、人生を、心を、大きく傷つける手伝いをしてしまった自覚があれば当然の行動です。しかし、市議はこの時点では謝罪も会見もせず、慰謝料の支払いも拒否、「大勢が拡散している。私だけが支払うのはおかしい」と、「みんなやってるのに、なんで自分だけ?」と言わんばかりに開き直ってしまった。女性によると、連絡にも応じなくなったとか。まずここで、なんでやねーん! 一般人と公人とでは、その発言の影響力の大きさが全然違うのは明確でしょう。だって市議やで? 信頼度が違いますよ。この人になら任せられる! と、市民から選ばれた人なんですから。逆に社会的影響力が一般人と同じくらいなら、市議やってる意味ないやん!
そんな市議がやっと本格的に謝ったのは提訴されると知ってから。いや遅い遅いー! これでは、元々反省はしていないが、ことが大きくなったために保身のため焦ってとりあえず謝罪しただけ、と思われても致し方ありません。
しかも、謝罪の方法は、自分のSNS上に「謝罪している自分の動画」をアップするという、めちゃくちゃ一方的な謝罪。おおーい! 重ね重ね、なんでやねーん! 勝手に知らんところで謝罪すなすなー! ですよ。しかも理由が「会見の時間がなかった」「各テレビ局に平等に使用してもらうため」という、清々しいほど自分だけのことしか考えていない勝手すぎる理由! もう〜市議! そういうとこやー! そういうこと平気でするからこういうことなってこんな結果になるんやー!
ほんまにSNSの正しい使い方、わかってない! これは「誰のための謝罪」でしょうか。被害女性の感情を逆撫でしただけです。自分が記者会見の前に、なんとか「謝罪したという事実」が欲しかっただけやん、と思われてもこれまた致し方ない!この時点では市議はまだ辞めるつもりはなかったようですが、謎の「SNSは一旦やめます」宣言。いや、そういうことじゃないねん!なんか全部ズレてませんか?
辞職しても消えない“ネット情報”
この前の神戸の教員いじめ事件で「子どもたちがかわいそうなので当分給食にカレーを出すのはやめます」って発表したくらいズレてるねん! なんやあれ! カレーが悪いんちゃうやろ! ただでさえ元気のない子ども達の給食から大好きなカレー奪ってどうするねん! ……と、思わず話題もズレてしまいましたが、こうして、間違いを起こした市議は、その後の対応をことごとく間違え、謝罪のタイミングもやり方もこれまた間違えてしまったのです。ほんま、こんなに間違える人に市のいろいろ大事なことを任せて大丈夫なのかな、と市民の皆さんもさぞかし心配になったことでしょう。
この件によって、自身もネットで叩かれ、電話で非難され、「女性の気持ちが身に染みてわかった」という市議。もちろん、市議自身も怖く辛い思いをされたことでしょう。しかし、そこは一緒にして語ってはいけない。だって、女性には何の落ち度もなかったのですから。自分のやったことがキッカケで世間から責められている市議と、何も悪いことをしていない女性が突然大勢の人から激しく責められ味わった理不尽な恐怖や辛さとでは、比べ物にはならないはず。比べちゃいけないはず。挙げ句の果てに「この経験をもとに今後こんなことがないようにしっかり情報を発信していきたい」って、いや誰がどの口で言うてんねーん! もうあなたは何も発信せんでいい! そういうことを言いたいのなら、まずはきちんと自分のやったことの責任をとってからやー! ……と、憤っていたところ、辞任のニュースが飛び込んできました。辞めるべきは、SNSではないことに気づかれたのでしょうか。
今回、市議が辞任したからといって、女性の誤った情報がネット上から消えるわけでも、心の傷が消えるわけでもありません。そして、その他大勢の同じことをした人たちは何のお咎めもなく、普通の生活をしているのです。
いい歳こいて「自分が最初にやったわけじゃないから知らん」「みんなやってるからいいと思った」「自分だけが悪いわけじゃない」。
だいたい、世の中にこんな感覚でSNSやっている人が多すぎ! いつでも自分が加害者になり得る怖さに気づいていない人が多すぎ! なのです。
シェアやリツイートで拡散するのはボタン一つ。人の意見や、人が載せた不確かな情報をポチッとするだけ。この時点で、「発言への責任感」が全くないから、それが間違っていた時の「罪悪感」も希薄なのでしょう。たくさんシェアされた意見ほど、その人数の分だけ、薄まっていく。しかし、そのボタン一つが、誰かの幸せを破壊するかもしれないこと、何かあったときに自分にも責任が生じ、罪に問われても仕方ないということを、SNSをやる人はいま一度強く認識するべきですね。
市議の起こした一連の行動は、なぜここまで間違えてしまったのか。
それは、すべてのポイントで「自分のことしか考えていなかった」からではないでしょうか。他者への思いやりや反省などの「心」があれば、絶対にやらないことをしてしまい、できたであろうことをしなかった。気づくポイントはたくさんあったはずなのに、最後まで気づかなかった。だからこそ、ここまで来てしまったのでしょう。
人間、誰にでも間違いは起こる。努力をしても、起こってしまうのが過ちです。しかし、その時に人の気持ちを考えて行動できるかどうかで、その後は大きく変わる。結果的に、市議がこの経験をもとに伝えたかった形とは違うかもしれませんが、慎重さを欠いた大きな間違いには大きな責任がついて回るということだけは、子ども達にしっかり伝わったと思います。
これからの時代、子どものほうが学校や親に最初から厳しく教えられている分、ネットリテラシーは高くなっていくでしょう。いきなり人生の途中からスマホを持ってしまった(私も含めた)おじさんおばさん世代にこそ、しっかりとした教育が必要なのかもしれません。
プロフィール
野々村友紀子(ののむら・ゆきこ) 1974年8月5日生まれ。大阪府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の芸人、2丁拳銃・修士の嫁。 芸人として活動後、放送作家へ転身。現在はバラエティ番組の企画構成に加え、 吉本総合芸能学院(NSC)の講師、アニメやゲームのシナリオ制作など多方面で活躍中。“主婦から共感の声続出!”211項目を数える家事リストを掲載した新刊『夫が知らない家事リスト』(双葉社)が絶賛発売中!」