飲食店が集まる那覇市牧志の商業施設はほぼ満席。深夜までノーマスクの若者たちであふれていた

「もう1年以上、実家の親に子どもたちを会わせることができていません……。無神経に旅行を楽しんでいる観光客の話を聞くと悔しくて……」

 そう憤るのは東京都に住む沖縄県出身の女性(42)。

 全国で拡大し続ける新型コロナウイルスの猛威。最も深刻なのが沖縄県だ。8月21日には新規感染者数が800人を超え、人口比の感染者数は世界『最悪レベル』とされた。

「ノーマスク」で大騒ぎする若者

 群星沖縄臨床研修センター、センター長の徳田安春医師は危機感を募らせる。

「沖縄県民が受けたPCR検査の陽性率も15%を超えています。病床も埋まり、医療機関の逼迫がかなり深刻です」

 では、なぜこうした状況になってしまったのか─。

「最大の要因は人の流入です。7月、8月は夏休みで県出身者の帰省や、観光客も訪れた」(徳田医師、以下同)

 緊急事態宣言中にもかかわらず今年7月に同県を訪れた観光客は約25万人。

 夏休みやお盆休みシーズン。加えて格安航空券も販売されていた。特に目立った旅行者は10代後半から30代の若者たちだったという。

「若者は新型コロナに感染しても症状が軽い、もしくは無症状。感染に気づかず、ウイルスを広げる『スーパースプレッダー』となる条件を満たしている人が多いんです」

 感染に気づかないまま移動した先でウイルスをばらまくケースがあるとみられる。

 街の様子はどうなのだろうか。緊急事態宣言中の沖縄では酒類提供店舗に休業要請が出ており、飲食店の営業時間は20時まで。8月21日に主要観光地の国際通りを通りがかった沖縄県在住ライターはため息をついた。

「深夜まで開けている店や街中で騒ぐ観光客らしきノーマスクの若者が目立ちました」

 商店街内で沖縄民謡を響かせるライブ居酒屋や、駐車場にテーブルを並べた『屋台』風の営業など、ごった返す店もいくつもあったという。

 国際通りの歩道には客引きと見られる若者数人が全員ノーマスクでたむろしていた。 

 旅行業関係者は複雑な胸の内を明かす。

「沖縄は観光で成り立っているので、お客さんが来ないと生活できない。でも、感染は怖い。飲食店や土産物店でマスクもせず大声で話しながら商品を見て回る人もいて困ります」

 観光客はお金を落とすとともにウイルスも落とし、県民にも広がっていく。

玉城デニー知事の危機感も薄い

 同県の玉城デニー知事は全国知事会(8月20日)で航空機の搭乗条件にPCR検査を制度化することを要望した。

 前出の徳田医師は憤る。

「もっと早くに来沖前のPCR検査やワクチン接種を義務化できればよかったんです。感染拡大の原因として観光客だけを責めることはできません。国や県、航空会社にも責任の一端はあるんです」 

 感染力の強いデルタ株に感染している無症状の観光客が来沖すれば、当然蔓延する。

「去年の5月、6月の新規感染者数はゼロでした。そこで水際での対策を徹底すればよかったのにそのあとがザルでした」(徳田医師、以下同)

裏通りの駐車場には屋台で営業する店舗も。近隣住民とトラブルになることもある

 離島の沖縄は飛行機や船以外での来県はできない。そのため、例えば格安航空券でも金額を少し上げてPCR検査を含め、来県者の検査を義務化したり。陽性者は即隔離するなど独自の対策をとることで感染拡大を防ぐことができたのだ。

 沖縄県の危機管理能力のなさや変異株への見通しの甘さが露呈した結果だという。

「県民は外出自粛をし、お盆などの行事もまともにできない。それなのに県は沖縄に来る観光客は野放し。感染拡大は県民の責任と言われれば怒りを買います。菅義偉首相の危機感の薄さが問題になっていますが玉城知事も同様です。観光と経済を両立させるならそれ相当の対策をとる必要があります」

観光客は野放しの一方、県民は不自由な生活を強いられている。

「体育施設を含む公的施設は全面閉鎖。県の“お願い”生活は確実に県民の体力を奪っています」(前出のライター、以下同)

 懸念するのは持病や認知症の発症や悪化だ。

「行き場を失い大型商業施設などに集中。その中でウオーキングをする高齢者も多いんです。そこでコロナ陽性者だが、無症状の観光客と接触し、感染が拡大しています」

 多くの県民は観光客が沖縄で発症した場合を心配する。

「発症して陽性になれば帰れないので沖縄で療養することになります。観光客で病床が埋まれば県民の命が脅かされます」(前出の観光業関係者)

 こうした現状に県民の怒りは頂点に達しそうなのだ。入院する理由はなにも新型コロナに限らない。脳卒中や心筋梗塞、大動脈解離など突然起きる疾病。事故に遭うことだって考えられる。

沖縄県は「お願いしか出来ない」

 県民の命が危うくなった時、誰がどう責任を取るのか?

「県政へのあきらめと不信感が強まっています。沖縄では観光業界に誰も強く言えませんが、本音では観光客を止めてほしい。基地問題はすぐに動いて強い態度を示すのだからコロナも同様にやってほしい」(前出のライター)

 沖縄県はどのように危機感を抱いているのだろうか。

コロナに無関心の若者たちが沖縄旅行へ行くケースが目立ってきたという(写真はイメージです)

「県では去年の7月から沖縄に来る前のPCR検査を呼びかけています。ただ、そのお願いを県からは県民にしか言えません。ですので、観光客に対しては国から呼びかけてほしいと訴えています」(県の担当者、以下同)

 北海道や沖縄への航空便搭乗者を対象にした国のPCR検査の受検率は4%ほど。強制力がないため、要請を無視する旅行者は少なくない。

「法律上、検査を義務づけることはできません。県としては“来ないでください”としか言えません」

 検査への強制力も罰則もない。そのため、県では実効性の高い法案の施行を国に要望してきたという。

「感染は沖縄県民の中で広がっており観光客だけが悪いわけではないんです」

 前出・徳田医師が提案するように検査を繰り返したり、濃厚接触者の追跡調査をすることはできないのだろうか。

「やる予定はないです。人手も足りませんし、コスト面などを考えても現実的ではない」

 県からの回答は終始「お願いをしている」にとどまった。

「観光客に完全に来ないでとは言えません。なので、リスクを抑える対策を考え、実行しなくては沖縄県の感染は止まりません」(徳田医師)

 夏休みは終わったが秋の観光シーズンが始まる。

「沖縄で感染して帰る可能性もあります。もっと落ち着いてから来てほしいです。私たちも我慢しています」(前出の観光業関係者)

 県民の願いは旅行を計画する人々に届くのだろうか─。