鎌田實先生

 人と自分を比べて一喜一憂しているあなた。緩やかで近すぎない人との“縁”をつないで、孤独を否定的に捉えず、ソロ立ちを目指してみてはいかが?

自己肯定感を育てる「孤独の力」

「“ちょうどいい孤独”を楽しんで、今こそひとり立ちならぬ“ソロ立ち”をしよう」

 医師で作家の鎌田實先生の、こんな提言が話題となっている。

 高齢化が進む日本において、高齢者の孤独はいまや社会問題。2019年の厚生労働省の調査では、65歳以上の49・5%がひとり暮らしであることが明らかに。また2021年の内閣府の調査では、日本の高齢者の3割が「友達がいない」と答えた。それでもあえて鎌田先生が孤独をすすめるのには、理由がある。

大切なのは、孤独と孤立は別ものだと理解すること。ひとり暮らしの高齢者を“かわいそう”とひとくくりに決めつけ、同情するのは大きなお世話かもしれませんよ」(鎌田先生、以下同)

 新型コロナウイルスの発生から、はや2年。この状況下での、鎌田先生が提案する“ちょうどいい孤独”とは─。

「地元に帰省できず、親にずっと会っていない」

「孫にも友達にも気軽に会えない」

 と、人間関係の断絶状態を嘆く声が多く聞こえてくる。そのいっぽう、堂々と“おひとり様”を楽しむ人も増えた。

「人間はもともと、群れたいという願望と、ひとりでいたいという欲求の、両方を併せ持つ存在です。最近は、ソロキャンプが流行していますね。私がウォーキングでよく訪れる蓼科湖にも、若者から中高年まで、ひとりでキャンプを楽しむ人たちがたくさんいます。人間は、やはり孤独に魅力や憧れを感じるものなのだと改めて感じます」

若い世代だけでなく最近ではシニアのソロキャンパーも多いという

 ひとり時間を楽しめるようになるには、年齢は関係ない。むしろ、60歳以上の人たちにこそ“ちょうどいい孤独”が必要だという。

「人生の最後は個人戦です。人生100年時代、配偶者や子どもがいても、最後はひとりになるケースがとても多い。

 元気なときからひとり時間を大切にして自分を持っている人は、何が起きても強い人間でいることができます。

 僕は緩和ケア病棟などで、たくさんの死に接してきました。最期に自分の人生に満足して死ねるかどうかは、しっかりした自己肯定感があるかどうかだと感じています。この自己肯定感を育てるのが、孤独の力なんです」

 孤独の力には、いったいどんな効果があるのだろう。

「ひとり時間を大切にすることで、自主性や集中力が高まり、自分の価値観がはっきりしてきます。また、人の目を気にしすぎないようになり、人生の立ち位置が美しくなってきます。この積み重ねが、自己肯定感を高めます。そしてなにより、孤独を知るからこそ、人を大切に思い、愛することができるのです」

他人との縁を切らず、ほどよい距離感を保つ

 ここで気をつけなければならないのは、盲目的に「孤独はいいもの」と思い込み、社会から孤立してしまうこと。望まない孤独は、むしろ心にも身体にも悪影響を及ぼす。アメリカ・ブリガムヤング大学の2015年の研究では、孤独感や社会的孤立、ひとり暮らしは、死亡率を高めるという結果となった。

 であれば、“ちょうどいい孤独”とはどういうものなのか。鎌田先生は、昨年亡くなった脚本家の橋田壽賀子さんとの対談が印象に残っていると話す。

「90歳を過ぎた橋田さんは“夫も亡くなってひとりだけど、私は友達がいないし、いらない”と言っていました。でもよく聞いてみると、社会とのつながりは十分にあったんです。かかりつけの病院のスタッフ、通っていたジムのインストラクター、行きつけのレストランのシェフなど、外に出ればおしゃべりする人があちこちにいた。

 べったりと付き合う人間はいなくとも、社会との緩やかな縁があったんです。修行僧のように他人との縁を断ち切るのではなく、自身はしっかり自立しつつ、自分が気持ちいいと思える度合いで縁を保つ。それが“ちょうどいい孤独”なんです」

 自分にはたくさん友達がいるから関係ない、と思う人こそ、友達との縁は大事にしつつ、ひとりでも楽しめる練習をしておく必要がある。まずは、孤独を否定的に捉えるのではなく、積極的に楽しめるような“ソロ立ち”を目指すのがよさそうだ。

「興味があることを、ひとりで楽しむ勇気を育てましょう。まずはひとり図書館、ひとり映画、ひとり美術館、ひとりランチなどに挑戦してみるとよいでしょう。ひとりで行動すると、自己決定ができるようになり、より自分らしい、新しい人生を生きることができます。まさに、人生の二毛作です」

 夫婦2人暮らしでも“ソロ立ち”の練習は可能だという。

「夫が定年退職したなら、妻も定年退職しましょう。毎日が無理なら、週1回でもいいんです。妻は自分のしたいことをするためにひとりで出かけ、夫は自分の食事は自分で作る。それだけで家の空気が変わります。

 仕事ではきちんとしていても、生活の自立度が低い男性は多いもの。でも夫婦がお互いに少しずつ自立度を高めていけば、いずれどちらかが亡くなってひとりになったとしても、あわてずに生きていけるはずです」

他人の人生と比べても、自分の人生は変わらない

 日本人は特に、自分と他人を比べて孤独を感じやすい傾向がある。

「あなたはいいわよ。娘さんが近くに住んでいるから」「ご主人が元気なあなたには、ひとりになった私の気持ちはわからないわよ」

 など、どうしても、他人と比べて悲観してしまいがちだ。

「他人と比べても、自分の人生は何も変わりません。きちんと“ソロ立ち”していれば、他人と比べなくとも、自分は自分だとゆるぎない生き方ができるはずです」

 また、一見にぎやかそうに見える家族でも、そのなかで孤立を感じている人は多いと鎌田先生は指摘する。

「ドラマのような、理想的な家族なんてそうありません。毒親や虐待などさまざまな問題もあり、家族の中で孤立感を抱えている人がいるのも現実なのです。家族や絆は絶対、といった価値観を見直し、自分という存在を中心に考えてみましょう」

 都市部では、孤独死も増え続けている。国土交通省の調査では、2018年に東京都区部で孤独死した人は5500人を超え、過去最高であった。

「孤独死は悲惨だ、大問題だといわれます。もちろん、望まない孤独死は問題です。でも、ひとり暮らしで病気になり、最後はやはり自宅で迎えたいと願う高齢者は増えています。そんな人たちにとって、孤独死は自立死だと思うのです」

 多くの在宅医療患者を診てきた鎌田先生。肺がん末期のある女性は、最後までひとりで生き抜くことを選んだという。冷蔵庫に、

「もしわたしが倒れていてもあわてて救急車を呼ばないで。十分に生きてきたから満足よ」

 という友人たちへのメッセージを貼り付け、毎日を過ごしていた。

「死の間際に、在宅医がそばにいればそれに越したことはありません。でも、もしいなかったとしても、彼女は最後までひとりで生き抜く覚悟がありました。自立した強い精神を持つ人にとって、孤独死は悲劇ではなく尊重すべきもの。立ち会う人のいない死が、すべて悲しい死とは限らないんです」

 ひとり暮らしでも緩やかな縁があれば、在宅医や友人、近所の人などがすぐに異変に気づいてくれるはずだ。最期は自宅で、という高齢者の意思を、「かわいそう」「悲惨」と決めつけるのは失礼なことなのかもしれない。

「人は老いていつか死にます。死ぬときに“結構面白く生きたな”と思えれば、そのときに誰がそばにいるかは重要ではないのです。自立した生き方をしていれば、納得した死が迎えられるはず。

 そのために必要なのが“ちょうどいい孤独”です。暑苦しい縁にとらわれず、緩やかな縁をつなぎながら、自立の練習をしていきましょう」

 コロナ禍のピンチを、自分の生き方を見直すチャンスに変えていきたい。

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60代からはソロで生きる ちょうどいい孤独』
 鎌田先生の提唱する“個立有縁”の生き方のヒントが詰まった著書。(かんき出版 1540円)

鎌田實(かまた・みのる)
 東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院へ赴任。チェルノブイリ、イラクへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、諏訪中央病院名誉院長、日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本イラクメディカルネット代表、地域包括ケア研究所所長。

取材・文/植木淳子