遠藤英三郎氏。カルビー株式会社執行役員。同社にて多数のヒット商品を開発。現在の役職は品質保証本部本部長

《あなたが神か》《これはお菓子界のスティーブ・ジョブズ》。ネット上で、ある男性に対し称賛の声が上がった。カルビーの公式note(文章や動画などを使った記事を投稿できるサイト)に掲載された開発本部長(当時)である遠藤英三郎氏のプロフィールに対してだった。

《1984年入社。4年間の工場勤務後、「ピザポテト」のほか「堅あげポテト」や「ア・ラ・ポテト」「ポテトチップス 九州しょうゆ」など多くのロングセラー商品を開発》

 確かにこれは“神”かもしれない。連ねられた商品名は日本において“知らぬ者はいない”といっても過言ではないのではないか。遠藤氏が開発部署に異動して最初に開発に携わったのが、『お好み焼きチップス』。これがよく売れた。

お好み焼きチップス 写真提供/カルビー株式会社

その次はなんだと模索していたときに、同じく丸い形ということからピザが思い浮かびました。お好み焼きは和風で、ピザは洋風ということで、そこにすごく可能性を見いだしたんですね。またチップスの表面にチーズフレークをふりかけて付着させていますが、当時このチーズフレークという面白い素材があることを知り、これを使って面白い商品を作れないかと思っていて。チーズフレークがポテトチップスについていることが、パッと見てわかることにこだわりました。見た目で楽しさを伝えたかったんです」(遠藤氏、以下同)

若気の至りで作り始めた“『ピザポテト』

 お笑いコンビ『かまいたち』は自身のユーチューブチャンネルにて、“好きなスナック菓子ベスト5”を発表。ともに2位にセレクト。唯一意見が合ったのが『ピザポテト』。

ピザポテト 写真提供/カルビー株式会社

「半分くらいにしとこ思って、半分で終わったためしないな」(濱家)、「発明者に会いたいやつ。これをプレゼンで会議に出したときに、どのように会議が盛り上がったんか知りたい」(山内)、とコンビで激賞した。実際は?

「どうだったかなぁ(笑)。最初から“ピザポテト”があったのではなく、すでに『イタリアンピザ』という商品があって、その後に『ピザチップス』があって、その後に『ピザポテト』が生まれました。

 社内会議にかける前に担当者だけで進めていたので、誰に気兼ねするわけでもなくできたんですけど、そういう意味ではラッキーだったかもしれないですね。どうやって作るかとか、製造所でどういう問題が起きるかとか、そういったことをまったく検討しないでいきなり作り始めました。若気の至りで、勢いだけでいっちゃったところはありますね

イタリアンピザ(写真提供/カルビー株式会社)

 発売後の会社の反応は?

「“そうか、これは応援してやらねばな”ということで、“なにやってんだ”という雰囲気が変わりました。イタリアンピザのときは、キッチン用のスコップを持って、コンベアで流れてくるポテトチップスにチーズをかける作業を、1日8時間くらい延々とやっていました。作るのにすごく苦労しましたが、すごく売れたんですね。それでみんな黙っちゃいましたね

『堅あげポテト』は全国展開まで“12年”

『堅あげポテト』は、当然ながらあの“堅さ”を出すために製法がまるでほかと違う。

堅あげポテト うすしお味 写真提供/カルビー株式会社 

「普通のポテトチップスは、スライスしてから水やお湯で洗って、一定の色合いを出す調整をします。『堅あげ』の場合は、切ったイモをそのまま揚げる。堅さを生み出すためには洗ってはいけないんです。美味しさも出てこないし、堅さも出てこない。堅あげはすごく原料を選ぶ商品なので、使える原料が限られていた。また、生産する機械が望む品質に至っていなかった。そのため最初はじゃがいもの産地である北海道に機械を置き、そこだけでの販売でした。全国展開まで12年。下積みが長い商品です

 ヒット商品は、アイデアから製品化までどのくらい月日がかかるものなのか。

「『堅あげ』は、これでいくぞと腹を決めるまでには5年くらいだったと思います。5年は短いほうかもしれません。いろんな商品にいろいろなステージがあり、課題がたくさんある。原料の手当から生産のプロセスを整えるまでには5年や10年はかかってしまいますね。『ピザポテト』はわりと簡単にできましたが、量産化のシステムが完成するまでに10年ほどかかったと思います

1992年ピザポテト(最初の「ピザポテト」パッケージ) 写真提供/カルビー株式会社

 ヒットメーカーは、新商品を作るとき、何を考えるのか。

まずは世の中にないものを出したいということ。世の中にすでに出てしまっているものでも、そこに改良、改善をして新しく見せることも含めて、世の中にないものをと考えています。開発するうえでは、この商品は何のために存在しているのか、あるいはこの商品のよさは何かというところをしっかりと見極める。その商品を買っていただくための最大の特徴は何か。それをぶれることなく、品質を追究していくというところが、いちばん大事かなと思います

 なぜこれだけヒット商品を開発できたか。その秘訣は。

難しいですね(苦笑)。技術については絶えず網を張って見ておき、探していかなくてはダメだと思います。あとは人の意見をよく聞くことでしょうか。相手の感想、想いをまず聞くことが重要なことかなと思います。どこに共感してもらえて、逆に共感してもらえないのか。そこはよく聞くようにしています。

 もう1つは、そうは言いながら、ヒットを生むために必要なものというのは、やっぱりこだわりを持つことだと思います。『堅あげポテト』でしたら、“この堅さ”ですとか、『ピザポテト』だったらこの見た目ですとか、絶対に譲れないところがあるので、そこをしっかりと持つことですね

会社上層部から「ネーミング変更」の提案がくるも…

『堅あげポテト』開発時は別チームで『じゃがりこ』が開発されていた。当時の名前は“じゃがスティック”。こちらの方が名前だけでどんな商品かわかりやすいが……。

「ある日突然、即物的な名前から、“じゃがりこ”というなかばキャラクター的なブランド名に変わりました。堅あげポテトにも上層部から名前を変えるのはどうかという提案もありました」

 時代的な背景もあり、当時はまだ会社的にトップダウンな側面もあったという。

当時の社長は堅あげポテトをじゃがりこと同様に夢のあるブランドにしたかったのだと思います。ただ、いろんな人に聞いて、調査をして、いろんな名前を考えましたが、お客様の評価として堅あげポテトがよかったので、トップの意見として尊重しつつ、堅あげポテトに収束しました

 数多くのロングセラーとなったポテトチップスを開発した神の考える“次”は?

油は身体に絶対必要なものですが、そこまで油は要りませんというお客様も増えている。そういった方にフライじゃない商品も提供できるような準備が要ると考えています。直近で手掛けたのがフライに頼らない乾燥製法のものです。今までのドライフルーツともフリーズドライともまったく違う、カリッとした食感のりんごを使った商品などですね。

遠藤氏が直近で今手掛けたフライに頼らない乾燥製法を用いた『カリッとりんご』 写真提供/カルビー株式会社

 まだまだ職人技から量産に向けての仕組みを作っている最中の商品なので、今はブランド育成の苦しみを味わっているところです。ここがいちばん楽しい時期かもしれないですけど(笑)」

 苦しみが楽しい。そう笑える心こそ、ヒットメーカーの心得かもしれない。