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 外出するのは買い物のときぐらい。電話で誰かと話をすることもない。家族との会話とネットを見るだけが日常―。職場でのハラスメントや不妊治療などが原因で自宅にひきこもる主婦たち。増加の引き金をひいたのはコロナ禍だ。

 都内在住の40代主婦Aさんが数年ぶりの大風邪をひいたのは昨年の頭。ちょうどコロナ禍の巣ごもりが重なって、しばらくマンションを出なかった。しつこい風邪も春先には治ったけれど、気がつくと夏になっても外出のない生活を続けている。それどころか次第に自室にこもる時間が増え、家事にも支障を来すようになってきた─。

表に出てこない主婦たちのひきこもり

 自宅は少しずつゴミ屋敷化し、1年以上たった今、彼女はひきこもり主婦になってしまった。Aさんのようなケースは決して珍しくない。

「ひきこもり女子会を開くと、ここ2年ぐらいで50代、60代の参加者が増えています。主婦の方が多いです」と語るのは、一般社団法人ひきこもりUX会議で代表理事を務める林恭子さん。女子会を主催している彼女自身、実は20年間ひきこもりだった過去がある。

「いろいろな地域でひきこもり女子会を開催しますが、自治体の人たちは、毎回こんなに女性のひきこもりがいたんだ……と驚きます。それくらい女性のひきこもりは見えない存在」(林さん、以下同)

 なぜ主婦のひきこもりが見えなくなっているのか。2019年に発表された内閣府の40~64歳ひきこもり調査によると、ひきこもり状態にある人は全国で61万人。そのうち3割が女性だ。

 ただしこの調査では「主婦」「家事手伝い」が対象外となっている。「実際の数字はまったくわからない状態。表に出てこない数字を入れると女性のひきこもりは相当数いると思われます」

主婦になり“閉じてしまう”ケース

「不登校やひきこもりとは縁のなかった人が、主婦になって初めてひきこもりになることもある」と林さんは言う。原因はさまざまだが、子どもがいないことが引き金になるケースもある。例えば30代Bさんの例。

 明るく気さくで友人も多く、休日は遊び回っていたというBさんがひきこもり主婦になった原因は不妊治療。治療に専念するため、やりがいを感じていた仕事を退職。しばらくは友人たちとランチや旅行を楽しんでいたが、周りの子育て話や仕事の話題がつらくなり、だんだんと連絡を取らなくなった。現在では週に1度の買い物でしか外に出ないまでになってしまったのだ。

 ひきこもりを増加させた原因はコロナ禍。巣ごもりを強いられた2年ほど前から現在まで、緊急事態宣言が明けてからも自宅にこもりきり、という主婦が後を絶たない。

「夫が在宅勤務になって、常に顔を合わせるといった家庭も多い。妻の家事量が増え、負担が大きくなったことで精神的にダメージを受け、ひきこもる、という主婦も増えています」

 会社やパート先でのパワハラやセクハラ、マタハラによるトラウマからひきこもりになるケースも。そんな彼女たちに共通するのは「生きづらさ」だという。

 ひきこもりUX会議が2019年に行った調査によると、ひきこもる女性たちの99%が「生きづらさを感じている、感じていた」と回答。そのように感じる原因のひとつは「自己否定感」。

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「ひきこもりから抜け出せない女性たちは、『こんなダメな人間は世界で私だけ』『社会の役に立てない私は存在していていいわけがない』といった自己否定に苦しんでいます。特に主婦だと夫や子どもに対して『いい妻でいられない』『こんなダメな母親でごめん』という気持ちが加わってしまう」

 誰かに相談して、少しでも心を軽くできないものだろうか? 林さんは首を振る。

「独身の友人から『結婚したんだからいいじゃない、食べるのに困らないし、主婦の肩書もあるでしょ』と言われたら何も言えなくなる─というケースも」

 精神的に参っているときに「女は主婦になればいいんだからいいよね」と言われてしまうと、助けてほしいと声を上げづらくなってしまう。ひきこもり主婦は自宅の一室で孤独な戦いを強いられている。

抜け出すための一歩を

勇気を出してつらい状況から一歩踏み出し、ひきこもりの支援窓口にたどりつく主婦もいる。しかし、助けを求めたひきこもり主婦たちはそこで傷ついた心をより深く傷つけられるということも多い。その要因のひとつが当事者である彼女たちと支援現場の認知の差異。

 ひきこもりというと10代~30代などの若い世代の男性が多いと思われがち。実際に自治体の支援窓口への相談者は若い男性が多いというアンケート結果もある。しかし、内閣府の調査結果にあるように「主婦」という肩書によって彼女たちはひきこもりと認知されず、時には「甘え」と認識されてしまう場合も。中には叱責や説得されたというケースもあるそうだ。現状を変えたいと勇気を出した行動を否定されてしまい、より声が上げられなくなる。

 救われる場所はないのか。林さんは「専門的な医療機関や行政などの支援よりも、ひきこもり女子会のように当事者同士で交流することがまず第一」とアドバイス。実際に参加者からは「自分の言っていることに初めて共感してもらえた」「やっと思っていることを話せた」「生きていてもいいんだと思えた」という声がある。

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 長年抱え込んだ心情を、似た境遇の参加者たちに打ち明けることで顔つきが明るくなった女性が多い。もちろんすべてが解決したわけではないが、「打ち明けられる、自分を受け入れてくれる場所」を見つけることが大事なのだ。

 また、参加者の中には、同じような境遇の女性が自立するために努力しているという話に勇気をもらい、現状を打破するためのさらなる一歩を踏み出せた女性もいる。ただ、ここで間違ってはいけないのはひきこもりの「ゴールが何であるか」。

「就労や自立することが最終的な目標として掲げられることが多いが、唯一の解決ではないと思います。外に出て、多くの人と交流できるようにならなくてもいい。ほんの少しの人間関係を築くなど、要は自分の心が安定する環境を手に入れること。外に出ることが最終目標ではなく、今の自分でいいんだと思えることが何よりも大事です」

お話を伺ったのは……
一般社団法人ひきこもりUX会議
代表理事 林 恭子さん

 高校2年で不登校、20代半ばでひきこもりを経験。同じような経験をした当事者たちと出会い、少しずつ自分を取り戻す。現在はイベントの開催や講演会・研修会の講師、執筆などを通じ当事者の立場から発信している。


取材・文/オフィス三銃士