コロナのこと、高額療養費制度のこと、長妻昭衆議院議員に聞いた!

 コロナ感染の拡がりが止まらない。

 8月5日の東京都の新規感染者数は3万7767人、日本全国でなら23万3769人。「発熱しても発熱外来にかかれない!」「発熱外来に電話をしてもつながらない!」などの声も多く、実際にはもっと感染者数は多いだろうと言われている。

国のコロナ対策、一体どうなっちゃってるの?

 厚生労働省の調べによると、感染して療養している人は5日の時点で183万人いて、そのうち自宅療養者は145万人だという。「第6波」でピークだったときの自宅療養者が約58万人というから、いかに今が異常事態かお分かりだろう。

「オミクロンは比較的重症化しにくいのだから家に寝ていればいい」

 そういう声もたびたび耳にする。しかし、それは強者の声だと自覚してほしい。高齢者や基礎疾患ありの分類には括れなくても、普段から身体や心に持病や不安がある人は? ひとり暮らしで周りに誰も頼る人がいなければ? たまたまケガなどをしていて身の回りの世話が家の中でも難しい人は? 誰もが簡単にひとり寝ていればなんとかなるわけではない。

 そもそも、これから自分の病状がどうなるか見えない感染症にかかりながら、十分な検査や治療も受けられないまま大人しく寝ていろ、というのは乱暴だし、国の健康危機管理行政の敗北ではないだろうか? こうして市民の側が分断されてる状態が続いていることは、国の怠慢を私たちが背負っているように思えて仕方がない。

 感染者数が抑えられていた、例えば昨年秋や、今年の春頃に、どうしてもっと発熱した場合の検査システムや、発熱外来、入院病床、療養についての詳細を制度立てておかなかったのか? コロナ禍が始まってからすでに2年半以上、いまだこんなことを言ってる国は世界でも稀なのではないだろうか? 

 ツイッターを見ていると、海外では現在でも無料でPCR検査キットや抗原検査キットが配布される国もあれば、ニューヨークのような大都市では以前と同じように街角のあちらこちらに無料のPCR検査テントがある。都内でも無料PCR検査場はあるものの、どこも大行列で整理券を配ったり、発熱症状があると検査が受けられなかったりと、現状に合致していない。

 そんな中でいよいよお盆休みを迎えた。人がおおぜい移動することはもちろん、基幹病院以外の街の中小クリニックはお盆休みに入るところも多い。ただでさえ発熱外来は当日の受診が難しいというのに、どうなってしまうんだろう? 誰もがこれまで以上に不安を抱え、ビクビクと怯えたお盆休みとならざるをえない。

 一体どうしてこんなことになってしまっているのか? 元・厚生労働大臣で、コロナ対策にずっと声をあげ続けている長妻昭衆議院議員に話を伺ってみた。

100件以上病院に断られ自宅で死亡

――国のコロナ対策はいちばん最初から何も変わってないという印象しかありませんが?

長妻昭衆議院議員

今年2月の予算委員会(2月21日)で、岸田総理大臣に政府の司令塔機能の強化を再度求めました。しかし、それはずっと果たされていません。私たち立憲民主党は1年以上前、昨年6月に『国民の命を守るための検査拡充・病床確保・医療従事者等支援3法案』というものを提出していますが、自民党の反応がなく審議されないので、この2月に改めて司令塔機能の強化を盛り込んだ『オミクロン・感染症対策支援法案』を提出しました。しかし、これにも反応はありません。この質疑で岸田総理は『現下の危機的な対応において必要なのは組織論ではない』などと答えていましたが、そうではないですよね?」

――国が指揮系統をしっかり立ててほしいと、私たち一般市民でさえ感じます。

たとえば先日、品川区の83歳のがん患者さんの搬送先が見つからず、感染判明から10時間で亡くなったことがありました。容態が悪化していて、区内の『ひなた在宅クリニック山王』の田代和馬院長が駆けつけ、患者さんのマンションに来ていた救急隊員に『100件ぐらい電話したんですか?』と聞いたら、『100件以上問い合わせた』と言われたそうです。しかし、これ、都内の病院だけで探してるんです。同時期に埼玉県では病床が空いていたようでした。

 医療は基本的な法律の規定で、都道府県が管轄し、最終責任を負う仕組みなんです。ただ、それは平時の仕組みです。国が司令塔となって調整して、もっと広範囲で搬送先を探せるようにならなければ、助かる命も助かりません。もう、ずっと、こうなんです

――今も平時だと思ってるんでしょうか?

「平時ではないので、変えなくてはいけませんよね。ただ、国民の中からそんなに、とんでもなく批判する声が上がらないし、選挙も終わった、と責任を負うことを避けています」

――オミクロンは軽症だから家で寝てろとか言われますが、すごく乱暴だなって気がします。

「みなさんこれだけコロナ禍が続き、疲れ果ててます。いろいろな規制が課せられることに、うんざりしている。コロナ禍になって最初はそれこそ誰がいつ、自分が死ぬかもしれないという恐怖で自粛もした。しかし、今分かってきたのは亡くなるのは高齢者や基礎疾患のあるワクチンを打っていないような人が大半で、自分はそうじゃない、そんな一部の人のために行動制限かけられるのはイヤだ、って考える人が多い。だから政府としては大多数の人が喜ぶ行動制限なしを選択するんです。

 リスクのある人たちは喜ばないけど、より共感を呼ぶようなメッセージしか出さないから、社会が分断されるんです​。本来、政治とは、汚れ役を買って出て、みなさんはイヤかもしれない、でも、こういう方々を守るために今やらなきゃいけないことがあるんだと、みなさんの親御さんのことを想像してくださいと、総理は記者会見して言わなきゃいけないんです。でも、それは政府としたらリスクがあることだからやらないんです

――どうしてそんなことに……?

「日本はみなさん、自己責任だと我慢することに慣れてしまっている。いろいろな問題で、たとえば非正規雇用の問題でもそうでしょう? 自分が悪い、自分のせいだって。今度も最低賃金が31円上がった、って大々的に言う。本来なら最低でも1500円を目指して少しずつやっていくべきでしょう? そうはならない」

 ああ、ほんとうにそうだと愕然とする。私たちは他国に比べてもだいぶ低い最低賃金で働き、しかも値上ラッシュ。そんな中でジッと耐えているばかりだが、先日ネットをにぎわせた「えっ? 医療費負担がまた増えるの?」と慌てたニュースがある。

 それは高額医療費負担を、財務省が「廃止」を検討しろと言っているというニュースだ。毎日新聞が7月27日付で報じた。瞬く間にツイッターで広がり、「高額な医療費はどうしたらいいのか?」「国民健康保険料は値上がりするのか?」とちょっとした騒ぎになった。

「無言の圧力はありえる話です」

――長妻さん、これはどういうことなんでしょうか? 1か月に窓口で支払う医療費が高額になったときに支払われる高額療養費制度がなくなるんでしょうか?

問題の根は同じなんですが、でも今回あがっている高額医療費負担の廃止で、高額療養費制度がなくなることはありません。財務省の主計局は予算執行調査というのを定期的にやっているんですね。税金の無駄遣いをなくせってことです。

 今回指摘されたのは、1か月あたり80万円を超える高額な医療費が派生した場合の税金の負担です。つまり、がんの治療や事故で手術をしたとか、そういうときに80万円を超えた部分の、さらにその1/4を国が負担して自治体の国庫財政に入れているんです。その総額が今、920億円です。

 それが平成18年度には国保医療給付費に占める割合の2,5%ぐらいだったのに令和2年、一昨年には4,4%にまで上がってきているので、80万円以上ではなく、もっと90万円以上100万円以上とかに国の税金で払うのは減らせってことなんですね。それで今、厚生労働省と財務省が戦ってるところなんです」

――それは厚生労働省を絶賛、応援したくなりますが、もし財務省の言うとおりになったら、私たちには影響はないんですか?

(10割で)80万円以上の支払いが頻発する自治体が苦しくなりますね。そういうところはおそらく高齢者が多い地域とかで、そういう困難なところからお金を削るということが発生します。余裕のあるところから削るんじゃなくて、困難なところから削っていくというのはおかしいでしょう? 

 そうなってくると、やはり、その地域では国民健康保険料は上がります。さらに、80万円以上の高額医療費が続出するような事態になったら、暗に『ちょっとあんまり高額の医療やらないでしょ』と圧力がかかる可能性だってなきにしもあらず、ですよね。そこは合理的な説明はできませんが、無言の圧力はありえる話です」

――となれば、私たちにもやはり影響はありますね。

「そう言わざるを得ないですね。今、国民健康保険料は1741の自治体ごとに保険料が違い、差が大きいんですね。これを県内では同額に統一しようよ、というのを民主党政権のときから進めてきて、あと4~5年後には実現できます。せめてそれに合わせてこの改変をしてくれたら、弱い自治体が苦しめられることが少なくなります。そういう折衝が今行われているところなんですよ」

 私たちがツイッターでワイワイと騒いで心配した「高額療養費制度」はなくなることはないが、弱い自治体が苦しみ、それが私たちに影響してくる可能性がある、ということだった。

 こうしたニュース一つ一つ、ぜんぶを理解することは難しいけれど、わからないものに知らん顔をして、ただ従順に従っていては、私たちの生活はどんどん苦しくなるばかり。

 私たちはどんどん聞いて、どんどん声をあげていかなきゃいけない。自分たちの生活は、自分たちで守っていかないと、と改めてそう思った。まずはコロナ対策! 岸田さん、国葬どころじゃないでしょう? 私たちの命を真剣に守ってくれよ!なのだ。


和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生、政治など書くテーマは多岐に渡る。主な著書に『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)、『世界のおすもうさん』(岩波書店)、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』(左右社)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。