伊藤裕樹容疑者は酒を飲んでハイになったあとが怖い(SNSより)

「おめでとう、初音!」

 万雷の拍手の中、新郎・新婦はフラワーシャワーの花道をゆっくり進む。女友達に声をかけられ、純白のウエディングドレスがよく似合う新婦は、

「ありがとう」

 とブーケを持つ手を振って微笑んだ。

 約5年6か月後、結婚式の動画で幸せいっぱいの様子をみせていた新婦は、隣でエスコートしていた夫に顔を殴られ、亡くなった。

 自宅で妻の顔面を拳で殴打するなどの暴行を加えケガを負わせたとして神奈川県警瀬谷署に傷害の疑いで逮捕されたのは同県愛川町の自称建築業・伊藤裕樹容疑者(34)。妻の初音さん(26)は裕樹容疑者が乗る車の後部座席で死亡した状態で発見された。

「妻に暴行してたいへんなことになった」

「2月19日夜、自宅から約15キロメートル離れた横浜市内の路上に車を停め運転席で寝ていたところを確保された。“妻に暴行してたいへんなことになった”と連絡を入れて知人宅に向かう途中、この知人の通報で駆けつけた警察官が発見。車から降ろされると、気持ちを落ち着かせるように加熱式タバコをふかしながら“オレだって辛いんすよ”とか“だれもわかってくれない”“死にたい”などと泣きごとを言っていたらしい」(全国紙社会部記者)

 死因は頭部打撲による頭蓋内損傷。初音さんの全身には暴行を受けた複数の痕跡があり、県警は容疑を傷害致死に切り替えるとともに、日常的に暴力を振るっていた可能性も視野に調べる方針だという。

「取り調べに対し、“自宅で妻と酒を飲んだあとトラブルになった”などと経緯を述べ、殴ってケガをさせたことを認めている。妻を車に乗せて知人宅に向かった理由はわからないが、自宅で救急車は呼んでいなかった」(前出の記者)

亡くなった初音さんは小顔のクールビューティーだった(SNSより)

 容疑者宅は閑静な住宅街にある。3年前の秋、約2700万円のローンを組んで自宅を新築した裕樹容疑者は、初音さんと当時2、3歳だった長男と引っ越してきた。

「裕樹容疑者はいかつい細眉で奥さんは金髪。車をデコレーションし、ガラが悪そうに見えました。近所に洗剤を配って引っ越しの挨拶回りをするなど常識的な振る舞いだったのでどうかなと様子を伺っていたんですが、裕樹容疑者が仕事仲間や親族を自宅に呼んでの酒盛りが賑やか。自宅前やウッドデッキでバーベキューをすることもあり、決まって裕樹容疑者がキレて、後輩の若い男性を怒鳴りまくるんです」(近所の住民)

 酒乱――。そう呼んで差し支えないほど酒癖が悪かった。

 容疑者一家を知る人物によると、裕樹容疑者は親族が経営する建築会社で大工として働いており、後継者と目される“若棟梁”だったという。

「表に出ろ!」後輩を罵る怒声が響き渡って…

 毎朝5時半ごろ“若い衆”が車で出迎え、自分でハンドルを握る機会は少なかった。仕事終わりは車で自宅まで送らせ、妻子をピックアップして一緒に飲食店へ。夜遅く帰宅するとそのまま仲間を宅飲みに誘い、2次会が始まった。宴は午前0時を回ることもあり、寝静まった住宅街に「てめえ!」「表に出ろ!」などと裕樹容疑者が後輩を罵る怒声が響き渡った。

 周囲にはマウントを取りたがっているように見えた。

 近隣住民には迷惑な話。カーステレオをガンガン鳴らしたり、大音量でラジオを流して日曜大工に励んだり。騒音被害で110番通報されると、「あんたが通報したと警察から聞いた」とカマをかけて近隣宅に乗り込んだ。

 目撃者によると、

「警察なんか呼ばず直接うちに言ってこい。今後もかまわず大きな音を出すからな」

 と凄んでいたという。

 別の近隣宅の塀に車をぶつけたことも。損傷に気付いた住人男性が「伊藤くん、君だろ?」と問い詰めると、「えっ、ああ、いや」と曖昧な返事。運転免許を持つ初音さんが「あたし知らないよ。おめえじゃね?」と裕樹容疑者に引導を渡したという。

 子育てする母親は強し。初音さんは裕樹容疑者にマウントを取らせなかった。都合2度、自宅にパトカーを呼んでいる。夫婦間の口論で、もみ合いになり、髪の毛を引っ張られたと警察に訴えた。被害届こそ出さなかったものの、裕樹容疑者に「もうしません」と約束させている。

「初音さんはクールなタイプ。芯は強そうですが、裕樹容疑者に大声で言い返す様子はありませんでした。一度子どもを連れて家を出たこともあり、2〜3か月帰らなかった。ただ、家の外で旦那さんのグチをこぼすことは一度もありませんでした」(近所の女性)

 近隣住民の多くは裕樹容疑者が初音さんに暴力を振るっているとは思わず、遺体に複数の痣があったことに驚いている。

シラフのときはいいパパだった

 シラフのときはいいパパの顔を見せていた。

「自宅敷地内にウッドデッキをつくり、室内にバーカウンターをつくるなど改築に懸命だった。昔はヤンチャだったんだろうけど、溌剌としてて“大工なんで何でも言ってください。タダで直しますから”なんて言ってくれた。“子どもに補助輪付き自転車を買ってあげたのに乗ってくれないんすよ”と苦笑いしたり、幸せそうだった」(近所の男性)

 補助輪付き自転車に乗った長男を支えながら「いいぞ、いいぞ」と乗り方を教えていたこともあった。折り畳み式の太陽光パネルとポータブル蓄電池を最近購入し、中古で大型SUV車のランドクルーザーを買う予定だった。

缶チューハイ2本で呂律が回らなくなる

「家族や仲間とキャンプに行ってワイワイしたかったのだろう。奥さんは育児で忙しいのか、最近、親子のスリーショットを見なかったから。酒を飲むと攻撃性が出ちゃうみたいだけど、缶チューハイ2、3本でへべれけになるぐらい弱かった。すぐ酔ってフラフラと歩き、呂律が回らなくなって“おいっす”とか挨拶するんだ」(前出の近所の男性)

初音さんはSNSに結婚式の幸せいっぱいの様子をアップしていた…

 裕樹容疑者の空威張りが増長する中、長男の育児と家事に追われる初音さんは構ってばかりもいられなかったろう。

 事件があったとみられる夜、近隣宅は裕樹容疑者がすごい声で怒鳴るのを聞いている。初音さんらしき女性が、珍しく止めるような雰囲気の声を出したあと、怒鳴り声はピタッと収まったという。振動を伴う「ドン」という大きな音を聞いた住民もいる。

 6年前の結婚式、ウエディングケーキ入刀で「チューしろ、チュー!」とはやされた裕樹容疑者は、少しのけぞる初音さんの頬にキスをして笑った。

 結婚式に大勢の親族、友人らを招いて何を誓ったのか。