初代(写真左)と現在のからあげクン

 多くの人が口にしたことがあるだろうローソンの看板商品『からあげクン』。いまやコンビニを代表するホットスナックといっても過言ではない同商品が、今年2月に累計販売数40億食を突破。

鶏むね肉は廃棄されることが多い食材だった

 販売した『からあげクン』を並べると約80万㎞になるらしく、実に地球から月までの往復の距離に匹敵する─というから、文字どおり“天文学的”な売り上げを記録するメガヒット商品であることがわかるだろう。

 『からあげクン』は、'86年4月15日に定番の「レギュラー」が発売されると、その2年後には「レッド」が、そして'03年に「チーズ」が定番商品に仲間入り。現在、「瀬戸内レモン味」('19年)を加えた、4種類が定番として親しまれ、これまで登場したフレーバーの種類はなんと352種類に及ぶ('23年4月4日時点)。

 まさにホットスナック界のレジェンドともいえる存在だが、そもそもの話として、ローソンがコンビニ業界で初めてフライヤーを導入した、ということを知っている人は少ないかもしれない。

「ローソンのルーツはアメリカにあるため、日本に1号店が誕生した'75年当初は、コンビニというよりも惣菜店のようなお店でした。例えば、注文をいただいてからハムをカットして提供するといったスタイルでした」

 と説明するのは、ローソン広報部の谷恒和さん。デリカテッセン式の店舗を日本式に変えていく中で、「店内で調理をするホットスナックが誕生した、と伝え聞いています」と続ける。

『からあげクン』最大の特徴は、鶏むね肉を使用している点だ。今でこそ、ヘルシーな食材として人気を集める鶏むね肉だが、当時は認識が違った。同じくローソンの商品本部で、『からあげクン』を担当するシニアマーチャンダイザーの吉岡亜希子さんが補説する。

当時は鶏むね肉はパサつくため人気がなく、廃棄されることが多い食材でした。なんとか美味しく食べていただくことはできないかと試行錯誤を重ねて誕生したのが、脂肪が少なくヘルシーな『からあげクン』でした

 それまで唐揚げと聞くと、惣菜というイメージが強かった。しかし、“指でつまんで歩きながら食べられる”スナック感覚の『からあげクン』が登場したことで、唐揚げはネクストステージへと進化する。

 CMに、当時絶大な人気を誇っていたおニャン子クラブのメンバーを起用すると、若者を中心に人気が拡大。『からあげクン』をホットスナック界の革命児と呼ぶことに異論を唱える人はいないだろう。

 発売から37年がたつが、「低迷した時期はあるのですか?」と吉岡さんに聞くと、

「今に至るまでずっと売れ続ける人気商品です」と返答が。低迷期がないとは驚きだが、「現在の『からあげクン』は10代目にあたるのですが、時代の好みに合わせてリニューアルはしています」と明かす。

「'14年には原料の鶏むね肉を国産若鶏むね肉100%にするなど品質向上に努めています。また、しっとりしているお肉が好まれる風潮があるときは、『からあげクン』も同様にしっとりした味わいに。細かい部分を含め改良を重ねています」(前出・吉岡さん、以下同)

『からあげクン』の製法は門外不出で、担当者以外のローソン社員にはシークレットだそう。「担当者である私もサインをしないと工場の中には入れません」と吉岡さんが話すように、それだけローソンにおける『からあげクン』は特別な存在なのだ。もはや、“からあげサマ”と呼びたくなる。

今年2月に発売されたご当地限定『からあげクン』 

“とりあえずやってみよう”の精神で開発

 微に入り細を穿つこだわりがあるからこそ絶大な人気を誇る『からあげクン』だが、何といっても多種多様なフレーバーが登場することも魅力の要因だろう。なぜこれほどまでにバラエティーが豊かに?

お客さまに楽しんでいただきたいという気持ちが一番です。また、ローソンはチャレンジ精神を尊重する社風があります。私も幾度となくフレーバーの提案をしていますが、頭ごなしにダメと言われることはなく、“とりあえずやってみよう”の精神で開発しています。本社の社員だけではなく、エリアごとの社員から提案されることも少なくありません」

 例えば、今年2月には近畿エリアで『からあげクン 王将マジックパウダー味』、九州・沖縄エリアで『からあげクン うまかっちゃん味』などを発売。「『からあげクン』の特徴として他の企業さまとのコラボが多いことも挙げられると思います」と吉岡さんが説明するように、汎用性が高いことも人気を実現できるストロングポイントといえそうだ。

もちろん、中には商品化に至らなかったフレーバーもあります。例えば、チョコ味は試作品こそ作ったものの商品化されませんでした(苦笑)

 '13年には、『からあげクン』マニアの間では伝説化している北関東限定「ピーチ味」が発売され話題を集めたが、チョコ味も食べてみたかった……。

 一方で、こうした飽くなきチャレンジ精神があるからこそ誕生したのが、昨年に初めて販売された衣の中にソースを閉じ込めた「ソースinシリーズ」だ。第1弾として登場した「タルタルソース味」は、初週の売り上げが記録に残っている限りでは過去最高だそうだ。

「以前から、ファストフード店のチキンナゲットのようにソースをつけて食べたいという要望がありました。そこでディップする食べ方ではなく、はじめから中にソースが入っている新しい『からあげクン』を提案したいと思い、『ソースinシリーズ』は生まれました」

 恐る恐る週刊女性取材班もこんな要望を伝えてみた。「レギュラー、レッド、チーズがそれぞれ入った『からあげクン』を食べたいのですが……」。すると、吉岡さんは「アレルゲンの問題などで難しいんです」と申し訳なさそうに答えた上で、こう続ける。

「そういった要望が多いのも事実で、昨年は、衣はレギュラー、中はレッド&チーズの“1粒で3つの味が楽しめる”『3種のミックス味』を発売しました。もしかしたら再登場するかもしれないので、その際はぜひお試しください」

 一つのパッケージにバラで入れるほうが簡単に思えるのだが、あえて「3種のミックス味」を作ってしまうあたり、ローソンの『からあげクン』への熱量たるやハンパではない。

 実は、今年は『からあげクン』にとって節目の年でもある。現在、パッケージに描かれる妖精『からあげクン』は、'03年の「チーズ」登場とともにお披露目された(それまでは育ての親だという「からあげおやじ」が描かれていた)。

 つまり、今年は『からあげクン』パッケージ化&定番「チーズ」の20周年。「チーズ」が成人した─ということで、「大人になったチーズ味」を4月4日に発売した。こういった遊び心があることも、ファンから愛されるゆえんだろう。

私は商品本部に10年ほどいるのですが、お客さまからのお叱りの言葉や要望をいただくことが少なくありません。ところが、『からあげクン』担当になって、お客さまからお褒めの言葉をいただく機会が増えました。

 小さいお子さまがイラストつきでお手紙を送ってくれたりするんですね。『からあげクン』は本当に皆さまから愛されている商品なんだと感じます。これからもお客さまにワクワクを提供できたらと思っています」

 ロングランには理由がある。“国民のおやつ”の『からあげクン』は、まだまだ進化中だ。

 
’20年には、JAXAから『からあげクン』が宇宙日本食に認証された。野口聡一宇宙飛行士とともに宇宙にも行っていた!

 

全国に約14000店舗あるローソン。現在、『からあげクン』は1日に約75万食を販売する

 

今年2月に発売されたご当地限定『からあげクン』

 

 

初週の売り上げが過去最高を記録した「タルタルソース味」
からあげクン瀬戸内レモン味/238円