変顔をする塩塚容疑者(SNSより)

「この歩道は狭いし、自転車も通るから歩きにくいのは確か。でも、すれ違うときは道を譲り合って問題なく通行しているよ」

 と犯行現場近くの男性商店主は話す。

 東京・杉並区の路上で自転車に乗って前方から来た30代女性の顔をすれ違いざまにひじで殴り、ケガをさせたなどとして警視庁高井戸署は先ごろ、同区に住む職業不詳・塩塚和也容疑者(32)を傷害と暴行の疑いで逮捕した。

 警察の取り調べに対し、

「自転車とぶつかることが多くイライラした。身を守るため肘を上げるようにしていたが、最近では自分からぶつけにいくようになっていた」

 などと容疑を認めている。

 事件があったのは2月4日昼ごろ。

女性だけを狙った卑劣な暴力行為

「被害に遭ったのは30代女性2人で、いずれも子どもを乗せて自転車通行可の歩道を走行していた。塩塚容疑者はすれ違いざま、畳んだ肘をかち上げるように1人目の女性の顔面にぶつけると、構わず歩き続け、約2分後には150メートル先で2人目の女性に同じように暴行を加えた。プロレス技のエルボーを連発するように」(全国紙社会部記者)

 被害女性は近くの交番に駆け込み、1人は全治約2週間のケガ。目のまわりに青タンができるほどだった。歩行者を避けるように走っていたら、容疑者のほうから近寄ってきたという。

 現場の歩道はすれ違うのがやっとの道幅。並走する環状7号線は交通量が多く、車も結構スピードが出ている。大型トラックやバスは車線の端まで迫り、子どもを乗せたママチャリは安全に走れそうもない。

 犯行現場近くの飲食店女性(36)はこう話す。

「私もここから近い高円寺で同じような被害に遭ったんです。子どもを乗せて自転車を漕いでいたら、容疑者に似た男に肩パンされました。“は? 何?”と立ち止まって振り返ると、男は立ち去りながら“ふざけんな、ここは優先道路じゃねえんだよ!”と怒鳴ってきて。周囲の人たちも唖然としていました。ケガは負いませんでしたが、普通に痛かったですし、何より腹が立ちました」

 男は自分からぶつかっておきながら、その場をスタスタと立ち去っていった。

事件現場となった歩道は幅が狭く、すれ違うときの余裕があまりない

 憤まんやるかたないこの女性は、自転車に乗せていた小学校入学前の娘に向かって、

「ママはすごいムカついているから追いかけてもいい?」

 と尋ねたところ、

「やだ。ダメ〜」

 と怖がったため追跡を諦めた。

噂になっていた「エルボーしてくるヤバいやつ」

 逮捕前から、ママ友グループで「ママチャリを狙ってエルボーしてくるヤバいやつがいるから気をつけて」と情報共有していたという。

 同区に隣接する練馬区の女性は、《3月にウチもおんなじ被害がありました》とSNSに投稿。

《子ども乗せてるときに黒上下の男が近づいてきてエルボーされた。捕まってよかった》

 などと綴っている。

 人通りの少ない路上で端を走っていたのに男のほうから近づいてきてエルボーを食らい、驚きと恐怖でしばらく何もできなかったという。

 捜査当局は余罪の可能性も視野に入れ、慎重に調べている。

 道路交通法上、自転車は軽車両に位置付けられる。車道と歩道の区別があるところは車道通行が原則となるが、普通自転車歩道通行可を示す道路標識があったり、車道の通行が危険な場合などは歩行者優先で歩道を走ることができる。

 また大人の2人乗りは禁じられているものの、大人が小学校入学前の幼児を同乗させる場合、安全基準を満たした構造などを条件に2人まで乗せることができる。

 この事件は交通法規やマナー云々とは別次元の暴力行為だが、取材を進める中、こうしたルールを踏まえず自転車にやたら敵意をむき出しにするケースが複数発生していることがわかった。

 例えば、歩道を自転車で通行していただけで「車道を走れよ!」などと怒られた人が何人かいる。怒鳴られて驚き、自転車から降りて押して歩いた高齢女性も。年齢などからみて容疑者とは別の人物とみられるが、狭い歩道でイライラしたのだろうか。

 もちろん自転車のマナーが悪かったケースもあるかもしれないが、“交通弱者”である歩行者の立場をいいことに八つ当たりしているような印象を受けた。現場近くでは、車道を自転車で走っていた高齢者が大型車の張り出したミラーに頭を弾かれる事故も起きているという。

 さて、塩塚容疑者とはいかなる人物なのか。

塩塚容疑者(SNSより)

 自宅は家賃約8万円の賃貸マンション。オートロック式で間取りは1Kという単身者向けの防犯面に優れた物件だ。

 同じマンションの女性住人は、容疑者を見かけたことはないとしつつ、

「そんな人がここに住んでいるんですか。怖いですね。特にトラブルはないと思いますが……」

 と怯えた。

 住人同士の交流はほとんどないという。

 福岡県大牟田市出身で、県内の音楽系専門学校を経て上京。プロの歌手を目指していた。

歌手を夢見て上京した容疑者だったが…

 容疑者が通っていた福岡のダンス教室の代表はこう振り返る。

「約10年前、歌手になりたくてスキルとしてダンスを習いに来ていました。まじめにレッスンに取り組み、ダンスイベントの準備を手伝ったり、小さい子どもの面倒を見るなどやさしく気が利く青年でした。精神面が弱くネガティブに物事を捉えるところがあり、連絡なく休んだり、辞めるときも急に来なくなってしまった。でも乱暴なところはまったくなかったので驚いています」

 歌は普通の人よりはうまいレベル。ダンスではさほど目立っていなかったという。

「同世代の生徒が出演する発表会で歌う時間をとってあげたら、嫌がるふうもなく歌ってくれました。みんなで盛り上がるときは盛り上げ役をしてくれるなどノリのいいところもあった。ただ、在籍当時は女性関係については噂さえ聞いたことがなく、そんなにモテないルックスでもないのに彼女はいないようでした」(前出・同代表)

 アーティストの夢破れたのか、夢半ばか。音楽シーンには容疑者の名前はなく、事件報道によってあしき知名度を上げた。

 

塩塚容疑者(SNSより)

 

変顔をする塩塚容疑者(SNSより)

 

事件現場となった歩道は幅が狭く、すれ違うときの余裕があまりない