「45年間家計簿をつけてきた」山崎美津江さん(撮影/永禮賢)

「お金に振り回されない老後にするためには、50代のうちから少しずつ生活を変えていくことが大事です」

 そう話すのは、“元祖スーパー主婦”としてメディアにも登場する家事アドバイザーの山崎美津江さん。

老後に泣きを見ない!

 自身も現在は年金で暮らす家庭の主婦。2人の子どもにかかる教育費が終わった時には、定年後に向けた家計の見直しを経験した。教育費が減って家計に余裕ができると考えていたが、「出していたものを小さくするのは意外と難しかった」と振り返る。

「つい衝動買いをしてしまうように、やっぱりお金を使うことは一種の快感なんだなと思い知らされました。

 老後に備えて出費を減らしたいはずなのに、それまでの習慣や使いたい欲望に引っ張られて、支出額を一気に絞ることができませんでした。結局、1年以上かけて段階的にコンパクトにしていきました」(山崎さん、以下同)

 とはいえ、「“爪に火をともす”ような倹約生活へのシフトとは違う」と語る山崎さん。

山崎さんのプライベートスペース、「家事部屋」には、歴代の家計簿を保管。「食費は45年間で3500万円」(写真提供/山崎美津江さん)

「老後のお金を守るには、現役時代のように支出額だけを減らしてもダメです。“お金と時間”の両方の使い方を考えて暮らすことが大切。そうすることで、健康で穏やかな日々を過ごせると思いました」

 では、老後の家計を安定させるために、具体的に何をすべきか。自身の経験も踏まえ、定年後が現実的になる50代から備えておきたい5つのポイントを教えてくれた。

時間の使い方こそが金銭感覚を映す鏡

 最初にやるべきことは、時間の管理。お金の使い方を見直すのと同時に、時間の使い方を見直すことが重要だと山崎さんは指摘する。

「現役時代は、労働時間がお金になりますが、その感覚は年金生活になっても変えてはいけません。時間はお金です。定年後は自由時間が増えるからこそ、適当に時間を過ごしていると、お金の使い方もどんどん適当になって苦労する傾向があるのです。

 また、寝起きの時間を決めずにダラダラ過ごしていると、体調を崩しやすくなり、余計な出費を生む可能性も。お金だけを切り詰めればよいという考えでは、うまくいかないのです」

 次に手をつけたいのは、支出のレコーディング。1週間の支出を記録し、支出の総額を4倍して1か月のおおよその支出額を把握すること。

副食物には副菜や果物など、調味料には飲み物を含む。養は教養費(本)、職業費はこづかいなど(写真提供/山崎美津江さん)

「細かな家計簿でなくても大丈夫ですが、できればざっくりでよいので、食費、衣服費など項目を分けておくといいですね。記録することで“これは衝動買いだったな”と振り返り、出費のコントロールができるようになります。

 記録しないと、人間は都合の悪いことは忘れてしまいますからね(笑)」

 また、お金の管理がしやすいよう、定年後に向けて銀行口座を最低限に減らすとよい。

 “我が家の1か月の予算”がわかったら、次はパートナーと支出のすり合わせを。

「定年後の家計で苦労をしている家庭を見ると、どちらかが知らないうちに年金を使い込んでいることが少なくありません。年金が入ったその日に夫がパチンコで使ったという話も!

 ただでさえ、夫婦2人分の年金を合わせてやっとという生活になるのですから、きちんと家計を共有し、使える金額とどんな物やことにお金を使いたいかを理解し合うことが必須。それが老後のパートナーとの円満な暮らしにもつながると思います」

「生活の枠」を決めてパートナーと共有を

 山崎さんも夫の定年を前に大まかな家計の流れを共有し、「定年後、わが家は1か月これくらいで生活していけばいい感じよね」という金銭感覚を確認。

 予算は夫も見える場所に貼り、枠から出ないように暮らす。食費は副食物、主食、調味料に分けて計算している。

 4つ目は、お金と時間と同じく両輪で考えなければならない“お金と健康”。

 身体を気遣い、医療費を抑える努力も家計に大きなプラスとなる。例えば、山崎家では、健康を考え、週に1度、地元農家から無農薬野菜を買うことをルーティンにしている。

「買った野菜はその日のうちに下処理をして冷凍したり、漬物にするなどし、フードロスがないようにしています。それに、切ったりゆでたりして冷凍保存しておけば、使いやすいから料理をする気力がそがれません。

 毎日たっぷり野菜が採れて健康的なのはもちろん、スーパーのお惣菜やお弁当に頼る機会が減り、それも節約につながっています」

 日常のちょっとした健康づくりも大切に。脳への刺激を高めるために、ランニングマシンではなく外を散歩し、スマホやパソコンだけでなく積極的に字を書くことを心がけている。

 “保険に入っているから大丈夫”と、不健康な生活をしていては、明るい老後は過ごせないのだ。

定年後の長い人生は身体のメンテも節約

 また、人生の先輩からは、“定年前に目と歯と足のケアを”というアドバイスをされた、という山崎さん。

「先送りにしていた歯のメンテナンスを行い、自分に合った眼鏡と靴を新調しました。思ったよりお金がかかったので、現役時代に手をつけておいて安心だったなという印象です。

 当時は、60歳を目前に“今更、お金をかけてケアしなくても……”と思いましたが、70歳を過ぎて思うのは“60代ってまだまだ若い!”ということ。人生の先は長いので、先輩の言葉を信じて早いうちにケアをしてよかったと思います」

 こうしたお金や暮らしの知恵、生活圏で役立つ情報も老後の自己防衛には欠かせない。5つ目のポイントは、さまざまなことを相談できるネットワークを作ることだ。

「インターネットの口コミもいいですが、本音で教えてくれる地元のネットワークは心強い。今から地域の活動に参加するなどし、顔なじみをつくるのがいいと思います」

 最後に、この5つのポイントを押さえていき、年金生活を“愛着の持てる暮らし”にしてほしいと山崎さん。

「ケチケチ切り詰めて、不健康、不規則にダラダラ過ごしている日々を愛しいと思える人はいません。最近、私は40年前に買ったテーブルクロスを使って、クッションカバーを作りました。

 思い出の物を活かせたこともうれしかったですし、自分で作ったので節約にもなりました。そのクッションが置かれた部屋での生活が好きだなと思えます」

山崎美津江さん流お金を守る行動5

1. 時間=お金と心得る

2. 1週間の収支を書き出す

3. パートナーと老後のお金についてすり合わせる

4. 目・歯・足のケアをする

5. 生のネットワークを作る

「時間の使い方が乱れている人は、お金もきちんと貯められません」と山崎さん。時間の管理ができなければ、浪費や不健康につながり、負の連鎖に。

「1日の10分、20分をムダにしないことを心がけています」

山崎美津江さん●家事アドバイザー。1948年生まれ。長女出産後に雑誌『婦人之友』読者の集まり「友の会」に入会。整理収納、そうじの腕を磨き、メディアで“スーパー主婦”と取り上げられるほどに。著書に『帰りたくなる家』(婦人之友社)(撮影/永禮賢)
山崎美津江さん●家事アドバイザー。1948年生まれ。長女出産後に雑誌『婦人之友』読者の集まり「友の会」に入会。整理収納、そうじの腕を磨き、メディアで“スーパー主婦”と取り上げられるほどに。著書に『帰りたくなる家』(婦人之友社)
※山崎美津江さんの「崎」は、「たつさき」が正式表記です

取材・文/河端直子

 

副食物には副菜や果物など、調味料には飲み物を含む。養は教養費(本)、職業費はこづかいなど(写真提供/山崎美津江さん)

 

山崎さんのプライベートスペース、「家事部屋」には、歴代の家計簿を保管。「食費は45年間で3500万円」(写真提供/山崎美津江さん)

 

山崎美津江さん●家事アドバイザー。1948年生まれ。長女出産後に雑誌『婦人之友』読者の集まり「友の会」に入会。整理収納、そうじの腕を磨き、メディアで“スーパー主婦”と取り上げられるほどに。著書に『帰りたくなる家』(婦人之友社)(撮影/永禮賢)