左から里田まい、板野友美、押切もえ

 アスリートの妻は「夫の健康管理が第一」の務めであり「空いた時間に少しだけタレント活動」というスタンスが主流であった。そんな“枠”を飛び越えて、自分の生き方を貫く“起業妻”が増えている。夫がいても、子どもがいても、「私は私」。抜群の知名度を生かしてしっかり稼ぎ、社会にも貢献する―。彼女たちの“たくましすぎる”生き方戦略とは。

(1)売り出しアイテムが瞬殺で完売! オンラインショップをオープンした「里田まい」

 4月4日に「THE MINE COLLECTION(ザ マイン コレクション)」というアパレルブランドを立ち上げ、その第1弾としてトートバッグとクラッチポーチをオンラインで販売するやいなや、5日夜にはトートバッグが完売し、幸先よく事業をスタートさせた里田まい。自身のSNSでは夫・田中将大との仲むつまじいツーショットや、7歳と4歳の子どもとの近況、そして手料理などを紹介してきたが、突然の起業宣言。 

 一般にスポーツ選手の妻に期待されるのは、夫が最高のパフォーマンスを発揮できるように、栄養バランスを考えた食事を作り、リラックスできる家庭を維持すること。夫の成績が上がれば“良妻”であり、低迷すれば“悪妻”と言われてしまう。夫の成績がそのまま妻の評価につながる世の中だから、自分のことは二の次で頑張らざるをえない。

立ち上げの際にブランドにかける思いをつづった里田まい。画像は本人Instagramより

 里田もまた、モデル業は続けながらも妻として母として、内助の功を発揮していると誰もが思っていた中での、起業。生涯年俸200億円超といわれる田中マー君である。妻が働く必要はないし、嫉みもあって「お金持ちの道楽か」という声もあるが、「アメリカで暮らしているころから、約4年間の準備期間を経ている」と語り、昨日今日の思いつきではないことを明かしている。

 さらに《今後もシンプルだけど手にとっていただいた方の日常に寄り添えるアイテムをお届けする》と語っているので、次にはどんな商品が出てくるのか、期待して待っている人も多いはず。

「社長だけど1円ももらってない」

(2)あっぱれなスピード感! 2つの会社を経営する「板野友美」

 起業妻として先輩格になるのが、元AKB48で初代神7の板野友美。夫はWBC日本代表で、東京ヤクルトスワローズの高橋奎二投手。

WBC決勝戦では、その存在感がひときわ目立った板野友美。画像は本人Instagramより

 2021年に結婚、同年10月に女児を出産し、目いっぱいの幸せを手にしている板野だったが、何と出産後すぐにスキンケアブランド『ボーデベベ』を立ち上げている。さらにライフスタイルブランド『ロージールーチェ』を設立し、今や化粧品会社とファッション系の会社を経営する実業家である。

 その日常は、週3~4日、1日6~7時間は仕事の時間と決めていて、子どもが寝た後の夜10時~夜中の2時くらいまで家でできる仕事をやっていることもあるそうだ。しかも自身のユーチューブチャンネルによると、ロージールーチェの社長であっても「ぶっちゃけて言うけど、まだ1年目で(報酬は)1円ももらっていない」と告白。

 なんでそうまでして頑張るのか。それには、10代からアイドルとして活躍してきた板野らしく、情報サイトでこんな考えを語っている。

《年を重ねていくと、いつからか女性だけが結婚するか仕事をするかを考えたりして(中略)今まで積み上げてきた仕事をどうしていくべきか》と迷い、続けて《女性だって結婚も出産もやりたい仕事も夢も全部選択していいという考えが広がるといいなと思っている》という。

 野球選手の妻だからといって、好きなことを諦めて後悔したくないと奮闘中だ。
頑張る里田、板野にエールを送るのは、女性の起業支援を行っている叶理恵さん(株)はっぴーぷらねっと代表取締役。著書に『うまくいく女性起業家だけが知っていること』鴨ブックス)。

「日本の場合、結婚している人を社会的に信用するという傾向があります。さらに結婚相手が一流のアスリートである場合、一流アスリートが選んだのだから、さらに信用できるだろうと思わせる効果が高いんです。商品化にあたり、結婚、出産を通して、その立場に必要だと思うものを打ち出したのも強みです。

 特にZ世代は、自分と年齢が近く、悩みが一緒という友達感覚で商品を購入しますから、里田さんや板野さんの商品が人気になるのはよくわかります。2人とも起業していることから、自分の力でやっていくという覚悟がくみ取れますよね」(叶さん)

「夫と並んで自分らしく生きていく」

(3)マンション・化粧品プロデュース業で大成功!「押切もえ」

 モデルで、化粧品やファッションブランドのプロデュース。長編小説『浅き夢見し』で小説家デビューし、第2作『永遠とは違う一日』は第29回山本周五郎賞候補になるなど多彩な才能を発揮してきた押切もえ。

 中でも不動産ビジネス界ではちょっと知られた存在で、マンションプロデュース業を行っている。建物外壁のタイルや室内のフローリングやキッチン、浴室の壁の配色などを担当。マンションの売れ行きに大きく関係する、最重要部分を任されている。

 プロデュースするマンションが建つ、町の雰囲気、歴史までその地域を調べ上げるのだといい、小説家らしく「文章からイメージを入れることが多くて、『どんな家に住みたいのか』を書いてまとめて練っていく感じ」と述べており、関係者も「非常に勉強熱心だ」と、その仕事ぶりに太鼓判を押す。

押切もえ

 1棟目が完成したのはまだ結婚前のこと。以降、仕事に励んでいたが、プロ野球の涌井秀章投手(現・中日)と結婚。押切もまた、“アスリート妻はかくあるべし”という枷にぶつかる。「すごく仕事が好きで、そんな自分が夫を支えられるのか」と思ったそうだ。

 その思いを涌井に告げると「仕事をしているもえちゃんが好きなんだから、やりたいことがあるなら続けてほしいと励まされて気が楽になった」とバラエティー番組で語っている。結婚後、2人の子どもの母になっても、仕事は続け、9棟目のマンションも完成。

 これまでに100億円近い売り上げに貢献しているというから、その実力は本物だ。

「この3人が特別なことをしているように感じますが、アスリートの妻=夫を支える内助の功という旧世代の固定観念が、揺らぎ始めているのがわかります。一歩後ろではなく、夫と並んで自分らしく生きていこうとする、今の時代の女性の姿といっていいでしょう」(叶さん)

「冷凍おはぎ」をプロデュースした妻

(4)夫を支えている“食”を武器に! 管理栄養士の資格を生かす「吉田ゆり香」

 侍ジャパンが優勝を決めたときに、優勝セレモニーで選手の妻たちがグラウンドに降り立ったが、ネット上でも「みんな奥様が美人!」の声が上がるほど華やかな顔が並んだ。その中でもひときわ目を引く、吉田正尚(ボストン・レッドソックス)の妻・元モデルの吉田ゆり香。

美人妻として結婚当初から話題になった吉田正尚の妻・吉田ゆり香(吉田ゆり香のインスタグラムより)

 夫との出会いは大学在学中。ゆり香夫人は在学中からモデル活動をしつつ、大学卒業後は管理栄養士となり、スポーツと栄養学のスペシャリストとして活躍。2015年に結婚したのち、2018年に栄養指導やメニュー開発などを行う(株)LiLy Foodistを設立している。

 現在は夫の海外挑戦を応援すべく、また子どもも生まれたことにより仕事はセーブしているもようだが、商品開発などのオファーは後を絶たないのでは。子育てが一段落したら、しっかり活躍できる舞台をすでに整えてあるのだ。

(5)アスリートと結婚して気づいた食の大切さを発信「衛藤美彩」

 埼玉西武ライオンズでキャプテンを務め、WBCでも活躍した源田壮亮選手と結婚後、アスリートフードマイスターの資格を取得したという、元乃木坂46の衛藤美彩。昨年発売した、冷凍おはぎ『wake an(ウエイク アン)』をプロデュースしたことでも話題となった。アイドル、モデル・女優としても活躍してきた衛藤が、なぜ“おはぎ”だったのか?

「アスリートと結婚したことで、食事や身体に取り入れるものについて以前より着目するようになった」と、そのプロデュース背景をコメント。近年では、アスリートが競技や試合の前にとる食事戦略「カーボローディング食」としても注目を集めているというおはぎを、冷凍でお取り寄せできる仕様に。

源田壮亮の妻・衛藤美彩(画像は衛藤のインスタグラムより)

 第一線で活躍する夫を支えつつ、そこで得た最新情報を積極的に発信するスタイルのよう。持っている才能は、夫のためだけでなく、新たなビジネスに展開するのが、現代のアスリート妻たち。

「一般家庭にもいえますが、もはや100年時代といわれる昨今、人生は本当に長い。自分らしい生き方を模索しつつ、稼げるときに稼ぎ、いざというときに自分も家庭を支えていく、そんなたくましさを持った“妻”が増えてきているのでしょう」(叶さん)

 アスリート妻たちのように自分の価値をお金にかえられる強さとすべを身につけたいものだ。


取材・文/水口陽子

 
ヤクルトの優勝旅行に備えたというボディーを披露した板野友美(公式インスタグラムより)

 

2008年12月、紅白出場を決めた「Pabo」。左から木下、スザンヌ、里田まい

 

'98年に撮影で海外に行った押切。日焼けしないように気をつけていた

 

自身のブランド服を着てWBC優勝時にグランドで記念撮影をする板野友美(板野のインスタグラムより)