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「パラフィリアって何?」

 8月29日、ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏の性加害問題再発防止特別チームの記者会見の後、SNS上には“パラフィリア”という単語がトレンドにあがった。

 チームはジャニー氏を「パラフィリアである」と断言。聞きなじみのない言葉に困惑した人が多いと思われる。

パラフィリアの恐怖

 著書に『小児性愛という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)があり、現在まで小児性愛障害と診断された当事者200人以上の治療やヒアリングに関わってきた大船榎本クリニックの斉藤章佳氏がパラフィリアを解説する。

「パラフィリア=パラフィリア障害群(Paraphilic Disorders)は性嗜好異常(障害)の総称です。その中に小児性愛障害(ペドフィリア)などがある。ジャニー氏の場合は、直接会ったわけではないので断定的なことは言えないですが、調査報告書を見る限りでは小児性愛障害の傾向が強く出ているのではないでしょうか。

 性的興奮をもたらす衝動や行動に、本人が苦痛を感じながらもやめられない状態が6か月以上にわたるとパラフィリアと呼んでいます」

 常人には理解できないとされる対象に興奮するために、当事者は孤独を抱えているという。

 週刊女性は'19年にわいせつで書類送検されたが不起訴となった男性に話を聞くことができた。

「警察に捕まったときに僕、実は安心したんですよ。やっと解放されるという気持ちだった」

 坂田大輔さん(仮名・20代)は逮捕時の様子を振り返る。

「電車内で斜め前に座ったおとなしそうな女の子に向かって、性器を露出したんです。何度も繰り返していたので、自分は捕まらないんだと思っていた。そうしたら駅員に通報されて改札で捕まりました。

 自分の性嗜好がおかしいと気づいたのは中学生の時です。同級生たちが部屋で女子の誰々がエロいとか、女子の性器について話をしていて自分だけが別世界の人間のように思えたんです。

 僕は自分のことを知らない第三者が僕の性器を見て驚いたり嫌がったりすることに興奮する。でもそれを言ってはいけないということはなんとなくわかっていたんです。相手を嫌がらせなければ満たされない性欲なんて消えてほしいと何度も思いました」

 周囲に理解者はいなかったのか。

「いたらこうなっていません。母はいつもイライラしていて父もいつも忙しくしていたし、3歳下の妹は生意気でまったく仲良くない。でも思えば嫌がる妹に嫌がらせをしているときに楽しいって感じていた。きっかけはそれだったのかなとか考えるけれど、今は抑えることを目標に生きているから興奮することからは離れています」

彼らの共通点とは──

 なぜパラフィリアが生まれるのか。前出の斉藤氏は「特定の原因はまだわかっていない」としているが、彼らの共通点をあげる。

「私が治療に関わった患者に共通しているのは幼児期の逆境体験(ACE:Adverse Childhood Experience)です。家族からの虐待や自殺、精神疾患、学生時代のいじめ、貧困、などの被害者側を経験している人が多かった。幼いころに逆境体験を経験した人は、成人後も自尊感情が傷つきやすく自己肯定感が低い傾向にあります。

 そのため、長年内面に抱えている外傷記憶や心理的苦痛をなんらかの精神作用物質や加害行為で自己治療しようとする。もちろん根本的な原因は、個別性があるため断定的なことは言えません。このような、複合的な要素が重なり、性的な逸脱行動を反復した方が当院の外来の門をたたきパラフィリアと診断される。

 一方で、パラフィリアでも犯罪行為に及ばない人もいる。多くの人は、自らの性的欲求や性的嗜好をしっかりと自己統制、制御しながら生活しています。犯罪行為に及ぶ人はごく一部です」

 禁酒や禁煙と同じように、坂田さんもまた興奮材料を禁じているという。

 ジャニー氏のように小児性愛障害の傾向が強く出ているパラフィリアが自らの支配的欲求を満たすには、経営していた芸能事務所は絶好の狩り場だったのかもしれない。斉藤氏は、

「ジャニー氏の問題を通して子どもに性加害を行う大人の存在や、男児でも被害に遭うことを改めて知ってもらいたい。性犯罪の暗数の問題を考えると、発覚している性加害は氷山のさらに小さな一角だけ。明るみに出ない性被害はもっと奥深くに隠れているんです」

 加害者も苦悩しているのだろうが、被害者の苦痛は計り知れない。

大船榎本クリニックの斉藤章佳氏

 

ジャニーさんは、“子どもたち”がオリンピックに関わるのが夢だった

 

空港で手元を覗き込むジャニー喜多川さん

 

9月7日に行われたジャニーズ事務所の記者会見

 

9月7日に行われたジャニーズ事務所の記者会見