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 先日行われたバスケットボールW杯の男子日本代表12人の平均身長は192cm、メジャーリーガーの大谷翔平選手は193cmといわれる。

 街中でもモデルのような長身の女性を多く見かけ、「日本人の体形も大きくなっている」と思うことはないだろうか。

「ジャンプする運動」が背伸ばしに効果的

 しかし、意外にも日本人の平均身長は伸びていない。厚生労働省の調査によれば、平均身長は20歳男性で170.2cm、20歳女性で158.6cm。戦後は10cm近く伸びたものの、1995年以降は横ばいが続いている。

趣味は睡眠という大谷選手。小学生のころも夜9時から朝7時まで寝ていたから、今の高身長になった可能性も!?(写真/共同通信社)

「妊婦の体重管理が厳しくなったことで、出産時の新生児の体重が全体的に減少傾向にあるためでは、と考えられています」

 そう話すのは、アスリートのトレーナーも務める柔道整復師の高林孝光さん。日本では出産時の体重が2500g未満の「低出生体重児」の割合が増えているという。

「身長が遺伝に関係あるという説もありますが、一方で身長に対する遺伝的影響は25~30%にすぎず、後天的な影響が大きいとも考えられています。

 実際、両親の身長が低くても大きくなる子どもはいくらでもいます。だから親は自身の低身長を気にして、『子どもがかわいそう』と思う必要はないんです」(高林さん、以下同)

 高林さんが後天的な影響が大きいと考えるのは、背が高くなるメカニズムにある。

「身長は“骨が伸びる”ことで高くなり、身体も大きくなります。成長期には骨の両端にある『軟骨芽細胞』が増殖し、成長して骨に変わり、層になって縦に伸びていくのです。

 成長期が終わる18歳前後になると、軟骨芽細胞の働きが衰えるため骨の成長が止まり、身長が伸びなくなります」

 この細胞は、ホルモンの働きや栄養が豊富な血液の刺激によって増殖し、成長する。

「日本人は骨の成長を促すような生活ができておらず、平均身長が伸びていないとも考えられます。現代の子どもたちは家で遊ぶことが多いため、運動量が減り、運動機能が低下していることがわかっています。できるだけ身体を動かす遊びをしたほうがいい」

 この細胞の成長に大きく関係するのが、脳下垂体から分泌される「成長ホルモン」だ。加齢によって減少するが骨に限らず筋肉を強く丈夫にする働きもあり、一生を通して欠かせないホルモンのひとつである。

「運動すると全身の血流もよくなって軟骨芽細胞にもプラスになりますし、成長ホルモンの分泌も促されるので身長が伸びる可能性があります」

 ただ、ストレスが強いと成長ホルモンの分泌が抑制されるため、背は伸びなくなるといわれる。子どもがのびのびと運動できる環境が望ましい。

「身長を伸ばすという面では、バレーボールやバスケットボール、ダンスなど、ジャンプをする競技がおすすめです。

 ジャンプをすることで骨が刺激され、骨を大きくします。特にかかとの骨に強い刺激を与えることがポイント。大人も跳ぶ運動をすると、骨が丈夫になり身長を伸ばすことにつながります」

身長が2cm縮むと女性は要介護リスクが倍!

 まれに成長期が終わっても背が伸び続ける人もいる。プロ野球選手の佐々木朗希投手は2cm、俳優の賀来賢人さんは1.2cm、観月ありささんは0.4cm、大人になってから身長が伸びたとテレビ番組などで語っている。

2019年の千葉ロッテマリーンズ入団時(18歳)、190cmだった佐々木選手。身体強化に力を入れた成果か、2020年のインタビューで「192cmになっていた」と明かした(写真/共同通信社)

「医学的には『伸びない』ことが定説になっていますが、成長期が終わっても骨全体に散らばっている軟骨芽細胞の働きによって骨全体が大きくなり、身長が伸びるのではと考えられています。これには適度な運動と栄養が必要。

 さらに、何らかの理由で成長ホルモンの分泌が増えれば、軟骨芽細胞の増殖は盛んになるといわれています」

 もうひとつの理由は高林さんの専門分野、骨格矯正による伸長効果だ。

「猫背やO脚の人は姿勢が崩れ、本来の身長より低くなっています。その骨のゆがみをまっすぐ伸ばせば、縮こまっていた分、身長が高くなるんです」

 運動習慣がなく身体の筋肉が不足した結果、猫背になると、太もも裏の筋肉が萎縮するため、骨盤が後傾してポッコリお腹に。反対に骨盤が前傾すれば、内ももの筋肉が衰えてO脚になりやすくなる。

「また、アメリカの研究では、男女共に30歳ごろから背が縮みだすそうです。年齢とともに身長が縮む最大の原因は骨密度の低下による骨粗鬆症といわれていますが、患者さんを見ていると姿勢の悪さで損をしている人も多いんですよ。

 高齢者の背中が丸くなるのは筋力の低下が大きく関係しています」

 厚生労働省の調査では40代に比べて身長が2cm以上縮んだ高齢女性は、介護が必要になるリスクが2倍高いことがわかっている。健康長寿を叶えたいなら、今の身長をキープしていくことも大切だ。

体操で骨格を整え身長が伸びる身体に

「施術で背が高くなっても、ある程度の時間が経過すると元に戻ってしまうため、その状態をキープするのが難しい。そこで、ポイントとなるのは筋肉だと考えました」

 筋肉が硬く萎縮していると、骨が引っ張られてゆがんでしまう。高林さんは硬くなりやすい筋肉を伸ばしつつ、全身の骨格を矯正する6つの体操を考案し、38人に試してもらった。

実際の身長より低くなってしまう猫背。常態化すると、背骨の骨と骨の間にある椎間板が圧迫され、痛みが出ることも※写真はイメージです

 O脚が悪化し、恥ずかしくてスカートがはけなかった女性S・Aさん(46歳)もその一人だ。猫背もひどく、胸を張ると背中が痛くなっていた。

「半信半疑ながら家で実践していたところ、猫背とO脚が改善し、身長が5cmも伸びたんです。おかげで満員電車に乗っても埋もれなくなりました(笑)。いつもはいていたズボンの裾が短くなっているので、脚が長くなっているかも」(S・Aさん)

 中学生から約30年間、ずっと155cmだったが、たった1か月で、160cmになったというのだ。1か月続けたほかの実践者も全員、平均約1cm身長が伸びていた。これは11歳の子どもにも有効だった。

「この体操には筋肉だけでなく、関節の動きをよくする効果があります。身体を動かして全身の代謝をよくすれば、関節の“潤滑油”となる関節液の分泌が促されます」(高林さん、以下同)

 関節液とは、関節を保護、維持するための液体で関節内を満たしている。

「代謝が悪いと関節液が十分につくられず、関節の動きが悪くなります。運動を行っても十分に筋肉を伸ばすことができず、骨格の改善も期待できません」

 関節液は軟骨芽細胞に栄養を与える重要な存在だ。特に子どもは成長期に十分に関節液を出すような生活をすると、みるみる背が伸びていく。

「身体のゆがみが改善されるので、O脚だけでなく、腰痛、ひざ痛などの不調やポッコリお腹の改善も期待できます」

 また、背中が丸まっていた80代の女性も、体操を1か月続け、身長が0.7cm伸びた。

「姿勢を保つ筋肉が弱くなる高齢者の健康維持にも役立つと考えています」

 今回は高林さんが考案した6つの体操の中から実践しやすい3つをご紹介する。

「いちばんのポイントは毎日続けること。全部行っても1分もかからないので、最低1日1回は続けてみてください。時間帯としては朝、行うのがもっとも効果的です。自然に呼吸をし、リラックスしながら行いましょう」

 定期的に身長を測定すると、モチベーションも上がるのでぜひ実践してみて。

タンパク質が豊富な食事と8時間以上の睡眠が大切

 成長ホルモンの分泌には、運動以外に食事や睡眠も大きく関係している。

「食事でまず欠かせないのはタンパク質です。これは軟骨芽細胞の材料にもなります。この細胞が増殖するのは成長期までといわれていますが、タンパク質には代謝機能を高めたり、ホルモン機能を調整する働きもあります。

 タンパク質の摂取量に比例して身長が高くなるというデータもあります。成長ホルモンの分泌を促す亜鉛も積極的にとりたい食材です」

 亜鉛は牡蠣などの魚介類、豚レバーなどの肉類、切り干し大根、枝豆などに豊富だ。

 日本人は骨といえば「カルシウム=牛乳」と考えがちだが、カルシウムは骨を丈夫にする材料にすぎない。

「もちろん栄養価の高いものではありますが、日本人の3人に2人は、牛乳に含まれる乳糖が消化できない『乳糖不耐症』といわれていますし、牛乳にこだわる必要はありません。特に子どもの場合は牛乳でお腹がいっぱいになり、ほかのものが食べられなくなったら本末転倒です」

 また、寝ている間に成長ホルモンの分泌がもっとも増えるので、身長を伸ばすためにも最低8時間は睡眠時間を確保したいところだ。ちなみに前出の大谷選手は雑誌の取材で「小学生のころは毎日、夜9時から朝7時まで寝ていた」と語っている。

「毎朝、決まった時間に起きて朝日を浴びるといいですよ。夕食を食べすぎて満腹で眠ると、成長ホルモンの分泌が悪くなるので注意しましょう。安眠を妨げるパソコンやスマホなどの使用は就寝時間の3時間前にはやめましょう」

 “若返りホルモン”とも呼ばれる成長ホルモン。年をとっても今の身長を維持するためにも、日々の過ごし方にひと工夫してみてはいかが。

大人でも身長が伸びる理由
○ホルモンや血液の循環がよく、骨が大きくなった
○成長ホルモンの分泌で、骨の細胞が増殖
○ゆがみや骨格がリセットされ、本来の身長に

子どもも大人も効果あり!身長伸ばし体操

 毎朝続けると効果的。「もも前伸ばし」「バンザイスクワット」「つま先立ちウォーク」の順番で行って(※)
 ※治療中の方は医師に相談の上、「身長伸ばし体操」の実践を。

1.もも前伸ばし

 太ももの前側の筋肉を伸ばすことにより、骨盤の前傾を改善。脚がまっすぐ伸びるようになる。骨盤が後傾している人が行ってもOK。

1.もも前伸ばし(イラスト/ますみかん)

(1)床に横向きに寝る。床側の腕を身体に垂直になるように伸ばし、手のひらを床につける。反対の手は体側へ。

(2)上になった脚のひざを曲げたら体側の手を背面に回し、つま先をつかんで引っ張る。床側の足のつま先はまっすぐ伸ばし、5秒キープする。身体の向きを変え、反対側も同様に。

2.バンザイクッションスクワット【5回2セット】

 猫背とO脚を同時に改善する体操。骨盤の後傾と前傾の両方に効果がある。背中、前ももと内ももを同時に鍛える。

2.バンザイクッションスクワット(イラスト/ますみかん)

(1)クッションを太ももの間にはさむ。タオルを両手で持ちバンザイをする。手の幅は肩幅より広め。

(2)タオルを背中まで下げながらひざを曲げ、ひざを伸ばしてバンザイの形に戻す。これを5回繰り返し2セット行う。

3.つま先立ちウォーク【往復5歩】

 足の指を鍛えて足裏のアーチを復活させる体操。つま先立ちにより背筋が伸びて、ふくらはぎが鍛えられ、代謝も促進。

3.つま先立ちウォーク(イラスト/ますみかん)

(1)足を肩幅に開き、頭の上からヒモで引っ張られるイメージでつま先立ちになる。

(2)腕を大きく振りながら5歩前進し、振り返って5歩戻る。

高林孝光さん●アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。治療家(鍼灸師・柔道整復師)。アスリートのトレーナーも務める。近著に『身長は伸びる! 子どもはもちろん!大人になっても』(自由国民社)。
教えてくれたのは……高林孝光さん●アスリートゴリラ鍼灸接骨院院長。治療家(鍼灸師・柔道整復師)。アスリートのトレーナーも務める。近著に身長は伸びる! 子どもはもちろん!大人になっても(自由国民社)。
『身長は伸びる!子どもはもちろん!大人になっても』著・高林孝光 自由国民社 ※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。

(取材・文・イラスト/ますみかん)

 

1.もも前伸ばし(イラスト/ますみかん)

 

2.バンザイクッションスクワット(イラスト/ますみかん)

 

3.つま先立ちウォーク(イラスト/ますみかん)

 

趣味は睡眠という大谷選手。小学生のころも夜9時から朝7時まで寝ていたから、今の高身長になった可能性も!?(写真/共同通信社)

 

2019年の千葉ロッテマリーンズ入団時(18歳)、190cmだった佐々木選手。身体強化に力を入れた成果か、2020年のインタビューで「192cmになっていた」と明かした(写真/共同通信社)

 

『身長は伸びる!子どもはもちろん!大人になっても』著・高林孝光 自由国民社 ※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。