ジャニーズははたして完全に「解体」されるべきなのでしょうか?

 9月19日の夜、ジャニーズ事務所は、公式サイトで「今後の会社運営に関するご報告」を発表した。

 もともと、10月2日に新たな経営体制について発表される予定だったが、今回の内容を見ると、現体制から大きな変更が行われるであろうことが示唆されている。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 背景には、9月7日のジャニーズ事務所の記者会見以来、所属タレントの広告契約が雪崩を打って解除されており、テレビ番組へのタレント起用にも影響を与え始めていることがある。

 ジャニーズ事務所は、今後いかなる策を講じてくるのだろうか? ジャニーズに再生の道はあるのだろうか?

 本稿では、その核心について包括的に論じてみたい。

ファンクラブ会費だけで数百億円以上の稼ぎ

 ジャニーズ事務所は非上場企業であり、財務諸表や経営体制の詳細は公開されていないが、メディア報道などから売り上げ構造の概要は推察できる。

 ジャニーズ事務所の主な収益構造は下記の通りになる。

(図:各種資料を基に筆者作成/東洋経済オンライン)

 ジャニーズ事務所の大きな収入源はファンクラブの会費(入会金、年会費)によるものと言われている。正確な数字は諸説あるが、ファンクラブの会員の延べ人数は1000万人を超え、売り上げはそれだけで年間数百億円にものぼる。

 その周辺には、コンサート・舞台・イベント等のチケット収入、グッズ販売による物販収入、CD販売による原版税などがある。内訳は不明ではあるが、ファン(コアファンとライトファン)による、直接的、間接的な収入がかなりの部分を占めると思われる。

 ファン以外も含めた幅広い層を対象にしたビジネスとしては、テレビをはじめとするメディアへの出演、企業や団体の広告への出演がある。現在のジャニーズは、この外堀から収益源が切り崩されているという状況にある。

 一方で、深刻なファン離れは現時点では起きていないように見受けられる。むしろ、現状の苦難の中で、コアファンを中心に「タレントを支えよう」という動きも見られる。まさに、「推し」の応援によって、事務所の土台が支えられているのだ。

「推しの応援」によって支えられてきたジャニーズビジネスだが…

 ジャニーズタレントのファンの裾野の広さと、コアファンの熱狂性を考えると、ファンの離反が起きない限りは、ジャニーズ事務所は安定的に収益を上げ続けることができる。

「ジャニーズ帝国」と呼ばれた大繁栄は望めなくとも、「ファンビジネス」に特化して生き残り続ける――という道も考えられなくはない。

 ただ、その道は非常に危ういものであるのもまた事実だ。

ファンビジネスにおける「諸刃の剣」

 ファンをつくる、すなわち「ファン化」を起こすためには、どうしても裾野を広げてのアプローチが必要になる。デビュー前のタレント、売り出し中のタレントならなおさらだ。活動の場を与えられることでファンがつき、人気が出ることで活動の場が広がり、さらにファンが増加する――という好循環をつくり出すことができる。

 ジャニーズはこの循環をつくり出す能力が非常に優れており、だからこそ多くのタレントの原石を集め、それに磨きをかけてデビューさせ、ファンを生み出すことに成功したのだ。

 所属タレントは、事務所側が大きな不祥事を起こして危機にある中で苦悩しているに違いないし、その中でタレントとしての活動機会が限定されていくと、モチベーションも低下しかねない。

 事務所に見切りをつけたタレントの退所が今後相次ぐことになれば、それに合わせてファンも離反していく。この雪崩現象が起きてしまうと、ジャニーズの崩壊も現実のものとなっていくだろう。

 9月7日のジャニーズ事務所の記者会見を見て、事務所側は所属タレントとファンには向き合っているが、スポンサー企業やメディアにはあまり気を配っていないように感じられた。

 人気のタレントを生み出し、そこにファンがついてきさえすれば、メディアと広告への出演は自動的に付いてくる――と、事務所側は考えていたような節がある。

 しかし、スポンサー企業(広告主)の多くはグローバル化しており、取引先に対するコンプライアンスの基準もグローバルレベルのものを求めてくる。依然として国内中心にビジネスをしている芸能事務所やメディアと比べると、厳しい基準を設けてくるのは当然のことである。

 リスクマネジメントは、最悪のシナリオを想定して、十分な策を講じる必要があるが、依然として東山紀之社長含め、内部で経営者を固めているジャニーズ事務所は、そこまで思い至らなかったに違いない。

 現在のスポンサー企業の契約解除の動きを見ると、記者会見の内容にスポンサー企業がいかに失望したかが伝わってくる。また、メディアや一般の人々からも厳しい声が出ている。SNSなどで「ジャニーズ事務所は解体すべきだ」という声も盛り上がってきている。有識者からの「(グローバル基準にのっとると)解体は必然的だ」とする声も少なからず見られる。

 実際、広告とメディアへの出演という、ジャニーズビジネスの“外堀”が切り崩されつつある現状を見ると、解体の可能性も現実味を帯び始めている。

 一方で、こういった動きを牽制する動きも見られ始めている。

 9月19日、経団連の定例記者会見で十倉会長は、ジャニーズ問題に関して、「日々研鑽を積んでいる人たちの活躍の機会を長きにわたって奪うのは、それもまた問題がある」と表明している。これは、企業の急速な広告離れを、間接的に牽制した発言にも見える。事務所の対応を批判しつつ「(ジャニーズのタレントたちは)ほかの事務所に移るなどいろんな手があるのではないか」と発言した経済同友会代表幹事の新浪剛史氏の厳しい発言とは対照的でもある。

「解体」でなく「解体的再生」を目指すべき4つの理由

 故ジャニー喜多川氏の性加害問題は、前代未聞であり、かつ様々な点で特殊な事件であるだけに、取引先企業や経済団体は、ジャニーズ事務所とどう向き合っていけばよいのか、暗中模索を続けている状況に見受けられる。

 筆者としては、ジャニーズ事務所は解体ではなく、再発防止特別チームが提案する「解体的再生」を目指して全力を尽くすべきだと考える。

 そう考えるのは、以下の理由に基づいている。

1. 被害者の多くは事務所の存続、およびそれを前提とした被害者の救済と補償を求めている
2. 所属タレントを守るうえで、事務所の存続が最適な方法である
3. 多額の資産を保有し、依然として収益性が高い企業である
4. 「日本的な企業再生モデル」が有効である可能性がある

 1について、このたびのジャニーズ危機は、故ジャニー喜多川氏の性加害行為によってもたらされたものであり、被害者への対応を最優先させるべきだ。被害者の意向は可能な限り尊重されるべきである。

 2について、ジャニーズ事務所の売り物は「人」であるという点で、他の企業と同様に扱いづらい点は考慮する必要がある。現在所属するタレントの中にも被害者が多数いる可能性が高いが、内部の競争も勝ち抜いてデビューした彼ら、いわゆる「デビュー」組はとくに、事務所側が用意する補償・救済策に名乗り出ない可能性も高い。すでにタレントとして人気となり一定の基盤を確立しているからだ。

 一方で、現在200名程度が在籍しているジャニーズJr.の存在をどうするのか? という問題がある。すでに活躍しているタレントであれば、移籍したり独立したりしても活動はできるかもしれない。一方で、ジャニーズJr.の多くは、引き取ってくれる事務所も限られるだろうし、事務所がなくなれば活動の道が閉ざされかねない。

 3について、業績が悪化した企業は、解体して再生するほうが有効であることも多いが、ジャニーズ事務所は依然として収益性の高い企業であり、資産も潤沢にある。継続的に企業活動を行うほうが、被害者の補償・救済に充てる原資も確保しやすいし、社会貢献も行いやすくなる。

 4についてだが、被害者もジャニーズ事務所に対して必ずしも敵対的ではないし、依然としてジャニーズに対して愛着を持っている所属タレント、ファンも多い。

 欧米型の善悪二元論の考え方では、善悪をきっちり区別して、善が悪を打ち倒す考え方が好まれる。ハリウッドのヒーロー映画はそうしたものが多いが、日本では『ドラゴンボール』や『ワンピース』のように、昨日の敵が今日の味方になるような物語が好まれる。勝ち取った敵の駒を味方として使えないチェスと、使える将棋の違いをイメージしてもらってもよいかもしれない。

 もちろん、海外の声も重要であるし、グローバル基準に従うことは重要だ。しかし、全て海外を基準にする必要もない。幸か不幸か、ジャニーズは海外進出は限定的で、ほぼドメスティックな日本企業である。日本独自の起業再生モデルに取り組んでみる価値は十分にある。

 それを実現するためには、被害者、所属タレント、ジャニーズ事務所がひたすら叩かれているような現状から脱する必要はあるが――。

10月2日に示すべき4つの「抜本改革」

 筆者はジャニーズの「再生」に期待したいと思っているが、そこに至る道は厳しいということも重々に理解している。

 当初は、9月7日の記者会見で、ある程度の方向性が示されると思っていたが、残念ながら意思表明にとどまり、具体的な方向性は示されなかった。手遅れにならないためには、10月2日の新たな経営体制の発表で、抜本的な改革案を示す必要がある。

 具体的には、下記の4点が明確にされる必要がある。

1.「ジャニーズ」の社名・名称の変更
2.外部からの経営者の招聘
3.藤島ジュリー氏の株式の売却
4.被害者の補償、救済策のさらなる具体化

 1の名称変更だが、いまや所属タレントやファンの間でも、ジャニーズという名前を残すことは疑問視される向きもある。記者会見でも指摘されていたが、性加害を行った人物の名前を企業名に冠することは、そもそも不適切極まりないことだ。たとえ新しい名前が決められなかったとしても、社名を変更することは早急に表明すべきだ。

 2と3はセットで考えるのがいいだろう。再発防止特別チームからも、性加害が長きにわたって行われ、それが隠蔽されてきたのは同族経営の弊害によるものだと指摘されている。同族経営を解消するためには、現在、藤島ジュリー氏が100%保有している株式の51%以上を手放す必要がある。

 もともと、ソニーの元取締役を社長として招聘する案があったが、うまくいかなかったという報道もある。しかし、コンプライアンスのしっかりしたどこか大手企業が藤島ジュリー氏から51%以上の株式を買い取り、ジャニーズ事務所に取締役を派遣するということが実現できれば、同族経営を脱しつつ、より有効な改革ができるだろう。

 4についてだが、現状では金銭的な補償が開始されているが、メンタルケアも含めた包括的な補償、救済案を早急に提示する必要があるだろう。併せて、被害者への謝罪と対話も行っていく必要がある。

 記者会見後も、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は、メディアの取材を継続的に受けているのみならず、日弁連に人権救済申し立てを行ったり、新たなメンバーが加わったことを実名で発表したりしている。今後もジャニーズ事務所が有効な救済策をなかなか示すことなく、被害者と対立的な関係になってしまうと、社会的信用の回復もおぼつかなくなり、通常の経営にも悪影響を及ぼす。

後手の対応から、巻き返していけるか

 藤島ジュリー前社長が取締役にとどまり、過半数の株式を保有していたほうが、被害者の補償、救済がより有効に行えるという意見もある。

 しかし、それでは同族経営、藤島ジュリー氏の下での経営から脱したとは言えない。上記のような方法を取れば、組織改革を行いつつも、被害者の手厚い補償、救済も並行して行うことは十分に可能なはずだ。

9月19日にジャニーズ事務所が発表したリリース。10月2日までにどれだけの巻き返しを図れるだろうか(ジャニーズ事務所HPより)

 限られた時間で具体的なことまで決められないとしても、しっかりとした方向性は提示し、それを実行することを約束するところまでは最低限しなければならない。

 リスクマネジメントにおいて重要なことは、同じことを言うにしても、タイミングによって効果が全く異なるということだ。

 後手に回っている対応を迅速に巻き返し、それを世の中にアピールしていくことが、ジャニーズ事務所の緊急課題であるだろう。


西山 守(にしやま まもる)Mamoru Nishiyama
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。