「CMタレント好感度ランキング」(2022年11月度~2023年10月度)で、木村拓哉が男女総合1位を獲得

 CM総合研究所がこのほどまとめた2023年度「CMタレント好感度ランキング」(2022年11月度~2023年10月度)で、木村拓哉が男女総合1位を獲得した。総合2位は広瀬すず。

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 木村拓哉が出演するテレビCMの放送回数は、9月の旧ジャニーズ事務所の記者会見を境に激減。10月度の放送はわずか8回、11月度は10回に減った。木村拓哉をはじめ所属タレントのテレビCMの放送回数は激減している。

 果たしてタレント人気に影響は出ていないのか。CM総研のデータからは、ジャニー喜多川氏の問題が所属タレント自体のイメージダウンにつながったとの視聴者の反応は特にみられない。事務所とタレントは別と視聴者は判断しているのだろうか。

CMタレント好感度トップ20

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 旧ジャニーズ所属タレントが出演するテレビCMの動向を、東京キー5局を対象としたCM総合研究所の調査でみる(退所したメンバーが出演するCMも含む数値)。

 所属タレント全体のテレビCM放送回数は7月度5347回(企業数は57社)、8月度は5415回(54社)、9月度は4888回(54社)。それが会見翌月の10月度は2109回(24社)、11月度1529回(20社)と激減した。

 CMタレント好感度を見ると、所属タレントの総計で7月は638ポイント、8月は639ポイント。9月は651ポイントだが、10月は計283ポイント、11月234ポイントとなった。

 木村拓哉のデータをみると、7月度放送回数549回(企業数5社)、CMタレント好感度181ポイント。8月度放送回数129回(企業数5社)、好感度102ポイント。9月度放送回数1189回(企業数5社)、好感度227ポイント。それが10月度放送回数は8回(企業数1社)、好感度10ポイント。11月度放送回数は10回(企業数1)、好感度1ポイントとなった。

放送回数に対してCM好感度が高い木村拓哉

 CM好感度調査は、テレビCMのさまざまな「好感度」要素を測定するもので、調査モニターはノーヒントで「好きなCM、印象に残ったCM」をアンケート用紙に直筆で回答する。放映自体がなければ記憶に残らず、好感度数値も落ちてしまう性質のものだ。

 木村拓哉出演のテレビCMは、この1年間に7企業31作品で、放送回数は6888回。放送回数ランキングでは36位と決してトップグループではないが、CMタレント好感度は1232ポイントと群を抜いて高い。

 2位の広瀬すずは13企業、44作品。放送回数9704回(全体の19位)、CMタレント好感度898ポイントだった。木村拓哉、広瀬すずともに人気タレントだが、CM好感度という観点からすると、木村拓哉の突出ぶりがわかる。クライアントにとってはCMでのコストパフォーマンス効果の高いタレントといえる。

 では11月まで旧ジャニ・タレントのCMを続けている企業について、CM好感度を個別に見るとどうか。

 世界最大級の日用消費財メーカーP&Gの柔軟剤入り洗剤「ボールド」のCM。Sexy Zoneの菊池風磨が「洗濯王子」に扮したコミカルな映像だ。放送回数は8月89回、9月121回、10月247回、11月364回。

 好感度は以下のとおり。8月14ポイント、9月8ポイントだったものが10月には82ポイント、11月には113ポイントに。全CMの好感度総合順位では8月108位、9月182位、10月10位、11月4位と、ジャニーズ「報道ラッシュ」の影響をほとんど受けていないようにみえる。

 視聴者の反応として、アンケート回答者のコメント欄をみると好意的な書き込みが少なからずある。例えば「旧ジャニーズ事務所の問題で一時はどうなるかと思いましたが、個人契約となりP&G社に好感がもてます。菊池さんの笑顔が見られて良かった」(40代主婦)。「ジャニーズ問題で(タレントが)次々と交替していく中で使われ続けて逆に好感が持てる」(50代男性)

CMが調査期間に放映されていないのに投票も

 そのほか不二家のCM「はじまるよ、新しい不二家。」ではSnow Manが起用されている。あるコメントでは「ジャニーズCMがどんどんなくなる中、Snow Manを使っていて目につく。商品とSnow Manのキャラがよく合う」。

 ガンホー・オンライン・エンターテインメントの「パズル&ドラゴンズ」のCM。事務所を離れた二宮和也が起用されている。視聴者コメントの中には「いつまでも見たいCM。これに限らず、会社とタレントは別だと思うけど、大人事情が許されないのかしらね」。

 当研究所の調査の回答の中には、CMが調査期間に放映されていないのに記入してくるモニターもいる。「残存票」と呼んでいるが、これはそのCMやタレントへの関心度が高いがために、何かのきっかけで記憶としてよみがえったものと推察できる、「潜在的ファン」とも呼べる回答者だろう。

 この残存票が、9月7日の記者会見直後に顕著に増加した。木村拓哉をはじめ中島健人、二宮和也、目黒蓮、菊池風磨らだ。ジャニーズ報道の副次効果と考えているが、タレントとしての好感度の高さがあったが故ということだろう。

 今回の件を受けてスポンサー企業は、旧ジャニーズ事務所との契約更新をしなかったり、タレントとの直接契約に切り替えたり、といった対応に追われた。性加害という人権侵害があった会社との取引継続はリスクがあると判断されたためだ。

 視聴者のタレントに対するイメージが下がっていないとしても、今後広告を出稿する企業は取引先の「人権尊重」が一層求められることになる。

 業界動向について、ある芸能関係者が語る。

「ボーイズグループはこれまでジャニーズの寡占状態だったが、その牙城を切り崩そうと、各プロダクションは躍起だ。トップセールスでテレビ局に自社タレントの売り込みに走っている。

 CMを出すクライアント側は騒ぎが収束すれば、本音ではジャニーズタレントの解禁に踏み切りたいのでしょうが、不祥事の影響は大きいのでは。今はいつ収束するかをじっと注視している段階だ」

「テレビ出演やCM起用はプロモーション的要素が強かった」

 旧ジャニーズ事務所も長く取材した日刊ゲンダイの米田龍也・芸能編集部長に聞いた。

「当面の動きは被害者への補償がどうなるか。事務所への在籍証明があれば補償するというが、それ以外の被害申告も相当あるだろう。どう線引きするのか、容易に収拾つかないのではないだろうか。また新会社のエージェント制度。実力のあるタレントは他に移ってもやっていけるだろうが、若手の中にはマネジャーがいないタレントも出るのでは」

「旧ジャニーズ事務所の経営にとって、テレビ出演は実は最重要ではなかった。ファンクラブの会費、ライブ開催、それに伴うグッズ販売だけで売り上げの多くを占める。テレビ出演やCM起用はプロモーション的要素が強かった」

 旧ジャニーズ事務所の問題は決して許されるものではないが、ビジネスモデル自体はよくできていると思う。ファンの会費収入だけで年間400億円以上と推定する見方もある。ファンを大事にしており、かつて東日本大震災の際は、当時のメリー喜多川副社長自ら被災地のファンの安否確認をしていた、というエピソードもある。

 米田氏はこうも指摘していた。「この問題を機に芸能界は古い体質を変える必要があるだろう。内輪のファンを相手にしたこれまでの『興行』的な意識から、世界市場を狙った近代的なショービジネスを志向する世代へと経営変革しなければ」。

 ジャニーズ新会社「STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)」の代表取締役CEOに就任した福田淳氏は、ネットメディアのPIVOT公式チャンネルで次のように抱負を語っている。

「どのグループとは言えないが(所属タレントは)まあすごい踊りしますね。全然(海外で)知られていない。アジアの市場とか飛びつくんじゃないかという人ばっかり。日本人として誇らしい形で(海外で)デビューできると期待しており、グローバル展開が可能だと思っている。昭和が終わって21世紀になって(日本は)20年ぐらい出遅れましたが、一発ヒットでまあ取り戻せますよ」


関根 心太郎(せきね しんたろう)Shintaro Sekine
CM総合研究所 代表
1973年生まれ。1999年株式会社東京企画/CM総合研究所に入社。システム開発・データベース構築の責任者を経て2014年より現職。消費者3000人を対象としたCM好感度調査を中心に、テレビCMの広告効果測定および研究分析を実施。このほか企業へのコンサルティングや情報提供を通して、広告活動の最適化に向けた課題解決のサポートを行っている。