東日本大震災時、大熊町避難所だった体育館

 日本全国、いつ、どこで起きるかわからない大地震。命を守るためには一刻も早い避難が重要だが、女性にとっては、避難所での生活もラクではない。非常持ち出し袋には何を入れておくべきなのか、専門家に聞いた。いざというときに備えて中身をチェックすべし!

“心を守る”ことも大事

 今年の元日、石川県能登地方を襲った最大震度7の大地震。数多くの人が近隣の学校や公共施設への避難を余儀なくされた。現在でも避難所生活を続けている人たちも多い。しかも家屋の損壊や断水などで、不便な生活は当分、続くことが予想される。

「大変そう……」と人ごとのように思うなかれ。専門家たちは口をそろえてこう言っている。日本は地震大国、次にどこで大地震が起きてもおかしくはない─。

 そして、避難生活が長引くと特に気になってくるのが、プライバシーの問題だ。老若男女問わず、広いスペースにろくな仕切りもない状態で昼夜を過ごさなくてはならないとなれば、衛生面、美容面、防犯面などから女性は特にストレスを感じがち。

 避難所などで、極力トラブルを防ぎ、安全に過ごすためにはそれなりの備えが必要なのだ。そこで、避難時に女性が持っていく“備え”について、気をつけるべきポイントを専門家に聞いた。

災害に備えて非常用持ち出し袋を準備しておくことが大切です。ただし注意したいのが、荷物の量。地震直後は足場が悪いことも十分考えられるため、女性の場合、重くてかさばる荷物を持って移動するのは、バランスを崩したり、移動速度が落ちたりして、かえって危険を招くおそれがあります。いわゆる市販の防災セットには、それほど使わないものも入っているので、事前に中身をチェックして持ち物を厳選しておくことをおすすめします」

NPO法人MAMA-PLUGの理事・冨川万美さん 

 そう教えてくれたのは、女性と家族が直面するさまざまな問題に取り組むNPO法人ママプラグの理事で、防災に詳しい冨川万美さん。その厳選基準のひとつは、想定される避難期間だ。

通常、自分で持ち出した荷物だけで生活するのは、2〜3日程度。それ以上、避難生活が長引く場合は避難所に支援物資が届くことが多いです。つまり、自身で持ち出すものは避難先での数日間を支障なく過ごすために最低限のアイテムだと思ってください」(冨川さん、以下同)

 もうひとつの基準は“心を守る”

避難命令が解除されて普通の生活に戻ったあとでも、避難生活中のトラウマに苦しめられたというケースも少なくありません。それを防ぐためには、避難生活中でも、できるだけ日常を崩さないように過ごし、心を守ることが大切です。心を保つための本や音楽、小腹を満たすお菓子、使い慣れた日用品など、普段の生活で大切にしているものは、その人の心を守る“避難時必携品”になるのです」

2011年に発生した東日本大震災

 そのほか、女性用の日用品などは避難所には備えていない場合もある。日常を崩さないためにも自分に合ったものを持っていくのが重要だ。

災害避難時に必要な6つの女性アイテム

 以下、具体的なアイテムをリストアップした。ぜひ参考にしてほしい。

・モバイルバッテリー

 コンセントなどの電源がなくてもスマートフォンを充電できるモバイルバッテリーは最マストアイテム。人と連絡をとったり、情報を得たり、さまざまな用途で使うスマホの電池切れは、あらゆる意味で致命的だ。

災害時は停電であたりが真っ暗になることも多いです。過去には、避難場所の人目のない暗い場所で女性が性被害に遭ったという報告も。誰かと通話しながら移動したり、ライトをつけて足元や周囲を照らしたりと、スマホがあれば犯罪を抑止する効果もあります

・ブラトップ

 ブラトップ(カップ付きインナー)はキャミソール型ではなく、タンクトップ型やTシャツ型など、1枚だけで着られるデザインのものがおすすめ。

「パジャマのままで避難し、翌朝になってからブラをつけていないことに気づいて真っ青に。人の目が気になって自由に歩き回れず、避難所の手伝いすらできなかった……という経験を持つ人も。ブラトップが1枚入っていれば、ブラ代わりにも着替えにも使えて便利です。しかも、パッと見で下着だとわかりにくいこともポイント。要らぬトラブルを避けることができます

・身体を清潔に保つグッズ

 ボディシート、化粧落としシートなど、水やお湯が自由に使えない状況でも身体を清潔に保つためのアイテムを。不潔な状態は不快なだけでなく、思わぬ病気を招く原因にもなりかねない。

忘れがちなのが歯磨きグッズ。歯磨きには呼吸器系の感染症を予防する効果もあり、重要です。また、髪が長めの人はヘアゴムが1本あると髪を結ぶだけで汗をかきにくくなるし、動きやすいのでおすすめ

・使い慣れたスキンケア用品

 化粧水、乳液など、これこそ防災セットには入っていないので、できるだけ使い慣れたものを用意しておこう。たとえ1泊だけの避難でも、肌に合わないものを使って肌がボロボロに……は悲しすぎる。

「おすすめは、手足だけでなく顔にも使えるワセリンなど。大人も子どもも使える保湿クリームも重宝します

・中身が見えない黒いポリ袋

 汚れ物を入れたり、下着の目隠しをしたり。大勢の人が出入りする避難所で、プライバシーを守るために大活躍。

災害時の避難所は、とにかくセキュリティーが甘くなりがち。女性の場合、下着の存在がまわりからわかるだけで危険につながるので、注意するに越したことはありません

・生理用ナプキン

 普段と異なる環境、ストレスによって、突然生理になってしまうこともあるため、生理用品は必須アイテム。ちなみに、タンポンや月経カップではなく、生理用ナプキンがおすすめ。傷の止血に使えたり、下着を交換できない場合に重宝するためだ。さらに携帯用ビデやデリケートゾーン用シートなどがあれば、より不快を解消できる。

避難所のストック不足や、におい問題といった、避難先での生理にまつわるトラブルはよく聞きますが、自分に合った備えをしておけば安心です。生理痛がひどい人は鎮痛剤も忘れずに

取材・文/大野瑞紀、 八坂佳子 

冨川万美さん NPO法人MAMA-PLUGの理事・アクティブ防災事業代表。東日本大震災の母子支援を機に、子連れや家族の防災を啓発するためにMAMA-PLUG設立に携わる。