佳子さま

《待ちわびし木々の色づき赤も黄も小春日和の風にゆらるる》

 新春恒例の皇室行事『歌会始の儀』が1月19日、皇居・宮殿「松の間」で行われた。今年のお題は「和」で天皇、皇后両陛下や秋篠宮ご夫妻などが詠んだ歌、それに応募作約1万5000首から選ばれた10人の入選者らの歌が伝統的な発声と節回しで披露された。

佳子さまが毎年楽しみにしている紅葉

眞子さんが英国留学で不在の間、弟・悠仁さまの相手をよくしていたという佳子さま(2014年11月)

 光沢のある薄い黄緑色に見えるローブ・モンタントと帽子姿で出席した秋篠宮家の次女、佳子さまの歌が冒頭のものだ。宮内庁の説明によると、佳子さまは、今年はいつ紅葉を見られるのだろうかと、毎年楽しみにしているという。昨年12月初旬、小春日和の日におそらく自宅のある赤坂御用地で赤や黄色に色づいた木々を見た佳子さま。青い空の下で、色鮮やかな葉が風に揺られてますます美しく見えた様子を詠んだという。

 元日、石川県の能登半島は大きな地震に見舞われた。甚大な地震の被害に配慮しつつも『歌会始の儀』は、初春らしい気品ある晴れやかな雰囲気に包まれた。会場となる宮殿「松の間」は、『新年祝賀の儀』や文化勲章親授式など重要な儀式で使われる。今回は、新型コロナウイルス感染防止のため昨年まで着用してきたマスクやアクリル板もなくなった。

 両陛下に続いて、秋篠宮ご夫妻と佳子さまが入場した。佳子さまは両陛下の前を通る際に丁寧に頭を下げ、両親と並んで席に着いた。

《鹿児島に集ふ選手へ子らの送る熱きエールに場は和みたり》

 昨年10月、秋篠宮ご夫妻が出席した鹿児島県での特別全国障害者スポーツ大会開会式で、地元の子どもたちが全国から集まった選手たちに「きばいやんせ」(頑張って)と熱いエールを送った。子どもたちの応援で会場の雰囲気が和んだことを思い出しながら、紀子さまが詠んだ歌だ。

儀式中の佳子さまの様子

今年1月19日に行われた『歌会始の儀』

 紀子さまの歌に続いて、秋篠宮さまの《早朝の十和田の湖面に映りゐし色づき初めし樹々の紅葉》という歌が紹介された。この歌は40数年前、早朝に十和田湖(青森、秋田両県)の周辺を散策し、澄んだ湖水と周囲の樹木の紅葉を楽しんだ、その時の光景を詠んだという。色づいた葉の風情を楽しむ姿勢が父と娘の歌で似通っていて微笑ましかった。

 儀式の間、佳子さまは背筋を伸ばして真っすぐ、前方を見つめていた。式全体の進行役である読師が、皇后さまの席から歌が書かれた紙を受け取って2度、皇后さまの歌を紹介した。最後に読師が、天皇陛下の席から歌が書かれた紙を受け取って3度、陛下の歌を詠み上げた。

 佳子さまは2014年12月29日、20歳を迎え成年皇族となり、翌'15年1月14日、『歌会始の儀』に初めて参列した。この時のお題は「本」で佳子さまの歌は、《弟に本読み聞かせゐたる夜は旅する母を思ひてねむる》というものだった。以前の記事でも触れたが、姉の小室眞子さんは当時、外国留学中で、両親が国内や外国を訪問して留守の間、弟の悠仁さまと佳子さまは一緒に過ごす。夜、就寝する前、弟に本の読み聞かせをしながら彼女は、仕事で遠くにいる母、紀子さまのことを思う情景を詠んだという。

 '22年、『歌会始の儀』のお題は「窓」で、佳子さまは《窓開くれば金木犀の風が入り甘き香りに心がはづむ》と詠んだ。宮内庁の説明では秋のある日に、佳子さまが部屋の窓を開けると、金木犀の香りが風にのって漂ってきた。甘い香りに触れてうれしい気持ちになったことを表した。

 続く'23年のお題は「友」。佳子さまの歌は《卒業式に友と撮りたる記念写真裏に書かれし想ひは今に》だった。高校の卒業式の日に友人2人と、記念の写真を撮ったという。後日、友人が、プリントした写真の裏側にメッセージを書いて佳子さまに渡した。その思いが3人の中で今も続いていると感じられたことを歌に詠んだ。

 陛下と秋篠宮さまの妹、黒田清子さんが紀宮清子内親王時代の1999年1月のお題は「青」。清子さんは、今の佳子さまと同じ年の29歳で、その歌は《まさをなる空に見えざる幾筋の道かよひゐて渡り鳥くる》。翌2000年のお題は「時」。清子さんの歌は《時空こえて宇宙のかなたに吾(あ)をまねくすばるより見し青き星雲》だった。

佳子さまの歌の特徴

2013年3月、学習院女子高等科の卒業式に出席した佳子さま。この日に友人たちと過ごした思い出を和歌に詠んだ

 歌会始の選者で山梨県立文学館長の三枝昻之さんに、佳子さまの歌の特徴などを解説してもらった。

「今回、『小春日和』という発想は応募作品にも意外に少なく、佳子さまの題の受け方に工夫がありました。そこが第一の注目点です。風景や人との交歓を和歌の五七五七七の展開に導かれて素直に表現するのが佳子さまの特徴で、今回の木々の色づきを喜ぶお歌にもその特徴が生きています。

 第二の特徴は、初句の『待ちわびし』から結句『風にゆらるる』へと流れるような自然な調べの心地よさです。その調べと『小春日和』という柔らかな題の受け方のマッチングも素敵ですね。

『小春日和』からは嫁ぐ前の娘の気持ちを歌った山口百恵さんの『秋桜』を連想する人などもありそうです。それはそれで否定しませんが、歌はまず表現されたとおりに読むことが大切です。『待ちわびし』には異常気象がやっと落ち着いて迎えた秋本来の色づく季節への安堵感と喜びを基本にして読むべきと私は考え、そういう点から評価しています

学習院大学在学中は和歌の研究をしていたという黒田清子さん(当時の紀宮さま)

 次に、佳子さまと清子さんの歌を比べてもらい、感想を聞いてみた。三枝さんはこう答える。

「佳子さまに比べると黒田さんの歌は想像力豊かで、イメージの広がりに特色がありますね。歌人としては黒田さんのほうがより個性的な表現ですね。母、美智子さまの影響があるのかもしれません」

 NHKの中継で『歌会始の儀』を見ながら私は、素晴らしい歌とは別のことが終始、気になって仕方がなかった。中央に座る両陛下の他に、女性皇族は秋篠宮妃紀子さまや佳子さまなど5人だったが、男性皇族は秋篠宮さまただ1人だったことだ。今は皇室も女性が活躍する時代なのだと見るのか、それとも皇室の将来が案じられる、と見るのか……。私の心にさざ波が立った。

<文/江森敬治>

えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など