大阪・関西万博推進本部長も務める吉村洋文大阪府知事

 当初の想定費用から約2倍の2350億円、大阪市民の負担額は一人当たり約1万9000円に膨れ上がった2025年大阪・関西万博の会場建設費。万博推進本部長を務める吉村洋文大阪府知事にとっては想定内なのかもしれないが、大阪府民や市民、国民からの“監視の目”は厳しくなる一方だ。

 そんな中、2億円もの費用を計上して物議を醸しているのが、会場内に設置する“公衆トイレ”。なんでも40カ所あるトイレのうち、若手建築家が設計するデザイナーズトイレを8か所設置するといい、うちの2か所の設備費用がそれぞれ約2億円になる。

 この“2億円トイレ”を含めたデザイナーズトイレを手掛ける建築家は、「トイレ」「休憩所」「展示施設」「ポップアップステージ」などの設計デザインのコンペにおいて、公募から1次・2次審査を経て選出された20組(合計23人)のうちの8組。

 256事業者から選ばれた建築家は全員が30代で、今後の設計・デザイン業界を背負っていく精鋭と言えよう。そんな彼らが設計する、中には2億円の費用を要するデザイナーズトイレ。すでに数名は公式HPやSNSにて、建築パースや完成イメージ図を公開している。

《本万博における重要なキーワードである「いのち(生命)」を建築のコンセプトの根幹に据え、建築の「生命性」について思考した建築思想「メタボリズム」を、1970年大阪万博から55 年の時を経てアップデートし再びこの大阪の地にリバイバルさせることを提案します。

 Y氏が提案したのはトイレを含めた会場施設の一部で、デザインコンセプトは「多様でありながら、ひとつ」。会期後には各ユニットごとに解体、他所に移設して再利用することも計画としている。

訪日外国人にもウケそうなトイレ

《土でつくる峡谷のような建築をつくります。土壁構法を現代の技術でアップデートする試みです。》

 まるで遺跡を思わせる独特な形状の土壁トイレを考案したのはH氏。映画セットにありそうなインパクトある異世界感は、訪日外国人にも喜ばれるだろう。

 3名からなる建築設計事務所『H』によるトイレは、全方面を偏光ミラー素材の外壁で覆った未来的デザイン。周囲の木々や草が映り込むオシャレな見た目は、一見するとトイレには見えない造り。

大阪・関西万博の公衆トイレ設計を務める建築家が公開したデザイナーズトイレ。「残念石」を利用するとのことだが

 各建築家がこだわりの公衆トイレを発案する中で、使用素材をめぐって賛否が起きたトイレもある。

《建築に"いのち"を宿す、をテーマにアニミズムの思想や石庭の文化をパークボーンにもつ日本において、石で楽しいトイレをつくりたいとおもいます》

 K氏が設計した“石のトイレ”だが、その柱に利用としたのが、約400年前に大阪城の石垣を築くために切り出されるも、訳あって使用されずに放置された通称「残念石」。これを万博で“再利用”して「万歳石」に変えようと、K氏を含む3人がプロジェクトを立ち上げた。

歴史的価値を損いかねないトイレ

 ところが、再利用計画に異を唱えたのが“お城博士”として知られる、城郭考古学を専門とする名古屋市立大・千田嘉博教授。

《木津川市の「残念石」を大阪・関西万博のトイレの柱にする計画。「残念石」は、矢穴や石材加工によって切り出した石のかたちに歴史的価値があります。さらに400年前に切り出して運べるように大坂へ川でつながった赤田川岸などに保管していたという石材の所在そのものに歴史的価値があります。

 自身のX(旧ツイッター)にて、残念石を建物の素材として使用する、保管場所から動かすことは“文化財としての歴史的価値を損いかねない”との見解を示したのだ。これに追随して、SNSでも「残念な計画」などと批判の声が上がるはめに。

 2億円を計上するのは便器数が50〜60個の大規模デザイナーズトイレとのことで、上記の建築家たちの設計トイレには該当しないのかもしれない。とはいえ多額の費用をかけた公衆トイレを設置する必要があるのか、まだまだ“つまり”は解消されなさそうだ。