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 今年元日に発生した能登半島地震。最大震度7を記録し、住宅など建物の倒壊や火災が相次いだのは記憶に新しい。そんな中、地震保険への関心が高まり契約数が伸びているものの、世帯加入率の全国平均は35%(2022年)にとどまっている。

世帯加入率の全国平均は35%程度

「地震で自宅が被災して住まいを修理または再建すると多くの資金を必要とします。政府の支援金制度や貯金があっても必ずしも十分とはいえません。加えて、住宅ローンが残っていたら、二重の負担になってしまいます。生命保険も大切ですが、今の時代、地震保険の補償を優先したい。特に地震のリスクが高い地域に住む人はしっかり備えておくべきでしょう」

 こう語るのはファイナンシャルプランナーの松浦建二さん。首都直下型地震、南海トラフ地震などの巨大地震は、今後30年以内に7~8割の確率で発生するといわれている。過去に地震が起きた宮城や熊本などの地域では地震保険の付帯率(新規火災保険加入者の地震保険付帯割合)が高まっている一方、東京などは全国平均(69.4%。2022年)以下だ。 

 そもそも、地震保険とはどんな保険なのか。

「地震や噴火、それに伴う津波によって生じた住宅などの火災、損壊といった損害を補償する保険です。火災による住宅被害は火災保険の守備範囲。ただし、地震や地震が原因で起きた火災、津波の被害は火災保険では補償されません。従って、地震による損害をカバーしてくれる地震保険が必要になるのです」(松浦さん、以下同)

 にもかかわらず、加入率が低いのはなぜ?

「政府と損害保険会社が共同で運営する公共性の高い保険でもある地震保険。特徴的なのは単独ではなく、火災保険とセットで加入すること。マイホーム購入で住宅ローンを組む際に火災保険の加入を義務付けられますが、地震保険は個人の判断に委ねられています。必要性が高くても危機感が低ければ加入は見送られるわけです」

地震保険の契約件数・世帯加入率・付帯率の推移

 契約中の火災保険に地震保険を付帯していない場合には中途加入もできる。

「補償の対象は居住用の建物と家財に分けられ、それぞれ加入する必要があります。保険金は火災保険の契約金額の30%~50%を範囲内とし、建物は5000万円、家財は1000万円の上限が設けられています。例えば、火災保険の建物の保険金額が3000万円だった場合、地震保険は900万~1500万円の範囲内で設定可能です」

 被災時に支払われる保険金の額は損害の程度に応じて決まる。建物・家財ともに「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4つの区分で判定される仕組みだ。建物でいえば、基礎・柱・壁・屋根などの主要箇所が時価の50%以上損害を受けたり、焼失・流失した部分の延べ床面積が70%以上だったりすると、支払われる保険金は契約金額の100%。大半損は60%、小半損は30%、一部損は5%の支払いになる。

「被災者に保険金をできるだけ早く、かつ公正に支払うために、このような仕組みが用いられています」

 保険料は住まいのある地域(都道府県)や建物の構造によって違ってくる。建物の構造は鉄骨・コンクリート造と木造の2種類に分かれ、耐火性能が低い木造のほうが保険料は高くなる。

「地域による差は地震の発生確率をもとにしています。例えば東京都は地震の発生確率が高く、今回地震が起きた石川県はデータ上低い。同じ建物の構造、同額の保険金をかけた前提で保険料を比較すると、その差は約4倍です。当然ながら東京都のほうが保険料は高くなるわけです」

 保険期間は最長5年(火災保険の保険期間が3年など5年以下の場合は同期間が最長)。1年で契約する人が多いが、保険料改定の影響を受けやすくなる点に注意したい。

「地震保険の保険料は値上がり傾向にあるため、1年ごとの自動更新のたびに保険料が高くなる可能性は高い」

 なお前述したとおり官民一体の公共性の高い保険なので、保険料はどこの保険会社でも同じだ。

損なく備える3つのポイント

 地震保険を安心安全かつ保険料の損なく備えるにはどうしたらいいのか。松浦さんは3つのポイントを挙げる。

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◆1 保険金は適正な金額をかける

 建物にかける保険金の適正額が1500万円だったとしよう。それに対して2000万、2500万円と補償を手厚くしたとしても、支払われる保険金は増えない。

「地震保険は建物の損害の状況を保険会社の調査員が判定し、その程度に応じて前述した保険金支払い金額のパーセンテージを導き出します。加えて建物の価値も判断材料に盛り込まれます。つまり、保険金をたくさんかけたとしても、損害の程度や価値判断によっては満額支払いにはならない。かけ損となってしまうケースがあり得ます」 

◆2 保険料の割引制度を利用する

 建物の免震・耐震性能に応じた各種の保険料割引制度が設けられている。これを利用しない手はない。

「例えば免震性能の高い免震建築物に該当した場合、保険料割引率50%の適用となります。そのほか耐震等級、耐震診断、築年数に関係した割引があり、適用を受けるには所定の書類提出が必要です」

◆3 代理店経由で加入するのが賢い 

 保険の加入は代理店を通じて申し込むか、ネットを通じて個人で申し込むかに大別される。後者のネットのほうが手軽だが、松浦さんは代理店経由を推す。

「ネット申し込みの場合、加入者がネット損保などと直接やりとりしなければなりません。手続きに手間や時間をとられ、保険金を受け取るときの書類の準備なども大変です。代理店経由の申し込みなら、それらの作業は担当者のサポートを受けながらできます。専門知識を武器に保険会社と交渉してもらえば、保険金を多く受け取れる望みもあります。ですから代理店経由が望ましい」

 ここまで持ち家を前提としたが、賃貸住まいの地震保険の備え方も見ていこう。

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 賃貸の場合、建物の補償は大家が火災保険とセットで契約するため不要。

「家財のみ、火災保険とセットで加入すればいいでしょう」

 家財とは電化製品、家具、食器、衣類などが該当。30万円を超える貴金属などは補償の対象に含まれない(持ち家の場合も同様)。

「賃貸に限らないですが、『うちには価値あるものはないから』と、家財の保険金を少なめに設定しがち。でも実際、壊れた家財を1個ずつ積み上げたら、意外と大きな金額に達します。家の中にモノが多い人や、タワマンなどの高層階に住む人は揺れが大きいので、手厚くしたほうがいいかもしれませんね」

 地震大国日本。いつ何時、そのときが来るかはわからないが、発生確率が日に日に高まるエリアは少なくない。

「人ごとに考えず、改めて地震保険にも目を向けてほしいです」

 備えあれば憂いなしを肝に銘じておこう。

建物保険金1500万円の地震保険保険料を比較

【東京都】
主として鉄骨・コンクリート造の建物2万4750円~4万1250円
主として木造の建物3万6990円~6万1650円
【石川県】
主として鉄骨・コンクリート造の建物6570円~1万950円
主として木造の建物1万80円~1万6800円
※日本損害保険協会のHPで試算した東京都と石川県の地震保険料の比較

松浦建二さん●2002年からファイナンシャルプランナーとして主に個人のライフプラン、生命保険見直し、住宅購入サポートなどの相談業務を行っている。生保だけでなく損害保険にも詳しい。雑誌、テレビなどのメディアに多数登場。
教えてくれた人……松浦建二さん●2002年からファイナンシャルプランナーとして主に個人のライフプラン、生命保険見直し、住宅購入サポートなどの相談業務を行っている。生保だけでなく損害保険にも詳しい。雑誌、テレビなどのメディアに多数登場。

取材・文/百瀬康司