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 世界有数の長寿国となり、「人生100年時代」を迎えた日本。そこで問題になるのが、長生きするほど高まる認知症のリスク。'25年には高齢者の5人に1人が認知症になるという予測も。

 認知症の予防法としてよく知られるのが、頭をよく働かせること。脳の専門家・加藤俊徳先生は、その鍵になるのが「朝の過ごし方」と話す。

“朝活”で脳がイキイキ若返る

「朝は7時台にすっきりと目覚めて、9時には脳の働きをピークに持っていくことがポイント。朝の時間帯に速やかに脳を覚醒させることで、脳が活性化し、日中のパフォーマンスが変わってきます」(加藤先生、以下同)

 朝の脳の覚醒が不十分だと、脳を効率よく働かせることができず、本来自分が持っている能力を使い切ることができない、と加藤先生は語る。

「睡眠から覚醒へと切り替える五感のスイッチを同時にオンにできるのは、朝、目覚めてからしばらくの間だけです。

 このタイミングを逃すと、脳が覚醒しきれず、脳も身体もダラダラとした状態が続き、脳の認知機能(記憶や判断といった知的な働きのこと)も低下します」

朝の過ごし方で“脳の覚醒度”がこんなに違う!(出典:加藤先生著書『やる気が目覚める脳の朝活』より)

 脳がぼんやりしたまま過ごすことで物忘れや、仕事や家事がはかどらず、疲れやすいなどのデメリットが。

 実際に中学生のころから夜型で「夜のほうが頭がさえる」とさえ思っていた加藤先生も、50歳を過ぎたあたりから脳の衰えや疲れやすさを感じるようになったという。

「日中にぼんやりした眠気に襲われたり、考えがなかなかまとまらなかったり。このままでは将来、認知症になるのではないかといった恐怖心も抱くように。そこで私が実行したのが、これまでの脳研究で得た知識から導き出した“朝活”。

 私がこの朝活を始めて10年近くになりますが、60歳になった今が一番、脳が働いているのを感じます」

 ポイントは、朝に脳の覚醒度を上げると、夜に脳がしっかり休息モードとなること。

「この夜の休息も非常に重要で、8時間程度の良質な睡眠をとっている人は、昼間の脳の活動量が増えます。つまり朝を制することで、24時間、好循環が生まれるのです」

認知症を防ぐ朝の新習慣

「脳が覚醒している」とは、目が覚めているだけでなく意識や感覚がしっかり働いて、脳と身体が活発に活動できる状態。

 この状態までしっかりギアを上げるための朝活をご紹介。脳の衰えを感じてきたなら、年のせいだけにせず、まずはトライ!

1:お気に入りの“朝ラジオ”を聴く

「朝の時間帯にお気に入りのラジオ番組を聴く習慣をつけましょう。興味がある内容なら、自然と『次に何を言うか』を予測しながら聴くので、脳トレにもなります」(加藤先生、以下同)。

 テレビと違い、視覚情報がないラジオは聴覚を刺激するのにうってつけ。家事や化粧の際に手を動かしながら聴けば、運動を司る脳も働いて、より脳活につながる。

1:お気に入りの“朝ラジオ”を聴く ※写真はイメージです

2:朝散歩は耳を澄ませて

「朝日を浴びて外気に触れる朝散歩は、非常におすすめの朝習慣。私は毎日4km歩いています。その際、聴覚も刺激するために、周囲の音に注意を向けてみてください」

 静かな時間だからこそ、鳥のさえずりや、周囲の物音、その日ならではの発見があったり。散歩の楽しさもアップしてくれます。

3:朝片づけでスッキリ

 片づけは寝起きのぼんやり脳を覚醒させる最適アクション。

「私が行っているのは、洗濯物を干すこと。五本指をしっかり使いますし、どこに何を干すかも考えるので脳への刺激になります。夜にダラダラ行うよりも、朝のリセット習慣を」

4:音読をする

 声を出すことで、話したり伝えたりするときに働く脳の部位を活性化。新聞のコラム、今日やりたいことなど、内容はなんでもOK。

「ただ目で追って読むよりも、声に出したほうが視覚、聴覚が鍛えられ脳への刺激になります。抑揚をつけたり、感情を少しつけてみるなど工夫してみましょう」

 また、「今日は声が出にくいな」と自分自身の細かな変化に気づく効果も。

4:音読をする ※写真はイメージです

5:鏡を見てにっこり笑う

 睡眠中は顔の筋肉がほとんど動いていないため、笑顔をつくる動作は表情筋の運動になるほか、「今日は昨日より口角が下がっているかな」と、表情を注意深く見ることで視覚を働かせる効果も。

「睡眠中は目を閉じて、視覚をシャットダウンした状態。意図的に何かを見ることで、一気に脳を覚醒状態へと持っていけるんです」

5:鏡を見てにっこり笑う ※写真はイメージです

6:朝シャワーを浴びる

 朝のシャワーは、皮膚を刺激し、自律神経を休息モードの副交感神経から活動モードの交感神経優位に切り替える有効な方法です。

「シャンプーなどをすることが、手指の運動にもなりますよ」

7:朝電話で、親子で認知症予防

 離れて暮らす親への定期連絡も、朝にすれば認知症予防に。しゃべることで“伝える”脳が働き、さらに姿が見えない相手の状況を想像することで、“想像する”脳を活性化、話を聞くため聴覚も刺激される。

「50代以上になると、自分ひとりで脳を働かせるのはなかなか難しいもの。会話を楽しみつつ、親の認知症予防にもなって一石二鳥です」

8:LINEの返信は朝に

 加藤先生が最近取り入れている朝活が、メールの返信。

「頭が休息モードに入っている夜よりも、朝に返したほうが圧倒的に速い!1日の始まりに返信内容を考えて頭を働かせることは、記憶力のアップにもつながるんです」

 夜ダラダラとスマホを眺める予防にもなるので、LINEなどの返信は、朝にまとめて。

9:アナウンサーの言葉を繰り返す

 1人暮らしであまり日中会話をしない人は、テレビのニュースを見ながら、アナウンサーの発言を正確にリピートするという方法もおすすめ。

「まずアナウンサーが話したことにきちんと耳を傾けなければならず、その次に声に出すことでより脳が活性化します」

 テレビだけでなく、ラジオや移動中の電車などのアナウンスなども利用してみて。聞きもらしや、聞き返しが減ることも!

9:アナウンサーの言葉を繰り返す ※写真はイメージです

10:ToDoリストを作る

「1日の活動を始める前に、スケジュールを思い浮かべ、やることを決めておくことで、脳の活性化スイッチが入ります」

 そのToDoリストは箇条書きにすること。字を書くなど指先を使った作業は末端まで神経が刺激され、さらにやり終えたことに線を引くなどして消していけば達成感も得られる。

11:毎日続けられる簡単な運動をする

 朝のルーティンに、簡単な運動を1つ組み込んで。

「以前、100歳以上の元気な人たちに取材したことがあります。その共通点のひとつが、毎朝なんらかの体操を習慣としていたこと」

 無理なく続けられることが大切なので、ストレッチでもラジオ体操でもOK! 積極的に階段を使ったり、ながら体操で片足立ちをしたりなど始めやすいものからトライ。

11:毎日続けられる簡単な運動をする ※写真はイメージです

12:柑橘類で幸福度アップ

 朝食には、柑橘系の果物や、プルーンなどのドライフルーツを添えて。甘さと噛み応えが脳を目覚めさせてくれる。

「柑橘類は、幸福度をアップさせてくれるという研究結果もあるんですよ」

朝のワクワクが認知症予防の鍵

 加藤先生はこれまでの診察経験から、ミドル世代の女性の多くが、人生を楽しむことを忘れがちだと話します。

「『やらなければ』『こうあるべき』が先に立つと、人はどんどん生活がつまらなく感じたり、緊張してしまう。一生懸命やりすぎている人が多いんですね。

 しかし、本来、心身が健康な状態とは、『生きていて楽しい!』と思えること。その感覚を取り戻すことも、認知症予防になります」

 紹介した12の“新習慣”は、朝を元気にスタートさせ、「今日は何しよう」とワクワクした状態に持っていくコツ。そして、加藤先生自身が実践し、効果を感じている方法でもある。

「日中の脳の覚醒度が高いと、ポジティブな状態で過ごすことができます。いくつになっても遅いということはありません。紹介した朝習慣のうち、1つでもいいので楽しんで続けてみてください。そうすれば脳がずっと元気でいられますよ」

加藤俊徳先生●医師・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。独自開発したMRI脳画像法を用いて脳の診断・治療を行う。認知症の専門家。著書に『やる気が目覚める脳の朝活』(マキノ出版)、『脳のメカニズムについて加藤俊徳先生に聞いてみた』(Gakken/4月25日発売)など。

教えてくれたのは……加藤俊徳先生●医師・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。独自開発したMRI脳画像法を用いて脳の診断・治療を行う。認知症の専門家。著書に『やる気が目覚める脳の朝活』(マキノ出版)、『脳のメカニズムについて加藤俊徳先生に聞いてみた』(Gakken/4月25日発売)など。

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取材・文/仲川僚子