百田尚樹の原作は、累計発行部数546万部を突破。同名映画のヒットも記憶に新しい。そんな『永遠の0』が3夜にわたるスペシャルドラマとして放送される。主演は向井理。クールに思われがちなこの男が抱え持つ“本音”に迫る。

デビューして10年 積み重ねという自負

向井理
撮影/伊藤和幸

 朝ドラ『ゲゲゲの女房』(’10年)で大ブレイク。大河ドラマも経験し、今や連ドラや映画の主演の常連。ただ、決して鳴り物入りの華々しいデビューではなかったと振り返る。

「最初のころなんて右も左もわからないし、セリフなんてなかったし、ド下手だったし、俳優業とは何なのかなんて全然わかっていなかった。でも、その当時なりに、その年齢なりに、いろんなことを考えて、工夫してやってきた。その積み重ねだと思うんですよね」

 だからこそ、今回、自分を主演に選んでもらえたのだろうと分析する。

「単純に運がよかっただけだと思います。ただ、ずっと求められる以上のものを返そうとはしてきました」

 謙虚でありながらも、その底に流れているのは、確固たる自負心。

感銘を受けた体験がスタートだった

「監督と飲みに行ったときに“ヒーローは作りたくない”“わかりやすい作品にしたくない”と2人で勝手に決めました。そのときに“あぁ、この人とは共犯になれるな”とすごくうれしくなったのを覚えてます」

 懐かしそうに思い返す。演じたのは天才零戦パイロットの宮部久蔵。

「原作を読んだとき、主人公を取り巻く人たちが、宮部の人物像を思い思いに作り上げている、という印象でした。臆病であれ、卑怯であれ、素晴らしいであれ、何であれ……みんなが作り上げているのが宮部。だから、証言する人ごとに異なる印象を作れるように取り組んだつもりです」

 好きだと公言している原作。そもそも読んだのはいつ?

「4〜5年くらい前に、人にすすめられて読みました。最初は、正直“なんでこんな人の半生を追っていかなきゃいけないんだろう”と思いましたが、読み進めるうちに、ミスリードされたなと気づきました。最後に宮部という人の本質に迫っていくスピード感と序盤のスピード感は全然違う。謎解きの要素もあり、取材も緻密で、読み物としての完成度にすごく感銘を受けましたね」

百田尚樹の原作は、累計発行部数546万部を突破。同名映画のヒットも記憶に新しい。そんな『永遠の0』が3夜にわたるスペシャルドラマとして放送される。主演は向井理。クールに思われがちなこの男が抱え持つ“本音”に迫る。

映画版のヒットも「比較対象ではない」

向井理
撮影/伊藤和幸

 向井に出演オファーがあった段階で、すでに映画化(岡田准一主演)も進行していた。

「あんなにヒットするなんて……なんか、後乗り感がありますよね……(笑い)」

 珍しく冗談を飛ばしつつも、映画版は見ていないという。理由を尋ねると、特にないですとクールな答え。

「僕が向き合ってきたのは原作小説。そのおもしろさに引き込まれたひとりなので、単純にその映像化に参加できる喜びだけ。タイトルは一緒ですけど、そもそも違う作品をやる気持ちでいました」

 映画には映画のやり方があり、逆に映画でしかできないやり方もあり、それがハマったのだろうと分析するが、比較対象ではないと言い切る。

「ドラマは3夜で7時間もありますから。短期決戦ではないので、すべてにおいて気を引き締めていかないといけない。(映画と)どっちが大変か、なんてわからないですけど、僕は命がけでやったつもりです」

 宮部の人物像を語り紡いでゆく証言者も、原作に忠実。監督は“生々しさ”を追求すべく、撮影は長回しを選んだ。

「カメラマンの大変さを思うと、カットの後半でセリフを噛めない(笑い)。すごく緊張感が出てよかったですね。もちろんフィクションなんですが、“ひょっとしたら、こんなこともあったんじゃないか”と思ってもらえるように」

 昨夏から取材を重ねる中で、向井は“きれいごとではなく、宮部は人殺し”“殺し合いである戦争を絶対に賛美してはいけない”と繰り返し語っていた。

「見る側のエネルギーもすごくいる。見ることで傷つくこともあるかもしれません。でも、そうやって傷つかないとわからないこともあると思うんです。第3夜の最後まで付き合っていただけたら、残さなければいけないメッセージが、必ず見えてくると思います」

百田尚樹の原作は、累計発行部数546万部を突破。同名映画のヒットも記憶に新しい。そんな『永遠の0』が3夜にわたるスペシャルドラマとして放送される。主演は向井理。クールに思われがちなこの男が抱え持つ“本音”に迫る。

青臭い「気負い」がすごく気持ちいい

向井理 『永遠の0』
撮影/伊藤和幸

 撮影終盤の食事は水と塩だけ。体重は8㎏減り、幻影を見るまでに至った。心身をすり減らしながら作り上げた本作だけに、やはり自信が?

「僕は普段、そう思うタイプではなく、“どう思われるかな?”と不安に思うほう。でも、今回はいいものができたと思っています。正直、撮影中から思っていました」

 こんなにも自信を持ち、こんなことを言う自分も珍しいと笑う。

「戦争ものって、誰しも気負うんですね。僕もそうですし、ほかの役者さんたちも。特に第1夜だと、満島真之介くんの気負いはすごく気持ちよかった。いい意味での青臭さがすごく映えるので。キャリアに関係なく、現場に持ってきた熱量でどんどん飛び越えていく。それを僕が受け、返していく。お互いに感化されながらやっていましたね」

 中尾明慶、賀来賢人、工藤阿須加、尾上松也……誰しもが熱い思いを持って撮影に臨んでいることを、芝居しながら痛感したという。

「負けてられないな、と思いました。軽い作品ではないので、何年かに1度しかできないですけど、でも、その何年分かのパワーを全部つぎ込んでやってやろう、と。そして、撮影当時にできる限りの全力を尽くしたという自負心はありますね」

 並々ならぬ思いを寄せる本作だけに、新たな代表作になることを願っているのかと思いきや、

「気にしたことがないですね。それは、自分ではなく、周りの人が決めるものですから。僕はこの作品だけで終わるわけではないので、今後はこの熱量を超えていくものを残さないといけない。そういう意味では、すごく高いハードルのものを作ったな、という後悔はあります。これを超えていかないと“落ちたね”と言われますから」

 冷静でありながらも、この男が胸の内にたぎらせている熱量は計り知れない。

後輩に伝えた思い

 向井にとって戦争ものは4作目。特攻隊員の役作り(’07年公開『俺は、君のためにこそ死ににいく』)で自衛隊に体験入隊もしている。

「あのときは本当に必死でした。その蓄積があるから、今回は所作の指導を受けずにできました。また、今回は戦争ものが初めてという若い役者さんもたくさんいたので、自分の経験を伝えることも、ひとつの役目だったのかなと思っています。次回また戦争ものに出演するときに〝そういえば、こんなふうに言われたな〟と、少しでも思い出してもらえたら。みんなの経験になればと思いました」