■目指したのは、何も隠さないこと

おくやま・よしえ●1974年3月11日生まれ。東京都出身。女優・タレントとしてテレビを中心に活躍中。2001年にヘアメークアップアーティストである稲葉功次郎と結婚。2002年に第1子となる長男を出産し、2011年に第2子となる次男・美良生くんを出産。自身のブログで次男の「ダウン症候群」を告白した。
おくやま・よしえ●1974年3月11日生まれ。東京都出身。女優・タレントとしてテレビを中心に活躍中。2001年にヘアメークアップアーティストである稲葉功次郎と結婚。2002年に第1子となる長男を出産し、2011年に第2子となる次男・美良生くんを出産。自身のブログで次男の「ダウン症候群」を告白した。撮影/吉岡竜紀

 37歳で次男・美良生くんを出産したタレントの奥山佳恵さん。1年半後、美良生(みらい)くんがダウン症であることをブログで告白。昨年は、TBSの番組『私の何がイケないの?SP』に出演し、出産後から今に至るまでの思いを語り、大きな反響を呼んだ。

 今回出版された『生きてるだけで100点満点!』は、奥山さんが書きためた育児日記をまとめたもの。当初は、自分と対話するように書き記したリアルな心の声を公表する予定は全くなかったという。

「育児日記はほとんど原文のままです。ついこの前まで、公の場に出すものではないと思っていました。でも、美良生くんが生まれて1年半後にブログで公表して……。その時点でだいぶ覚悟ができました。開き直ってというか、堂々と言えるようになったんですね。その後、テレビで公表する機会をいただいて、多くの人に知っていただいた。

 で、今度は本。私は、強がりで今、楽しいよって言ってるんじゃないんです。過去の中で揺れ動く時間というのがあって、今の私がある。日々、葛藤があったうえでの1年半後の公表でした。その日々を包み隠さずお伝えすることで、みなさんに理解を深めていただけるとうれしい。そう思って育児日記を中心に本にしました。だから、包み隠さないということが、今回、一番この本で心がけたことなんです

 しかし、奥山さんが現在の心境に至るまでの道のりは容易ではなかった。

「最初は不安で、これからどうしようと思って絶望の中にいました。今思えば、わからないから不安だったんですね。見えない未来っていうのは、こんなに人を不安にさせるのかと思いました。先行きが見えない怖さで前に進めなかった。ところが、いざ生活が始まってみたら、怖いことなんか何も起こらなかった。少しずつ、美良生くんに親にしてもらってるというのもあると思うんですけど、最初に恐れおののいていたものなんか何もなかった、というのが実感です

 美良生くんとの生活は、「意外と普通」と語る奥山さん。それに対し、同じダウン症の子どもをもつ親御さんたちからは、「よくぞ言ってくれた!」と反響があったという。

不安の根っこにあったのは、知らないってこと。だから、当時私が抱えていた不安を、少しでも世間から払拭(ふっしょく)できるといいなと思う。その結果、うちの子も生きやすい世の中になるんじゃないかと。“知らない”を減らせたらうれしいです

■ゆっくり育つ豊かさ

 ダウン症の子どもを育てるとはどういうことなのか? 迷った奥山さんは、ネット検索であるサイトにたどり着きます。サイトのタイトルは『オランダへようこそ』。障がいのある子どもを育てるのは、“イタリアに行くつもりで準備していたのに、オランダに到着してしまったようなものだ”という内容です。

「この文章に触れて、何の涙かわからないんですけど、猛烈に泣きました。悲しい気分とは違うんですけど。意味がとてもわかると思ったんですね。私はイタリアに行くつもりで荷造りをしていたのに、着いたのがオランダで、引き返せないと言われたような気持ち。で、イタリアに行きたかったのに……とずっと思ってました。どう楽しめばいいのか? なぜイタリアに行けなかったのか? そんなことばかり思うんですが、実際行ってみるとオランダはオランダでいいところだった、と。

 でも、当時はそんな境地に行き着けませんでした。やっぱりイタリアに行きたかったというところで悲しんでいたんです。でも、時間の経過とともにオランダのよさがわかった。最初はイタリアのお友達とは疎遠になっちゃうと思ったんですね。でもそんなことはなかった。障がいのある子を授かって、健常のお友達と遊べなくなるなんてことはなかった。プラスアルファ、新しい世界観が加わり、世界が広くなっただけだったんです」

 美良生くんがダウン症だと知って、長男の空良(そら)くんは泣きながら崩れ落ちたという。でも、「僕の弟は成長がゆっくりだから可愛い時期が長いんだ」とすぐに立ち直ったそう。ゆっくり育つ美良生くんは、奥山さんにどんな影響を与えたのだろうか。

「成長がゆっくりなぶん、本当にひとつひとつに感動するんです。長男のときは、本当に瞬く間に育児の時が過ぎていったんですね。健常の子どもだと、それはそれで悩みがあって、早くオムツが取れないかなとか、早く歩かないかなとか。

 でも、美良生くんの成長は、それとは違うとらえ方をしています。比較しない子育て。健常の3歳とできることが違うので、もう比較のしようがないんです。健常の子だとどうしても比較しちゃうんですけど、そうではなくて、その子をそのまま見てあげるという幸せを知りました。美良生くんがきてくれたおかげでわかったのは、比べるって誰も幸せにならないってこと。本当に、生きてるだけで100点満点なんだと教えられました

(取材・文/ガンガーラ田津美)

『生きてるだけで100点満点!』奥山佳恵著 1300円 ワニブックス
『生きてるだけで100点満点!』奥山佳恵著 1300円 ワニブックス

■取材後記

奥山さん一家は、ヘアメークアップアーティストのパパ、長男の空良くん(小6)、次男の美良生くん(3歳)の4人家族。奥山さんによると、パパは「本当に怒らず、感心してしまう」そう。空良くんは「普段は頼りないけど、いきなり核心をつく」んだそうです。楽しい一家の暮らしは、イラスト満載のブログ『奥山佳恵のてきとう絵日記』でチェック!