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 ドラマや映画で活躍し、舞台役者としての評価も高い柳下大。役者デビュー10周年を迎える彼は、舞台の本番中に負傷し、昨年、半年間もリハビリを余儀なくされていた。

 そんなときに演劇の“母”、演出家の宮田慶子氏が支えになったという。

「ケガをして迷惑をかけたときも“大丈夫だよ”と声をかけてくれました。その時すでに『オーファンズ』は、僕が宮田さんに“僕主演で、ウチの製作の舞台で演出をしてほしい”と直談判した後で、上演が決まっていたんです。

 “ちゃんと治して戻っておいで”という励ましをいただいて。少しずつ松葉杖に頼らなくなり、サポーターがはずれて気持ちもラクになりましたし、“宮田さんとまた舞台ができる”という思いが糧になりました」

 傷を負った舞台も、療養後初の舞台も宮田氏の演出。“ピンチを救ってくれた宮田氏のためにも”と、どん底から這い上がってきたのだ。

「舞台復帰作ですし、10周年の1作目ですし、なによりやっと実現できた宮田さんとの作品なんです。いろいろなモノが重なって、幸せだなって思います。ケガもすっかりよくなりました。スタッフさんに“本当にもう平気なのか?”と心配されるくらい(笑い)」

 ケガをして、当たり前の毎日を失い仕事さえも変えたくなるほど大きな壁にぶち当たった。“当たり前”の毎日を失ったからこそ、そのありがたみに気がついた。

「宮田さんに今回の演出をお願いする前から、実は、自分が“役者”として立ち止まっているように感じていたんです。自分のこれからの役者人生このままじゃいけない、もうひと皮むけたいって。今回この『オーファンズ』で宮田さんに丸裸にしてもらって、役者としてステップアップしたいと思いました」

 復帰作『オーファンズ』では、濃密な会話劇、そして初の3人芝居に挑む。

「今まではわりと大人数での舞台が多かったので、そのぶん今回は密な関係性をつくることができました。作品のテーマは人とのつながりや絆、ぬくもりや温かさ。僕がこれまで当たり前のように思っていたことは恵まれていたからなのだと再確認できました。ネットやSNSが当たり前のように普及している現代に合った、大事なことを思い出させてくれる作品です」

 両親を失った2人の孤児。強盗や恐喝をして生計を立てる兄のトリートと、幼いころにアレルギーを引き起こし、以来10数年間、家から出たことのない弟のフィリップという2人の兄弟が、同じく孤児の中年男性・ハロルドに出会う。

 それまで2人だけの世界しか知らなかった兄弟の関係が、ハロルドに出会うことで大きく変わっていく。柳下は兄を演じている。

「僕にも弟が2人いて、上の弟とは4歳差。トリートとフィリップの年の差も4歳差なので、ちょうど同じ感覚ですね。僕も弟を暴力で押さえつけていた部分があるので、トリートの気持ちもわかります(笑い)見に来てくださる方にも、宮田さんにも喜んでもらえる作品にしてみせます」

 今年の目標である“再スタート”を胸に、今まで避けてきたことにもっとチャレンジしたい、と目を輝かせる。

「この挑戦を成功させて、今までの自分よりも、たくさんの表情を持つ僕を見せたいと思います」

 舞台『オーファンズ』は東京と神戸の2か所で公演される。日程=2月10日~21日(東京)、2月27日、28日(神戸)。役者3人による狭さゆえの濃密な人間関係が描かれている会話劇。