「ほとんどの腰痛は生活のクセから生じています。なかでも背骨のゆがみ、足の使い方、血流の悪さの3つが主要因」

 そう断言するのは、自身も長年、腰痛に悩まされてきた聖和整骨院院長の金聖一先生。

 どのようなメカニズムで腰痛になるのか、それぞれ順番に説明しよう。

 まずは背骨のゆがみ。理想的な背骨は、背筋を伸ばしたときに少し腰が反った感じになるS字カーブ状であるという。こうなっていれば、身体の重みを複数の腰椎で分散して支えることができる。

「ところが、猫背の人やお腹が突き出ている人は、姿勢が悪く背骨がゆがんでおり、1か所の腰椎に重みが集中しています。背骨周辺の筋肉に負担がかかって疲労がたまり、その結果、炎症を起こして腰痛に発展します

 次は足の使い方。実は、手と同じく足にも“利き足”や、“軸足”があるという。イスに座って無意識に足を組んだときに、上にある足が利き足、下にある足が軸足だ。実際に身体を動かしてみると、軸足に体重がかかっていることに気づくだろう。

「本来、人間は左右対称に重心がかかるよう身体を使うべきですが、実際の歩き方や立ち方、体重のかけ方には、利き足と軸足に左右差があります。この使い方の差が大きくなると、背骨や骨盤、肩などに複数のゆがみが生じるのです

 最後は血流の悪さ。年をとると、筋肉への血流が悪くなる。

血管の老化や毛細血管の減少で血流が悪くなると、関節が硬くなります。自由に身体を動かせず、姿勢が悪くなるのです。特に足首が硬いと注意! 足首が硬いと、かかとから足を地面につけて、つま先で蹴るという正しい歩き方ができなくなり、身体の柔軟性が失われ、腰やひざに負担がかかります

 このように腰痛には複数の要因が絡んでいるのだ。

3つの主要因を正座だけで解消!

 ところが、これらすべてを“毎朝、30秒正座するだけ”で改善できると金先生。正座するだけで腰痛が治るなんて、ウソみたいな話だが……。

正座するとき、人の背骨は自然にS字カーブを描いています。ですから正座を毎日続ければ、意識しなくてもこの姿勢をキープできるように。利き足と軸足の左右差に対しても効果があります。左右の足に同じ力で圧がかかるので、足首やひざまわりの筋肉、関節の状態を左右均等にととのえられます

 では、血流はどうか?

正座すると、ふくらはぎの筋肉が張った状態になり、ここに圧がかかります。これによってふくらはぎに新しい毛細血管ができて血流が増えるのです。その結果、ふくらはぎが“第2の心臓”となって下肢の血液を上半身へ送ります。さらに足首にも圧がかかるので、この部分の血流もよくなって足首がやわらかくなります

 ただし、ここで言う正座は、足先を重ねて座る正座とは違うので注意が必要。

「私のやり方はシンプル。左右のかかとをくっつけて正座するだけ。足先を重ねてしまうと、血流が止まるので効果が出ません

30秒で血液は全身を1周する

 “朝30秒だけ”というのも、重要なポイントだ。正座すると、約30秒で血液が全身を1周する。加えて、ストレッチ効果が出てくるのは、筋肉がやわらかくなる20秒過ぎから。20秒以降に筋肉は伸びていくのだ。

 そのほかの注意点は、

就寝前の正座は避けましょう。自律神経が活発になって眠れなくなります。朝は筋肉がこわばっていて血流も不足ぎみなので、絶好の正座タイム。女性なら化粧しながらやれば時間も節約できますよ

 詳しいやり方は、下のイラストを参考に。簡単に思えるが、やってみると思った以上にキツイ。

最初から実践できる人は10人中1人程度です。かかとは離れやすくなるし、太ももやふくらはぎの内側はしびれるし、左右の足の差を感じる人もいるでしょう。これは、足の筋肉の血流が悪くて硬くなっていたり、左右の筋肉の硬さに違いが出ていたりする証拠なのです

 まずは、『準備1』『準備2』で足指を伸ばしてから始めるとよい。

「それでも痛くて正座できない人は、お風呂の中でやってみて。浮力がきいて座れるようになるでしょう」

 たった30秒で、全身の血流がよくなって、筋肉のこわばりがとれ、腰痛が治る─正座には一石三鳥の効果があるのだ。

【準備1】運動不足の人は足首が硬いので、まずは準備からスタート。左右のひざ頭をなるべくくっつけて、ひざ立ちになる。左右のかかとをつけたまま足の指を立てる。
【準備1】運動不足の人は足首が硬いので、まずは準備からスタート。左右のひざ頭をなるべくくっつけて、ひざ立ちになる。左右のかかとをつけたまま足の指を立てる。
【準備2】尻のくぼみ(骨盤底筋)をかかとにのせるイメージで、尻を下ろしていく。そのままゆっくりと足首と足の指に体重をのせて、関節をしっかり伸ばす。
【準備2】尻のくぼみ(骨盤底筋)をかかとにのせるイメージで、尻を下ろしていく。そのままゆっくりと足首と足の指に体重をのせて、関節をしっかり伸ばす。
【実践1】左右のひざ頭、かかとをできるだけくっつけて、ひざ立ちになる。この時、できればふくらはぎもくっつける。
【実践1】左右のひざ頭、かかとをできるだけくっつけて、ひざ立ちになる。この時、できればふくらはぎもくっつける。
【実践2】尻のくぼみにかかとをはめ込むイメージで、ゆっくりと尻を下ろす。そのままの姿勢で正座を30秒キープ。このとき、左右のかかとをくっつけることを意識して。
【実践2】尻のくぼみにかかとをはめ込むイメージで、ゆっくりと尻を下ろす。そのままの姿勢で正座を30秒キープ。
このとき、左右のかかとをくっつけることを意識して。
このとき、左右のかかとをくっつけることを意識して。
【実践3】尻を持ち上げて再びひざ立ちになり、片足を立ててゆっくりと立ち上がる。すると、背骨は美しいS字カーブを描き、下肢から全身へと血流が巡っている状態になる。
【実践3】尻を持ち上げて再びひざ立ちになり、片足を立ててゆっくりと立ち上がる。すると、背骨は美しいS字カーブを描き、下肢から全身へと血流が巡っている状態になる。


※監修/金聖一先生 ●柔道整復師、聖和整骨院院長。(株)Body Healthcare Room SEIWA代表取締役。著書に『「30秒の正座」で腰痛が治る』(ダイヤモンド社)

※イラスト/本山浩子