健康を保つにはどうすればいいの? 病気にならないための有効な予防法は? 最近耳にする“女性特有のがん”、どうやったら避けられる?──年を重ねるにつれ、健康に対する不安や疑問は増していくばかりです。帰宅時の手洗い、うがいなどの日常生活の習慣に加え、インフルエンザのワクチンを打ったり、がん検診にまめに通ったりと、健やかな毎日のために努力している人は、多いことでしょう。

 しかし近藤誠さんの『もう、だまされない! 近藤誠の「女性の医学」』を一読すれば、今まで自分の信じてきた常識が、音を立てて崩れていきます。特に冒頭の乳がんに関しての記述は、安易に“切る”ということの怖さがわかります。

女性が過度に我慢を強いられる現状

「患者さんの身になって考えるということが、一番大事ですよね。僕が医者になった当時の乳がん治療は、“ハルステッド手術”といって、乳房とその裏側にある胸の筋肉まで切除する手術が標準でした。しかしアバラ骨の輪郭が浮き出てしまい、患者さんの精神的負担は計り知れない。わきの下のリンパ節もごっそり取るので、腕が上がらなくなったり、丸太のようにパンパンに腫れたりと、後遺症に悩まされることもしばしばで……。

 でも、乳房を温存しても治療成績が変わらない治療法をアメリカで知り、そうしたらそれを言わずにはいられなかった。自分の勤めていた病院を批判することになって、出世の道が閉ざされても、黙ってはいられなかったんです。無鉄砲だからやれたんでしょうね。そして現在、やっと一般にも知られてきた温存治療ですが、それでもまだ切りたがる医者は大勢います」

 近藤さんは開業医の家に生まれ、8つと9つ離れた姉たちがおり、忙しい母に代わり面倒を見てくれたのも女性のお手伝いさん。結婚後、授かった子どもは娘2人。そのためか、女性を大切にしなければという気持ちが生まれたと言います。

「日本の医療は女性を犠牲にしていることが多いんです。女性のほうが健康的な生活の人が多いからでしょうね、身体の基礎的な状態がよく、治療に耐える力を持っているんです。だからより強い薬や、より大きな手術をすすめられる機会が多い。今までたくさんの本を書いてきましたが、そんな現状を顧みて、改めて女性向けの本を出しました」

こんどう・まこと●1948年生まれ。1973年、慶應義塾大学医学部卒業。同年同大学医学部放射線科入局。米国留学を経て’83年より同大学医学部放射線科講師を務め、日本では知られていない乳がんの「温存治療法」を提唱し普及させる。その後も安易な手術、抗がん剤治療、検診などを批判。現在は「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」を運営。撮影/吉岡竜紀
こんどう・まこと●1948年生まれ。1973年、慶應義塾大学医学部卒業。同年同大学医学部放射線科入局。米国留学を経て’83年より同大学医学部放射線科講師を務め、日本では知られていない乳がんの「温存治療法」を提唱し普及させる。その後も安易な手術、抗がん剤治療、検診などを批判。現在は「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」を運営。撮影/吉岡竜紀

がん検診は無意味!?ワクチンはいらない!?

 どのページも目からウロコが落ちる情報が満載ですが、特に衝撃なのが、子宮がん、乳がん検診は受けないほうがいいという主張。

「僕が治療を始めた'80年代は、乳がん患者は2万人でしたが、今は7万人。この増えた5万人は検診でがんを見つけられてしまった人たちです。でも、乳がん死亡数は増えこそすれ、減ってはいない。もし検診、早期発見に意味があるなら、多少なりとも乳がん死亡が減ってもいいはずなのに。つまりは死ぬ乳がんと、検診で見つかるがんは無関係なんですよ」

 具体的なデータは、本の中にあるので、ぜひチェックをしてみましょう。

 ほかにも、子宮頸がん予防ワクチンの副作用の大きさ、高血圧=即座に病気という診断のウソ、清潔にするほど免疫力が落ちていくなど、読み進むほど、“お医者さんの何を信じたらいいの?”という気持ちが強くなります。

「医者が言うのもなんですが、医者はあてにしないことです(苦笑)。ただ例えばケガなどを治すために尽力している医者は、信用してもいいんじゃないかな。やっぱり医療は患者さんの生活の質を上げるには役立つものだから、そういう分野で働いている医者は、ためになると思います」

 なお、いいお医者さんを見つけるためには、減点法がオススメ。患者の話を聞かない、目を見て話さない、服装がだらしない、白衣が汚い、患者のプライバシーや羞恥心に配慮しない、ひとつの治療法しか提示しないなどは、ちょっと立ち止まって考えるきっかけになります。思ったよりも常識的なことですが、非日常である病院の中ではなかなか気づけないことです。

「健康であることを望むなら、特別なことはしなくてもいい。タバコは絶対に身体によくないので禁煙をすすめますが、それ以外なら、いろいろやって結局マイナスになることのほうが多い。急にジョギングしてひざを痛めたとか、心当たりはありませんか? 運動不足が気になるなら、せいぜい散歩程度でいいんです」

 近藤さんが世間でよしと言われているものに異を唱えるときは、3つのことを心がけています。ひとつ目はデータ的な裏づけと、それをもとにした推論をしっかりさせること。2つ目は患者さんに対する同情心。3つ目は同業者に対する怒りです。しかし、自分の意見を絶対的に正しいとは思っていても、患者にそれを無理に押しつけたくはないとも言います。

「それだと、治療法をひとつしか言わない医者と同じになってしまうからね」

 自分の身体のことは、多くの情報を集めて自分で決定することが、満足のいく人生のあり方だと実感です。


■取材後記

 国内各地からはもちろん、外国からも患者さんが訪ねてくるという、超多忙な近藤先生。お休みは基本的にないそうですが、風邪めったにひかず、ひいてもすぐ治り、外来を休んだことはないのだそう。健康の秘訣は「早寝・早起き。僕は7時に寝て3時に起きるよ」。7時就寝は無理そうですが、夜型の己を反省!

(取材・文/中尾 巴)