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国立大学の学長が新入生にスマホ依存症から脱するよう求めたことをめぐり、賛否両論が渦巻いている。学長発言は正論か、暴論か。そもそもスマホ依存症とは何か。発言の背景にある最新スマホ事情の功罪を追うと――。


 《スマホやめますか、それとも信大生やめますか》。4日、信州大学学長が新入生に対して「スマホ依存症」から脱することを求めた。この発言をめぐり、千葉大学の藤川大祐教授(教育方法学)はスマホを否定するのは「行きすぎ」と否定的な意見を述べた。一方、関西学院大学の鈴木謙介准教授(理論社会学)は「スマホの話の部分が主ではない」としながらも、

「個人の感想ならいいが、『スマホ依存症』という、研究の例があったり、場合によっては病気と認定されるようなことを引き合いに出すのは話が違う。そういう言葉を使って、学生たちに注意喚起するのはいかがなものか」という見解。

 では「スマホ依存症」とはどんな状態なのだろうか。

 藤川教授は「スマホがないと落ち着かず、日常生活に支障が出ている状態だが、はっきり病名として決まっていないので、私たちは『依存症』とは言わずに、ネット依存とか、スマホ依存と言う」と説明する。

 ただ、臨床研究では、問題視する例もあがってきている。アメリカでは’90年代に「インターネット依存症」として社会問題になった。日本でもネット依存外来を設置した病院がある。しかし、精神疾患としては現在、採用されておらず、スマホやネットへの依存を、病的な意味で「依存症」とするかは議論があるのが現状だ。

「『スマホ依存症』は、病気をイメージする言葉だ。単に長い時間スマホを使っている状態、中毒のようにスマホを手放せなくなっている状態、場合によっては病気として治療対象となる状態……などいくつものレベルがあるのに、(あいさつの中では)それをひとつの言葉でくくってしまった」(鈴木准教授)

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 さらに言えば、「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」と脅し文句とも取れるような言い方は、まるで、個人の力で依存状態から脱することができるといわんばかりだ。

 藤川教授は、スマホ依存のことは「まだわかっていないことが多そうだ」としながらも、「依存から抜けだすには生活改善しかない。そういう意味では、スマホなどの電子機器からいったん離れるのは意味があるが、それだけでは治らない。生活習慣を変えていくことが必要だ。ネット以外に娯楽を見つけることが大切。また、いじめなどの問題を抱えている場合、ネットの世界に逃げ込むということもあるので、根本的な解決策が必要」と指摘する。

 スマホを"中毒"的に使う人もゼロではないことは確かだが、依存状態を抜け出すのに、学生への注意喚起だけでは意味がない。

「授業ではこうしたテーマを扱うときはあるが、相談に来るのは少数だ。しかし大事なことは特別な人だけが陥ることではないということ。風邪をひくのはほぼ偶然なように、依存的な使用は、一定の確率で誰にでも起こることと知る必要がある」(鈴木准教授)

 むしろ、スマホ依存がいけないこととされると、相談しにくくなる。

「スマホ依存が悪いことだとされてしまうと、悩んでも相談に行けない。"悪いことをしたのは自分だから大人には相談できない"となってしまう。誰にでも起こる可能性があるトラブルとわかれば、相談できる。信頼関係がなければ、たとえ相談窓口を作ったところで意味がない」(同)


ジャーナリスト/渋井哲也(しぶい・てつや) ● 1969年生まれ。長野日報の新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションやネット犯罪を取材。著書に『実録 闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)や『学校裏サイト』(晋遊舎)、『気をつけよう!携帯中毒』(汐文社)など