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 入院して、手術でがん細胞を摘出し、その後は抗がん剤で化学療法……。ひと昔前まで、それが一般的ながん治療の流れだった。しかし近年、新たな治療法や副作用を抑える薬が続々登場。1回の入院期間はグッと短縮され、通院による治療が主体に。治療しながら日常生活を送れるように患者の暮らしも変わった。

■身体に負担がかからない治療法

 いま注目されているのは、光がピンポイントでがん細胞を撃つ『光治療』。がん細胞だけに結びつき、近赤外光をあてると化学反応を起こす物質を患者に注射する。あとは体外から近赤外線をあてるだけで、がん細胞が死滅するというのだ。日米共同で行う治験の開始が先月報じられたが、がんの種類によっては、すでに臨床現場で実施している医療機関もあるという。

 がん専門医である、菊池がんクリニックの菊池義公院長によると、

「患者さんの身体に負担をかけずに、がんを死滅させる方法ですから、開腹手術を行うよりも、はるかに回復が早いですね」

 作詞家で直木賞作家のなかにし礼が、食道がんを治療したことで知られるようになった『陽子線治療』も、身体に負担がかからない治療法のひとつ。

■抗がん剤も新薬が続々と承認

「抗がん剤治療というと、以前は入院して投与を行うのが一般的でしたが、いまでは通院が主流になっています。投与方法も変わり、1回に投与する量を減らして、数回に分けて投与する方法が有効であることがわかってきました」(菊池院長、以下同)

 副作用が出にくい薬剤が開発されてきたことも通院治療への道を開いたという。

「抗がん剤の副作用として吐き気が出るものもいまだにありますが、よく効く吐き気止めが出てきたおかげで、身体への負担は目に見えて減りました」

■早期発見を可能にする検査技術

 どれだけ画期的な治療法や新薬が開発されたとしても、がんは早期発見、早期治療が重要なことに変わりはない。現在、行われているがんの検査方法は主に2つ。超音波やCT、MRI、PETといった画像検査のほか、子宮頸がん検査のように身体の組織を採取して行う組織検査がある。

「子宮頸がんの場合、子宮膣部の細胞診検査とヒトパピローマウイルスの検査を併用することで将来、がんになる恐れがある『前がん病変』のうちに見つけることができます。子宮頸がんを撲滅するためには、若い人の検診率を高めていくことが大事です」

 画像診断では写らないほど小さながんを、いち早く発見するために注目されているのが『リキッドバイオプシー』という検査方法だ。リキッドは血液や尿などの液体を指し、バイオプシーは、生体の一部を採取して病気を診断することを指す。

「がんにかかると、ある特定のタンパク質やDNAの断片が血液中に流れ出てきます。それを解析することで、がんを見つけるという仕組みです。まだ開発途中ですが、将来的には血液を採るだけで、どの部位がどのようながんにかかっているのか、非常に高い精度でわかるようになるでしょう」

 高齢者や再発がんの患者には、特に適した検査方法だと菊池院長。

「体力を失った患者さんに開腹手術や内視鏡手術による生体検査は、なるべく避けたいところ。リキッドバイオプシーが実用化されれば、血液をとるだけでがんの性質がわかり、すぐに治療が進められます」

 従来の検査では見つかりにくい部位……すい臓、胆のう、卵巣などにできるがんも、早期発見が可能になるかもしれない。

 また、尿1滴で早期がんが高精度で見つけられるという検査方法を九州大学の研究グループが発表。微生物の一種である線虫が、がん特有の匂いを感知することから、がんがわかるというメカニズムだ。早期発見が容易になるのではと、期待が高まっている。

「治療や検査方法の進展で以前のデータはあてにならなくなりました。余命などの情報を深刻に受け止めず、前向きに治療に臨んでほしいと思います」