ひと夏の恋で、スラッと背の高い美男子をゲットしたアナタ! 「カレはモテすぎて心配なの」なんてノロケている場合じゃありません。なぜかイケメンばかりを襲う「気胸」という病気に複数の有名タレントが悩まされているんです。この病気に詳しい横浜市立みなと赤十字病院の河﨑勉医師に聞いてみると――。

 月9ドラマ『ようこそ、わが家へ』で好演した嵐の相葉雅紀クンや、モテ男の誉れも高い佐藤健クン。フリーアナウンサーの青木裕子との間に第2子が誕生したばかりのナイナイ・矢部浩之さんや、昨年、緊急手術を受けた『BUMP OF CHICKEN』の藤原基央さんなどなど─。

20150901 kikyo (5)

 今が旬のイケてる人気者ばかりを狙い撃ちしているかのような病気がある。それこそが、気胸という肺の病気だ。

「気胸とは、なんらかの原因で胸腔という肺が収まっている空間に空気がたまり、その圧力で肺の一部がさまざまな程度に押しつぶされる病気です。若く、長身で細身の男性に発症する場合が多くみられます」

 こう語るのは、横浜市立みなと赤十字病院の呼吸器内科部長・河﨑勉医師だ。長身細身の若い男性に多く起こることから、しばしば『イケメン病』とも呼ばれているようである。

 肺は小さな風船が集まったような臓器で、スポンジのように柔らかい。胸膜という膜に包まれていて、胸郭という胸を取り巻く骨格の中に収まっているが、肺の内部にブラという空気が入った袋(囊胞)ができたり、あるいは胸膜にブレブという、これまた異常な空気の袋ができることがある。

「このブラやブレブがなんらかのはずみで破れてしまうと、中の空気が胸腔という空間にたまり、肺を押しつぶしてしまいます。こうして起こるのが、気胸という病気なのです」

 発症の85%が40歳以下の男性で、もっとも起こりやすいのが15~25歳だというから、気胸はほぼ"若い男性の病気"ということができそうだ。

 では、その症状とは─?

気胸を甘く見たらいけない

「ブラやブレブがつぶれる際に起こる、突然の胸痛が挙げられます。またつぶれてもれ出た空気が肺を押しつぶすと、せきや呼吸困難を起こします。安静時に起きやすいという傾向がありますね」

 肺は2つある臓器で、たとえ片方の肺が気胸になっても、もう1つの肺が機能を補ってくれる。それゆえ気胸を起こすと前述のような症状を起こすものの、気胸になったからといって即、危険な状態になることはあまりない。だが、まれに緊急性が高いこともある。それが緊張性気胸と、両方の肺が同時に気胸を起こした場合だと河﨑医師。

20150901 kikyo (1)
18歳男性=原発性自然気胸のX線写真。もやのような細い網目模様は肺の中に走る血管。向かって左の肺に比べると、右の肺の上半分に網目模様(血管)がないことが見て取れる。肺が矢印の位置まで押しつぶされてしまっている。右側の2枚のCT画像は、輪切りにした体内を写し出したもの。肺上部(上)と比べても、下部(下)は特にひしゃげているのがわかる

「胸の中にどんどん空気が入り込み、圧が高くなることがあるのです。これが緊張性気胸ですが、心臓を圧迫し、場合によっては血圧が急激に下がったりして危険な場合もある。また、ごくまれに両方の肺に同時に気胸が起きる場合があります。こうなると呼吸ができなくなりますから、急を要する事態です」

 "せきや息切れ程度なら大丈夫"と、気胸を甘く見たり、放っておいたりしてはダメ。河﨑医師の言うとおり、考えてもいなかったようなことになる場合もあるからだ。

 事実、相葉クンも2002年に右肺、’11 年に左肺に気胸を発症。緊急入院したばかりか、一時は芸能活動引退も考えたことを告白。昨年には、『BUMP OF CHICKEN』藤原基央さんが予定されていたライブを延期、緊急入院して手術を受けている。

イケメンばかりがなぜこの病気に!?

 さてこの気胸には、前述どおり、"イケメン病"という別名がある。発症した人たちを見れば思わず納得の別名だけれど、しかしなぜ、長身でスラッと細身のイケメンばかりがこの病気になるの─!?

20150901 kikyo (7)

「それが、はっきりとしたことはわかっていません。一説には、成長期、胸郭や肺はどんどん成長していきますが、成長スピードには差があります。その差から肺に過剰な圧がかかり、気胸になってしまうのではないか、と。あるいは胸郭が縦方向に成長することで、長身細身の男性の肺上部の先端部分(肺尖部)に強い陰圧(肺外部より内部のほうが圧力が強い状態)がかかるのが原因ではないかと言われています」

 15歳前後から始まる成長期、この時期の男性の身長の伸びは目を見張るものがある。どうやらこれが、気胸が男性に多発する理由らしいとされているのだ。では、愛する夫やカレがこの気胸にかかってしまう可能性は高いのだろうか?

「気胸が増えているか否かについて正確な数値はわかりません。ですが、男性の体格が長身細身になってきていることを考えれば、減ることはないように思えますね」

 


河﨑勉 医師(かわさき・つとむ):横浜市立みなと赤十字病院・呼吸器内科部長。1994年、東京医科歯科大学医学部医学科を卒業。2007年より横浜市立みなと赤十字病院呼吸器科副部長。’14年より呼吸器内科部長。日本呼吸器学会の呼吸器専門医・指導医であると同時に、東京医科歯科大学医学部臨床教授、医学博士でもある