都内湾岸エリアなどで多く見られるタワーマンション。環境が人体に与える影響を調査してきた逢坂文夫さん(C財団学術研究員)は6階以上に住むと女性の流産率が高まるという驚きの研究結果を発表。しかし、この”高さ”が健康に与える影響は流産率ばかりではないという。

 こちらの表(上)を見てほしい。これは各階ごとに幼稚園児の起床時の体温割合をまとめたものだが、36度未満の低体温児が1~2階居住児では全体の2割強なのに対し、10階以上では3割強となっている。

20151117_mansion_grafBC

「高層に住むことで子どもが外に出なくなります。外に出なくなるから身体を使った遊びをしない・できない。それで低体温になるのです」(逢坂さん)

 低体温が万病の元であることは、ご存じのとおりである。

 さらには高層になればなるほど、アレルギー性疾患が増加するという調査結果も表(下)からわかる。

「コンクリート製で高気密のマンションは、換気に気をつけないとダニ、カビが発生しやすい。つまり高気密住宅ほど換気が必須となるのです。

 ところが高層では低層より風が強く吹くために、どうしても窓を閉め切りにする時間が長くなる。高層居住は、アレルギー性疾患も増える傾向にあるのです」

 逢坂さんの研究によれば、高層居住は子どもの数にも影響を与えている。“高層階ほど出生年齢が遅れる”“第1子出生期間も遅延する”という傾向があるほか、神経症にも影響しているという。

 海外での発表をもとに高層マンション問題を調査するジャーナリストたちのなかには、高層住宅特有の“揺れ”を原因に挙げる人もいる。

20151117 mansion001 (4)
逢坂文夫(おうさか・ふみお)さん ●1949年秋田県生まれ。'74年、北里大学大学院衛生学部修士課程を修了。東海大学医学部講師(基礎診療学系・公衆衛生学)在任中より徹底したフィールドワークを展開、'94年発表の『高層居住と健康─居住階数別の流産割合について』の論文で、各方面に大きな衝撃を与える。現在C財団学術研究員を務めている

 日本の高層建築には地震への対応が不可欠。揺れないようにするよりも、わざと揺れやすくつくり、地震の力を分散する構造を取ることがある。こうした構造のマンションでは、風などの影響で住んでいる人は気がつきにくい微妙な揺れがあり、それが影響しているのではないかというのだ。

 また気圧差が問題視されることもある。上空に行くほど気圧は下がり、100メートル上がるごとに気圧は約10ヘクトパスカル低下する。

 例えば、30階建ての高層ビルの場合、地上と10~30階を比較すると、高低差は約40~70メートルあり、地上との気圧差は約4~7ヘクトパスカルになる。これだけでも、少し耳が詰まる感じ(耳閉塞感)がしたり、耳痛などを引き起こす鼓膜膨隆がみられる。気圧差が、身体に何らかの影響を与えているのではないかといわれている。

 逢坂さんは高層マンションをつくる事業者に対し、次のように提言する。

「建物の高さの何が身体に影響するのか、あるいは高さの影響を少なくする暮らし方(軽減方法)について、デベロッパーとの共同研究を早急に提案したい。高層住宅は本来、こうした健康面への影響も考えてつくるべきものだからです」

 高層マンションを建てるなという意味ではない。通勤可能な場所にあり、ショッピングに便利なエリアに集中する高層マンションは、私たちにも購入可能な物件が多い。

「どのぐらいの頻度で外出すればいいのかなど、具体的な指針を設けたり、あるいは中層階に運動スペースを設けるなど、打てる対策はあるはずです。高層住宅を否定するのではなく、健康的に共存できる暮らし方を見つけだすのが大切なのだと思います」


《取材・文/千羽ひとみ》*本記事は『週刊女性』11月17日号掲載分のものに加筆修正したものになります。