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 5月31日、今井雅之さんのライフワークともいえる舞台『THE WINDS OF GOD』の千秋楽公演が沖縄県で行われた。

「今の率直な感想は“ぽっかり穴があいてしまった感じ”です。本当だったら今ごろ、“無事に終わりました”って報告に行っていたころですから。僕の中ではこの1か月間ずっと、今井さんと一緒に舞台に立っていた感じでした」

 彼が命をかけて守ってきた作品の主演を務めた重松隆志は、当日の様子をこう振り返る。

「会場には献花台や今井さんの笑顔の写真もあり、それを見てお客さんも入ってきているので、異様な空気ですよね。お笑い芸人がタイムスリップして特攻隊員になるという話なので、当然、笑いの要素も多いんです。でも、初めは全然笑いが起きなかった。ちょっと戸惑いましたが、沖縄の人たちの心にはちゃんと響いていたんでしょう。カーテンコールでは至るところから“ヒュー、ヒュー”という指笛や“ありがと~ね~”という大声援が飛んできました」

 “最後まで走り抜けたい”という願いもむなしく、千秋楽のわずか3日前に今井さんは息を引き取った。

「僕が最後に会ったのは、5月5日の東京での千秋楽のときです。終演後に車でお見送りをするときに、握手して“シゲ、地方公演は頼んだぞ。最後の沖縄にはオレが立つからな”と声をかけてくれました。今井さんと話したのは、この日が最後でしたね。とにかく病床での姿は誰にも見せたくなかったみたいで“病室には来るなよ”と周囲にも言っていました。亡くなった後、すぐに兵庫へ帰られたのも、そういうことがあったんじゃないかと思います」

 今回のツアーが決まったときから、絶対に最後は沖縄でやりたいと言っていた今井さん。これにもワケがあった。

「今年は戦後70年という節目の年じゃないですか。これが、沖縄でやりたかった大きな理由でした。15年くらい前に沖縄公演をやろうとしたらしいんですが、“悲しい記憶を思い出させないでほしい”という現地の方々の思いもあって、なかなか受け入れてもらうことができなかったそうなんです。

 僕が初めて出演させてもらった’06 年には、すでに沖縄でできるようになっていました。そのときに軽い気持ちで“沖縄行けるなんて楽しみですよね”と言ったら“お前ナメんなよ。俺がどれだけ大変な思いをして、沖縄の人たちに理解してもらえたのかわかってんのか”と本気で怒られましたから。“決して悲惨なことを伝えに来たんじゃない”と、今井さんは長い間、戦い続けたんです」

 訃報の2日後には、沖縄へ向けて出発しなければならなかった。キャストもスタッフも悲しみを抱えての移動となったが、その道中でもこんな不思議な偶然が。

「飛行機に乗って席に座るじゃないですか。しばらくして機長のアナウンスがあったんですが、なんと“今井さん”という方だったんです。みんな顔を見合わせていましたし、僕は鳥肌が立っていました。さらに、何気なく自分が座っている座席の番号を見たら、今井さんの年齢と同じ54列目で。こういうことってあるんですね。ちょうど移動中に葬儀も行われていたので、天に昇る途中に僕らに会いに来てくれたのかな」