「彼女はズボンとコートを着た状態で浴槽に倒れていたようです。部屋のテレビやヘアアイロンの電源は入ったまま。血の気が引く思いでした」

 自宅から病院までは、自転車で約15分の距離。病院側の素早い判断で、犯行わずか1時間後に、事件は発覚した。

 逮捕されたのは大阪府警阿倍野署地域課巡査長の水内貴士容疑者(26)。交際相手で、医療ソーシャルワーカーの白田光さん(23)の首を背後からベルトで絞め、殺害した。

20150217 wide (14)
白田さんは容疑者を「水さん」と慕っていた(SNSより)

 一昨年4月から1年間、容疑者は東日本大震災の被災地支援のため宮城県警に出向。街コンで当時、大学生だった白田さんと知り合い、大阪に恋人がいることを隠して交際をスタートさせたという。任務が終了し、帰阪する容疑者を追うように、山形出身の白田さんは東北を離れ、大阪の病院に職を見つけた。

 容疑者は「別れ話をしに行ったが、府警や妻に言うと言われ、カッとなって殺した」と当初供述したが、実情は異なる。白田さんの知人は、「昨年末から3回ほど、別れ話を持ちかけていたのは白田さんのほうなのに!」と証言。別れることを拒んだ容疑者は昨年8月、同職の女性(26)と結婚。警察関係者200人が出席した披露宴は、豪勢だったという。

「白田さんは事件3日前、彼が既婚者であることをスタッフに相談しています。容疑者のフェイスブックにアップされた結婚式の写真で、知ったそうです」(前出・上司)

 事件後、容疑者の母親を直撃すると、

「すみません。今は何も……」

 と泣きそうな声を絞り出したきり、沈黙を貫いた。高校時代、容疑者に剣道を指導していたという恩師は、

「アホや! と言いたい」

 と失望とやり場のない怒りがないまぜになった口調で、思いを吐き捨てた。“厳しい”と有名な剣道部がある高校で、大きな体格を生かした容疑者は稽古に取り組んだ。インターハイは補欠出場だったが、段位は5段。

「3つ年下の弟もインターハイ選手で、警官の道に進んだ。ご両親にとっては自慢の息子たちだったでしょう。遠方の試合にも夫婦そろって泊まりがけで熱心に応援に来ていました。どれだけショックを受けていることか……」

 犯行後、容疑者は、警察の道場で何食わぬ顔で剣道の稽古をしていたという。凶器に使用したベルトは、事前に準備していたものだったことも後にわかった。防犯カメラを欺こうとしたのか、殺害後は着替えて非常階段から逃走。さらに白田さんの携帯電話は電子レンジの中で、溶かされた形跡があったという。

 何もかもが浅はかであるが、証拠隠滅を図ったことは明々白々。職場や家庭を失いたくないという身勝手な男に命を奪われた被害者やその家族の、無念が晴れることはない。