7軒に1軒の「空き家大国」となってしまった日本。先祖代々の家を持て余し、その処分に頭を悩ませる人も増え続けている。「家や土地=資産」ではなくなった時代の、住まいのリアルを緊急報告!〈前編〉
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総務省統計局の平成25年住宅・土地統計調査をもとに編集部作成

■都心にも忍び寄る「空き家クライシス」の実態

 今から15年後、2030年夏。人口減少社会に突入して久しい日本は、2015年の人口約1億2688万人(総務省統計局最新データ)から1000万人以上も減らしている。住む人が減れば、住居も不要になるのは当然。マンションや一戸建ても、4軒に1軒が空き家になると想定されている。

 予兆はすでに見て取れる。総務省統計局の最新のデータによれば、2013年の総住宅数は6063万戸で、5年前に比べ304万戸増加している。一方、空き家数も820万戸と、5年前に比べ63万戸も増加。総住宅数に占める空き家の割合は過去最高の13・5%に達するというお寒い現状だ。

 不動産コンサルタントで『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)の著書がある長嶋修さんは、「地方ではわりと昔から空き家問題はありましたが、最近では大都市でも見過ごせない状況です」と指摘。その原因を、高度成長期にさかのぼり、次のように見いだす。

 1955年~1973年までの約20年間、年平均10%を超える成長率を誇った日本は、高度成長期の真っただ中にあった。「そのころ、地方から出てきた当時の30~40代が、都心から30~40㎞圏内に、いっせいにマイホームを建てたんですね」(長嶋さん)。

 都心のベッドタウンで育った子どもたちは、さらに都会へと生活拠点を求め、地方には老いた親だけが残される。ベッドタウンがゴーストタウン化しつつあるのが、今だ。

 では、都心は大丈夫か? 昨年5月、日本創成会議が、将来消滅する可能性のある896自治体を指摘。人口減少とは無縁と思われた東京23区の豊島区がリストアップされ話題を集めたが、数字の裏づけが今年3月、明らかになった。同区都市整備部建築住宅担当部長の園田香次さんは、がっくりと肩を落とす。

「平成25年度の住宅・土地統計調査の結果の空き家率が発表され、15.8%という結果となりました。国の空き家率13.5%を、上回ったということです」

 同区にある池袋駅は、1日あたりの乗降客数が約300万人を数える巨大ターミナルだが、「区内の空き家は3万370戸。戸建て空き家は2460戸でした」(園田部長)。

■『空き家対策特別措置法』の現実

 国も対策を急いだ結果、5月26日、『空き家対策特別措置法』が全面施行された。市町村が空き家の所有者に対し、撤去や修繕などを命令できる法律で、前出・長嶋さんは、

「“特定空き家”に対する助言・勧告・命令に従わなければ50万円以下の罰金、最後は行政代執行で建物を解体して、解体費用を所有者に請求できるものです」

 と読みくだく。法律ができたからといって、即刻“伝家の宝刀”とはならない。空き家の前についた“特定”が、ミソだという。

「全国820万戸の空き家すべてに適用されるものじゃありません。“1年以上人が住んでいない”と空き家ですが、“特定空き家”は廃屋というイメージ。ボロボロで崩れ落ちて周囲に迷惑をかけたり、窓ガラスが割れて侵入できそうだったり、動物がすみつきそうというおそれがあるものだけなので、全国で100戸もないと思います」

 その最終判断を下すのは各市町村。運用はスムーズに行えるのか? 法令の施行で自治体も取り組みやすくなる、と長嶋さんは前置きしたうえで、費用の問題に目を向ける。

「“特定空き家”を持っている人が年金暮らしの高齢者となれば、解体費用が出せなかったりする。加えて問題視されるのは、解体し更地にした場合、固定資産税が6倍になることです」

 長嶋さん同様、費用の回収を危惧するのは、前出の豊島区・園田部長だ。まだ同区に認定物件はなく、基礎自治体ならではの、忸怩たる思いを吐露する。

「今は現場に行き、持ち主に助言する段階。しかし所有者は“空き家じゃありません”“倉庫として使っています”など理由をつけるんです。そう言われてしまえば、“特定空き家”と断定することができないのです」

■『不動産』ではなく『負動産』

 著書『空き家問題』(祥伝社新書)で警鐘を鳴らした、不動産コンサルタントの牧野知弘さんは、空き家が生まれる原因のひとつに、相続問題があると明かす。

「昔は子どもがみんな、親の家を欲しがりました。しかし今は、きょうだいで親の家を押しつけ合う状態。欲しいのは現金だけです」

 その結果、生まれる空き家は今、こんなふうに呼ばれているという。

「『不動産』ではなく『負動産』。貸せない、売れない、住まない不動産を、そう呼んでいます。人口減少に高齢化、どうにも止めようがないんです」

 使われない家は、固定資産税と家の維持費用がかかるだけの厄介ものでしかない。

■家はどんどん安くなる。売るなら今

 長嶋さんは、手持ちの不動産を空き家にしないための方策を、次のように指南。

「建物は時間がたてばたつほど、傷んできちゃうので、特に利用する予定がないのであれば、売れるものは1秒でも早く売っちゃうのがいいと思いますよ。今がいちばん高いと思いますよ。今後、市場に大量に物件が出回りますから、その前に、少し安いと思っても売るべき。これからどんどん安くなりますし、タダでもいらないって言われちゃうかもしれない。それ自体に価値がなくなる可能性もありますから」

 日本に根づいてきた土地神話、不動産神話の崩壊する日が、やがて訪れることを見通す発言。現代はまさに、神話崩壊の前日で、早いとこ、それに気づいて手放すことができれば、固定資産税ばかりがかかる不良債権を持たずにすむ。

ただし、例外もあるという。

「いつか、自分たちがそこに戻るとか親族が暮らすとかって予定があるならば、売る必要はないですけどね。ただ、その場合には、管理だけはしっかりしていないといけない」(長嶋さん)

 長い間ほったらかしにすれば、「建物が傾いている」「ガラスが割れている」「不法投棄物がある」など“特定空き家”に認定される条件に抵触し、解体を余儀なくされてしまうおそれもあるからだ。

〈プロフィール〉

長嶋修さん●不動産コンサルタント。株式会社さくら事務所会長。空き家問題をはじめ業界・政策への提言も行う。メディア出演多数。

牧野知弘さん●不動産コンサルタント。オラガHSC株式会社代表。ホテルや不動産のアドバイスのほか、講演活動も行っている。