血のつながりも共通の趣味もない。だけど、意外なきっかけで一緒に暮らし始めた人たちがいる。若者×シニアからシングルマザーまで実態を取材。知られざる“シェア”な暮らし、あなたの目にはどう映りますか?

■大切な家が空き家に。それならば…と始めたホームシェア

(NPO法人ハートウォーミング・ハウス代表 園原一代さん)

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「家を空いたままにしておくのはもったいなかったし、もともと若者支援をしたいと考えていました。そこで“ホームシェア”とのご縁ができたんです」

 そう話すのは、世田谷区に住む60代のAさん夫婦。

 隣接した2軒の戸建て住宅を持ち、そのうち1軒は息子夫婦が住む予定だった。しかし息子夫婦の地方転勤が決まり、家の使い道を失う。そこで出会ったのが、NPO法人『ハートウォーミング・ハウス』が取り組むホームシェア。空いているほうの1軒を間貸しするというシステムだ。

「楽しく住みたいと思うオーナーさんと、学生や若い人たちを結びつけることが目的」と話すのは、同法人代表の園原一代さん。空き家を貸したい、借りたい、と思っている双方の仲を取り持ちマッチングを行い、良好な関係を築く役目をしているという。

 Aさん宅には現在、大学生1人、20代から30代の社会人3人、計4人の女性が住んでいる。出身は東北や東海地方などさまざま。

「借り手であるシェアメイトは事前にこちらで書類選考と面談をし、オーナーさんやほかのシェアメイトとの相性を考えます。面談を通過して初めて、オーナーさんと顔合わせをします」(前出・園原さん)

 どんな人が来るのか、ちゃんと部屋は埋まるのか……。始めるまでは多くの不安を抱えていたAさんだが、借り手の人間性も把握したうえで動いてくれる園原さんのおかげで大成功だったという。

 シェアメイトには各自個室が用意され、家賃は5万円程度。光熱費は4人とも一律料金で支払う。駅から徒歩5分という立地を考えると、相場に比べずいぶん安い。

「二世帯住宅を利用したシェアなど、お宅によって暮らし方は違いますが、Aさんご夫婦は一軒貸しをしているケース。’14年の4月からスタートさせました」(園原さん)

「週に1度、居間などの共有スペースを掃除するため、この家に入っています。そこで実際どんな生活をしているのか、把握することもできます」(Aさん)

 食器棚や家電は、もともとあったものを使用しているため、借り手はそろえる手間や費用がかからない。

 ただし、共同生活にはルールが不可欠。居間には“オーナーからの伝言板”と書かれたホワイトボードを掲示、ゴミ出しの注意点がまとめられている。

 また、オーナーとシェアメイトは事前に『お約束シート』を作成。“男性を入れることは禁止”“友達を呼ぶ場合は事前申請すること”など約束を決めているため、トラブルも少ない。

 そんなホームシェアのメリットを尋ねると、オーナーのAさんは言う。

「若い人と住むことで刺激が生まれ、ボケ防止につながると思います。朝、顔を合わせた時に“行ってらっしゃい”と声をかけて挨拶するだけでもだいぶ違う。今では生活の楽しみになっています」

 園原さんも、ここで生まれる異世代間の交流を増やしていきたいと話す。

「広い家を持て余してしまっているシニア予備群の方は多くいると思うので、ホームシェアをぜひ知ってほしい。有効に使わなくてはもったいないと思いますね」

■子育てと仕事を両立させるシングルマザー専用シェアハウス

(株式会社ストーンズ取締役社長 細山勝紀さん)

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「子どもたちが保育園から帰宅する18時以降のリビングは、毎日が大運動会さながらですよ(笑い)」

 そう言って不動産会社『ストーンズ』の細山勝紀社長が案内してくれたのは、3年前にオープンした国内初のシングルマザー専用シェアハウス『ペアレンティングホーム高津』。15年間空き家だった診療所ビルの3階を改装し、約200平方メートルの空間に個室8部屋を用意。居間、台所、浴室などを共有する8世帯17人の母子がひとつ屋根の下に暮らす。

 “同じ趣味”をもつ単身者を集めたシェアハウスが主流となる中、細山社長が“同じ境遇”に目を向けるきっかけになったのは自社で働く母親たちの姿だった。

「保育園のお迎えの時間になると、残った仕事を同僚にお願いしなければならない。中には気をもんで退職する女性もいた。仕事と子育てを両立したいシングルマザーと、助け合いながら生活できるシェアハウスは親和性が高いと思ったんです」(細山社長、以下同)

 ’11年度厚生労働省の調査によれば、母子家庭は推計123万8000世帯。子どもを抱えて離婚を決意する女性は少なくない。

「私たちが入居対象にしたのはキャリアアップを目指すシングルマザー。福祉的な目線ではなく、自立志向の高い方の支援を考えました。現在、共同生活を送る母親たちは働き方も業界もさまざま。子どもたちはみな5歳未満の保育園児です」

 家賃は月に約7万円、共益費2万5000円には水道光熱費、生活雑貨費のほかシッターサービス料も含まれる。この『チャイルドケア』が入居者たちに大好評なのだ。

「毎週火曜日と金曜日の午後5時〜9時まで、研修を受けたシッターが訪問し、栄養バランスを考えた食事の世話をします。週2回だけ買い物や食事のことを考えずにすむ。ここに資格の勉強や息抜きをする“自分の時間”が生まれます」

 常に子どもから目が離せない状況から少しでも解放されたら、気持ちに余裕がもてる。要望を形にしたのは企画立案に携わった保育園経営者で自身もシングルマザーの女性だった。

 サービスが利用できない平日の食事は各自で用意。しかし、臨時の仕事で帰宅が遅くなったり、出張が入ったりすることもある。対応を尋ねてみると、

「母親同士が“指名制”をルールに、子どもの預け合いをしています。以前、母親の帰りを待つ子どもを誰が世話をするのかで、もめたんです。曖昧にしていたせいで、同じ人ばかりに負担が偏ってしまった」

 緊急時に、どの母親に子どもをお願いするのか全員に伝え、責任者を明確にする。そんなルールができて以降、上手な“助け合い”が成立しているという。

「入居者間にリーダーを作らないように3か月に1回ミーティングを開き、新しいルールの最終ジャッジは必ず運営者がします。第三者の上手な介入もトラブル予防につながるんです」

 子どもたちは新しい家になじめているのか、利用者に話を聞いてみると、

「きょうだいが増えたような環境を気に入っています。いろんな大人の価値観に触れ、言葉を覚えるのも早いんですよ」(20代女性)

 こんなご褒美タイムを喜ぶ素直な声も。

「金曜日の夜、リビングで女子会を開けるんです。1度寝かしつけた子どもが泣いてもすぐ対応できる。何より相談相手がいることに安心します」(30代女性)