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亀井静香、山崎拓ら長老議員は「大きな禍根を残す」として安保法制に反対している


 もしも漁民に扮した国籍不明の武装集団が、尖閣諸島などの離島を占領したら─。『安全保障関連法制』(以下、安保法制)の中には、戦争とまではいえないものの、海上保安庁や警察では対処が難しいとされる『グレーゾーン事態』への対応も含まれている。

「グレーゾーンなんて、いんちきですよ」

 元自衛官で軍事ジャーナリストの神浦元彰さんは、軍事のプロから見て荒唐無稽な想定をもとに話が進められていると嘆く。

「戦闘服を着ているかは別として、ある程度の組織的な背景があり、日本は許せないとかミサイルをぶちこんでやるとか、そういう脅しをバンバンかけてくる。これは侵略です。しかし、外国人が銃を持って銀行にこもっていた場合、これは銀行強盗でしょう。侵略と銀行強盗の間があり、それがグレーゾーンだといっているわけですが、軍人にしてみればありえない話。侵略か、侵略でないかの2択しかない。侵略してきた場合に敵を撃退するというのが自衛隊の論理なんです」

 武装勢力には個別的自衛権で対応可能。そもそも軍事的に価値のない離島に上陸するだけのメリットがないと神浦さん。

「グレーゾーン事態で問題なのは、武器使用の判断が現場に任されていることです。銃弾一発、撃ちこまれたら戦闘が始まる。そうなれば首相も知らないうちに、戦争が始まっているという事態も起こりえます」

 また軍事的緊張が高まっているのは、尖閣や竹島ではなく、南シナ海と指摘する。

「中国は南シナ海に人工島を作ったりしていますし、特に南沙諸島のあたりは日本にとっても重要なシーレーン(航路)。アメリカをはじめ周辺国のフィリピン、ベトナムなどが警戒を強めており、自衛隊はフィリピンと共同訓練をしたり、日米豪で3万人規模の合同演習を行ったりしています。もし米中が一戦を交えるような事態になれば、日本に集団的自衛権を使って一緒に戦うよう求めてくるおそれがあります」(神浦さん)

 しかし、政府が集団的自衛権を行使する「例外」として力説しているのは南シナ海ではない。ホルムズ海峡だ。

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 北はイラン、南はオマーンに挟まれた海峡で、政府はイランが機雷をばらまいて海上封鎖をするという事態を想定。日本のタンカーがここを通れなくなり、経済的損失が国の存立を脅かし、そのうえ、石油不足で凍死者が出る可能性もあるというのだ。東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんが言う。

「日本政府は石油を備蓄しています。193日はもつ計算で、産油国の備蓄分もある。それがすべて尽きるのは、およそ半年後。そこで『存立危機事態』の宣言となるわけですが、それまで政府は何も手を打たないつもりなのでしょうか」

 安倍首相は集団的自衛権が必要な根拠として"安全保障環境の悪化"を強調するが、ホルムズ海峡は「ただちに悪影響を及ぼす危険があるわけではない」(中谷元防衛相)。これでは理屈が通らない。説得力のある根拠とは言えないだろう。