noa

 夏といえば怪談がつきもの。そこでシンガー・ソングライター水木ノアさんの祖母に関する不思議体験を教えてもらった。

「母方の祖母が亡くなって、1年くらいたってから、祖母の夢を見ました。昭和っぽい2階建ての民家の2階に私がいて、その部屋のすぐ脇に下へ向かう階段がありました。ふと階段のほうを見ると、手が見えるんです。続いてニュッと祖母が顔を出して。心配して駆け寄ると、青い着物を着た祖母がそこにいました」

 しかも、階段じゅうが祖母の長い黒髪で覆い尽くされていたという。

「1階まで伸びた髪の毛を引きずりながら、手だけで上まで這い上がってきた祖母は、ジーッと私を見つめている。声は発しません。生前の祖母はショートカットなのに、平安時代の人のような真っ黒の長い髪を引きずり、何かを訴えるように黙ったまま見つめてくる視線……。身内とはいえ、ゾッとするような気味の悪さを感じる。そんなところで、目が覚めるのです」

 ただそれだけの夢なので、特に気にも留めていなかったという水木さん。

「まったく同じシチュエーションを3回ほど見ました。その髪の毛は見るたびにどんどん伸びているように感じました。祖母の話を蒸し返すのは母にとって酷だと思いましたが、何度も見るうちに気になって。“祖母は何か訴えているのかも……”と考えました」

 そこである日、母に、「おばあちゃんのことで、私に言っていないことがあるんじゃない?」と聞いたという。

「すると母は驚いた様子で、“実はおばあちゃんが死んで、すべて灰になってしまうのがイヤで。髪の毛を少し切り取ってきんちゃく袋に入れて持ち歩いている”と告白されました。私はそれで“祖母は、現世に髪の毛が残っていることで、成仏しきれていないのでは?”と、直感しました」

 その後、母は私の指示に従って髪の毛を半紙にのせ、西の空に向かってライターで燃やしたとか。それ以来、夢を見ることもなくなったそうだ。

「しばらくして、祖母のお墓があるお寺で母が住職さんにこの話をしたところ、 “死は肉体から魂が卒業して、次の霊界に行くための通過点。だから現世に歯や髪の毛、爪などが一部でも残っていてはダメ。骨壺に入れてお経を唱えて供養しないと、死んだ人の魂が現世に縛られてしまいます”。今になって考えると、夢の中の1階が現世だったのでしょう。私が2階にいたのも家族の中で唯一、霊感があるから、と。2階という霊界に行きたいのに、髪の毛のせいで現世に縛られている。先に進めないという訴えだったのかなと思います」

 母はこれで祖母が成仏できる、と喜んでいたとか。

「“でもいったい、どうしてそんな的確な髪の毛の処分ができたんですか?”と、住職に聞かれた母は、“娘に髪の毛のことを告白したときに、どうしたらいい?と聞いたら、手順などを教えてくれたんです”と答えたというのです。占いの経験などから、ある程度の知識はありましたが、実は母にそんなことを言った覚えは皆無でした。今では“最後に私たちにお別れの仕方を教えてくれたのかもしれない”と、祖母に感謝しています」