警視庁提供資料『平成26年中の認知症に係る行方不明者の届出受理数』によると、認知症で行方不明になった人は全国で年間1万783人にものぼる。そして、そのうちのほとんどが1週間以内に見つかるものの、死亡した状態で見つかる場合も多いのだという。

徘徊は予測でき、予防もできる!?

「すべての認知症患者が徘徊をするわけではない。症状が出現する前にリスク予測し、予防のためのケア計画を立てることが可能です」

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 とは、認知症専門医で『クリニック医庵たまプラーザ』院長の高橋正彦医師。

「認知症の中核症状である“場所の認知に関する障害(空間的見当識障害)”が徘徊の根本的な原因であることは間違いない。この中核症状は、脳の神経細胞が失われることで起こり、1度失われた神経細胞は回復できません。中期以降のアルツハイマー型認知症患者のほぼ全員に生じる障害です」(高橋医師、以下同)

 だが、アルツハイマー型では脳卒中など別の疾患を併発しない限り、症状の進行は緩やか。そこで初期に注目したいのが予防可能といわれる“行動心理症状”。

「これは、本人の心理状態、生活環境などが影響し、2次的に出現する症状。“ひとりにしない”“不安にさせない”など心理状態の安定を図れば、結果的に徘徊をなくすことも可能です」

 例えば、こんな場面を想像してみてほしい。家族が“10分で帰る”と認知症患者に言い残して出かける。しかし、本人はその言葉を忘れ、だんだん不安になる。結果、家族を探しに出かけ、道に迷った。

 この例では、“ひとり”になったときに生じた“不安”が、結果的に徘徊につながっている。

「孤独な状況が本人の精神状態を不安定にさせる。しかし、家族と24時間過ごすこともまたストレスになる。症状が軽い時期に、専門医に相談し、安心できるケア環境を心がけてください」

 高橋医師に教わった認知症の初期のサインは5つ。1つでもあてはまれば、専門外来に相談してほしい。

1 先の予定を忘れる

友人との食事の約束(待ち合わせ場所や日時)など、将来の記憶ができない

2 意欲がなくなる

習慣をやめ、趣味の講座にも理由をつけて行かない。

3 家事能力の低下

部屋が汚くなる、料理の味つけがおかしい、レパートリーが減る、冷蔵庫に期限切れの食材が増えるなど。

4 遂行能力の低下

物事をテキパキ考えられない。新しい電化製品などの使用法が覚えられない。

5 性格の変化

穏やかな人が怒りっぽく、暴力的になる。楽観的な人が悲観的になる、など。

 また“性格”よって、徘徊を起こしやすい人を事前に予測できるという。

「もともと社交的で外出好きな人は、徘徊のリスクが高い。反対に内向的な人は徘徊のリスクは低い。内向的、外交的などの性格の差は認知症になっても変わらずに出る。3連休中、外出しなければストレスがたまるような人は注意が必要」

 家族だけで介護を抱え込まず、デイサービスや認知症カフェなど地域の支援を活用してほしい。症状を予測し、みんなで対処すれば、行方不明の割合はグンと減らすことができるのだから。