「脱原発派、推進派などの立場にかかわらず核のゴミの“最終処分場”が見つからない限り、原発に依存できない社会は必ず訪れる」

 そう話すのは核のゴミの専門家で、アメリカの放射性廃棄物最終処分プロジェクトにも参画した多摩大学大学院の田坂広志教授。

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田坂広志氏。3・11事故直後、内閣官房参与として事故対策にも携わった

「今、国内には原発を動かすことで生まれた『使用ずみ燃料』が約1万7000トン以上ある。その大半は全国の原発サイト内の燃料プールで一時保管されていますが、占有率は平均70%余りに達しており、あと数年で満杯になるでしょう」(田坂教授=以下同)

 日本は使用ずみ燃料を再処理し、新たな燃料として軽水炉や高速増殖炉で発電するリサイクル政策、核燃料サイクルを掲げてきた。

 青森県六ヶ所村の再処理工場建設は相次ぐトラブルで20回以上延期を繰り返し、来年3月にようやく完成予定。六ヶ所村の敷地内にある容量3000トンの使用ずみ燃料一時保管スペースも、ほぼ満杯。まさに限界を迎えようとしている。

 そして、仮に核燃料サイクルが実現したとしても、再処理することで新たに『高レベル放射性廃棄物』という危険なゴミが生まれる。それらの“最終処分場”は、まだ決まっていない。

「再処理工場で使用ずみ燃料を溶かし、ウランとプルトニウムを燃料として取り出したとき、“死の灰”とよばれる高レベル放射性廃棄物(廃液)が出ます。これは極めて危険で、近づけば数分で死に至る。従って、処分する場合、漏れないようにガラス固化体にしたうえで厚い金属容器に収め、周りを粘土でしっかり固めて地下に埋める『地層処分』という方法で、10万年、隔離することが必要です」

 政府はこれまで、処分候補地の選定を自治体からの応募に頼ってきたが、唯一手を挙げた高知県東洋町は住民らの強い反対を受けて撤回。国民の不安と反対が根強い中、今年5月、国主導で適地を提示して自治体に理解を求める方針への変更を余儀なくされた。

 しかし、田坂教授は、この方針で処分地選定を進めることに異議を唱える。

「日本最高の学問的権威をもつ『日本学術会議』が、“現在の科学では、数十万年の安全を証明できない。従って、現段階で、地層処分をするべきではない”と提言しています」

 では、解決に向けた代替案とは?

「300年程度を上限に『長期貯蔵』の政策に切り替えるべきです。それは技術的に可能。同時に使用ずみ燃料の“発生総量規制”を行う。上限を定めれば、原発の稼働年数も決まります。私が懸念するのは“トイレなきマンション”のまま走り続けることです」

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試験運転でトラブルが相次ぎ、22回以上も完成が延期になった青森県六ヶ所村再処理工場

 最終処分の方向性が固まるまで、増え続けるゴミにストップをかけるのだ。

「安全かどうかわからないまま“処分”一本槍でいい加減に突き進むより、長期貯蔵をしている間に地層探査技術を高め、最も安全な方法を研究し、国民の合意を得て、最終処分に踏み切る判断をすべきです。

 フィンランドのオンカロが世界初の最終処分地に決まりましたが、リスクも含む情報公開を徹底し、市民への説明を粘り強く続けたことが、背景にあります」

 しかし、日本の問題は、より深刻だ。世界が経験したことのない“最悪のゴミ”を抱えているからだ。

「福島原発事故で炉心溶融した3つの燃料の塊は世界に存在する高レベル放射性廃棄物の中で最も厄介なゴミ。品質管理され、ガラス固化されたゴミとは全く違います。プルトニウム、ウラン、死の灰が全部溶けて混ざり、形状もわからない。

 原子炉格納容器内は放射線量が高く、ロボットも作動しない場所。極めて困難な確認、回収、処理、処分の作業が待ち受けています。楽観論を改め、慎重な判断をすることなしに原子力の未来はないでしょう」