第二の人生を送る、主に50代以上の方々を追うドキュメンタリー番組『人生の楽園』(テレビ朝日系)がじわじわと人気を広げている。

 土曜18時という放送時間帯にあって、2000年の番組スタート以来、固定視聴者を少しずつ獲得し、最近では視聴率が15%を超えることもあるという隠れた名番組なのだ。

 出演者は、有名人やその道の達人といった人たちではなく、UターンやIターンなど移住して農業やお店を始めたり、地元で新しいビジネスや町おこしに挑戦している普通の人たちだ。そんな“移住”や“セカンドライフ”をテーマにした同番組が、なぜ今これだけ支持されているのか? 番組プロデューサーである森川俊生氏に人気のヒミツを聞いた。

「新しい生き方と向き合う中年層、高年層が増えている背景に、社会的変化があると感じています。昨今は7軒に1軒が空き家と言われているほど空き家問題が深刻化していますが、この番組に登場する移住した方の多くが空き家を改築・改装して新しい生活を始めています。

 1〜2万円の家賃で借りたり、200万円程度で購入したりと、安価な空き家をみつけて移住を決める人もいますし、移住に対して助成金を出す自治体も増えていて、セカンドライフを積極的に考えられる時代になっていることが大きいと思います。

 都会に暮らす人が、週末やある一定期間だけ地方の空き家を再利用して暮らす“二地域居住”といったライフスタイルも増加するなど、社会的変化に応じて柔軟に第二の人生を考える人が増えているのが最近の特徴だと思います」(森川氏、以下同)

 空き家問題、農業の後継者問題などは社会的にはマイナス面ばかりに焦点があたりがちだが、『人生の楽園』ではそこに個人の新しいチャレンジや生き方があると説く。

「野菜の美味しさに魅せられて農村に移住する夫妻もいれば、地方で単身、悠々自適に自分のロマンを追い求めている旦那さんが、週末だけ都会で暮らす奥さんに会いに行くなど、番組に登場する方々の動機やライフスタイルは十人十色です。でも、みなさんに共通するのは、老後のスマートな生き方として移住やセカンドライフを考えている。

 例えば、農作業に対しても重労働というネガティブなイメージではなく、むしろ自然の中で暮らす憧れのライフスタイルなんです。“もっと人生の質を高めたい”という人が、積極的に新しい生き方と向き合っている姿に共感し、勇気づけられる視聴者が増えているのだと思います」

 番組では夫婦だけでなく、単身者の新しい生き方にも焦点を当てている。

「“おひとりさま”という言葉が定着したように、ひとりでいること、一人で暮らすことの意味が見直されていると思います。孤独という負の面ではなく、一人だからこそ自由で充実した生き方があることもこの番組では伝えていきたいですね」と森川プロデューサーが語るように、『人生の楽園』を見ることで勇気づけられる同世代の方々が多数いることは確かなようだ。

[写真]12月5日の放送は、弘法大師空海が修行の場として開いた真言密教の聖地・高野山(和歌山県)が舞台。高野山に魅せられて単身移住し、キャンドル作家として充実した日々を送る荒川由美さん(48歳)を紹介する。
[写真]12月5日の放送は、弘法大師空海が修行の場として開いた真言密教の聖地・高野山(和歌山県)が舞台。高野山に魅せられて単身移住し、キャンドル作家として充実した日々を送る荒川由美さん(48歳)を紹介する。

 制作サイドの工夫としては、同番組では見終わった後の余韻を大切にしているという。

「読書で言うところの“読後感が良い”と思ってもらえるように作っています。西田敏行さんと菊池桃子さんの掛け合いによるナレーションも、そういった心地よさを演出する重要な要素になっています。本当にその場にいるかのような臨場感たっぷりの西田さんのナレーションは名人芸ですね。即興アドリブも随所に盛り込まれるため、我々も楽しみにしています(笑い)」

 正統派の報道ドキュメンタリーとはひと味違う、視聴者がリラックスして見られるような作りを意識している、と森川プロデューサーは言う。そのため、番組内では出演者が住んでいる地域の土地柄を紹介する“紀行番組”的な要素や、野菜がおいしくなるコツや食材の調理法など“役に立つ生活情報”も、出演者の日常に絡めながら積極的に取り入れているのだとか。「通常のドキュメンタリー番組の枠に収まらない」こともこの番組の大きな魅力だ。

「今年の3月に『人生の楽園 いつか暮らしたい移住地』という本を出版した際に、番組に出演してくださった移住者の方々からアンケートをとったことがありました。その際、移住する際に大切なこととして最も多かった回答が、“いかに現地の方と人間関係を築けるか”ということでした。

 また、移住環境の整備が進んでいるとはいえ、最低限の資金力も必要です。田舎暮らしというとお金がかからないイメージがありますが、移動費や光熱費など意外とお金がかさむ場面が少なくない。第二の人生のかじ取りを良好に進めるためには、経済面も大切な要素になると思います」

 新しい生き方への多様性や価値観が増しているとはいえ、楽観視はいけない。限界集落、少子高齢化、空き家問題……今後、我々が現実的な問題と向き合うときに、『人生の楽園』は、ポジティブに、それでいて真剣に考えるための処方箋のような番組になるかもしれない。

(取材・文/我妻弘崇)

[写真]番組初の“移住の指南書”『人生の楽園 いつか暮らしたい移住地』(900円+税/テレビ朝日)(c)2015 テレビ朝日・ViViA
[写真]番組初の“移住の指南書”『人生の楽園 いつか暮らしたい移住地』(900円+税/テレビ朝日)(c)2015 テレビ朝日・ViViA