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 いまや近所の商店街はシャッター通り。大型スーパーは徒歩圏外。でも車は持っていないため、買い物するのにひと苦労。そんな“買い物難民”は全国に600万人いるといわれている。

「“買い物難民”の多くは高齢者。例えば北海道では、いちばん近い商店まで往復3kmもかかる地域もあります。バスを利用したとしても、高齢者が日々、通うには非常に困難です」

 そう話すのは帯広畜産大学の杉田聡教授だ。'08年に発表した著書『買い物難民─もうひとつの高齢者問題』(大月書店刊)で警鐘を鳴らしたこの問題は年々深刻化。

 過疎地だけではなく、都市部でも郊外の団地やかつてのニュータウンの“高齢化”にともない、取り残されたシニアは生活上のハンディキャップを負わざるをえなくなった。なぜ“買い物難民”は生まれてしまったのか?

「原因は2つあります。まず、政府が行った規制緩和です。'83年以降、アメリカの要求に押されて流通における規制緩和のかけ声が生まれました。その結果、'91年に大規模小売店舗法(以下、大店法)が全面改正。

 そして'00年には大店法が廃止され、大規模小売店舗立地法が施行されました。これは大型店の出店を事実上、無制限に許したということです」

 移動手段の変化も大きい。

「'80年代末、自家用車・自動二輪車の保有台数は全世帯数に近づき、'91年には保有台数が全世帯数を超えています。このころから妻が夫の通勤用とは別の交通手段を持ち始めたと推測できます。つまり、買い物のために、居住地から離れた郊外まで出向いていく消費者が生まれたのです」

 この規制緩和と購買行動の変化によって、それまでは考えられなかった大きなショッピングモールが乱立するように。大型店の増加とともに、街の商店が減少している。

「'80年前後は飲食料品店がもっとも多かったが、'09年には半分近くまで減少しています。車で買い物に行くことが当たり前となり、駐車場を確保できない街中の商店の売り上げが徐々に下がっていたのです」

 なぜこのような規制緩和が行われてしまったのか?

「国会議員や役人が“現役世代=強い市民”であるからだと、私は考えています。安定した収入があり、自家用車を維持することもできる。そして購買行動は、平日は仕事で忙しいので、買い物は週末にまとめ買い。日用品、食品から家電まで何でもそろっている郊外の大型店は、彼らにとって、とても便利なものに見えたのでしょう」

 国会議員は、低所得で自家用車を持つことができず、徒歩でしか買い物に行けない“弱い市民=高齢者”の生活が想像できなかった。

「国会議員にも高齢者はいますが、それは社会的に恵まれた層。またそのほとんどが男性であり、主に女性が行う買い物の問題が軽視されたのかもしれません」

 さらに、“買い物難民”の増加に拍車をかける問題が起こった。

「大型店の出店が人を集め、それが町の商店の集客につながることも少なくない。しかし、近年、大型店同士の競争が激化しており、売り上げが見込めないという理由で、すぐに撤退してしまうケースが増えています」

 すると、生き残っていた数少ない商店街すらも消えてしまい、あとには何も残らない。このような状況が各地で見られるという。

「離れて暮らす高齢の親に、子どもが“危ないから”という理由で、車を無理やり手放させた。すると親が栄養失調になってしまったという話がありました。

 子どもは“車がないと買い物に行けなくなる”という状況をよく理解していなかった。親はみそ汁とご飯しか食べない生活を送っていたようです。“買い物難民”は、高齢者の命に関わる問題なのです」