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■失敗続きのビリアナ、ひとたらしへと進化

『情報ライブ ミヤネ屋』で、当時“奇跡の38歳”と呼ばれ人気となった丸岡いずみさん。現在、フリーキャスターとして活躍する丸岡さんが、自称“ビリアナ”時代に身につけた人間関係のノウハウを1冊にまとめたのが本書だ。

 タイトルの“ひとたらし”とは、「男女問わず、人を引きつけ、相手のふところにスッと入り込んでいく人間的魅力」のこと。丸岡さんならともかく、一般人にそんな魅力が身につけられるものなのでしょうか?

「もともと私自身、小さいころからひとたらしだったかと言われれば、そうではないと思います。感覚的に人間関係上、こうすればいいというノウハウをつかむのは早かったかもしれませんが、それは数知れない失敗の中で学び、培ってきたものです」

 数知れない失敗とは、地方局アナ時代に、生放送の料理番組で火事を起こしてしまったことや、“初鳴き”と呼ばれる初めてのアナウンスで、時間内に天気予報を読み終わらず、予報を途中終了したことなどがあります。

「新卒で入社した会社では、私は本当にダメ人間でした。アナウンス能力はCクラスでまさにビリアナ。でも、厳しいメディアの世界では、ビリアナのままでは生きていけません。あたかも両生類が厳しい環境に応じて進化していったように、人間もまた進化するものなのだと思います。やる気があれば、後天的につかみとっていけるものです」

 みのもんたさんや宮根誠司さんの番組では、毎回、当意即妙な切り返しをしていた丸岡さん。でも、本書では、必死さを顔に出さず受け答えする自分を、優雅な白鳥どころか“アヒルが水面下で一生懸命、足搔きをしているような状態”だったと表現しています。

「みんなについていき、振り落とされないようにがむしゃらにやってきました。ビリアナからひとたらしへの進化は、その中で勝ち取ってきたものです」

 丸岡にかかればイチコロとばかりに本書では、数々の“ひとたらし”エピソードを披露している。アシスタントプロデューサーを務めた『真相報道バンキシャ!』では、作家の故・渡辺淳一さん、元経済財政政策担当大臣・金融担当大臣の竹中平蔵さんなど、錚々たる人物を出演依頼で口説き落としてきたといいます。しかし、なかには難関の相手もいたようです。

「野村克也監督なんですが、あるホテルで待ち合わせて口説きに行ったところ、サッチーさんがいらっしゃる。ずっとサッチーさんと話していて、いつまでも監督が出てこない。サッチーさんの許可がないと監督の登場はないんです。結局、出てくださったからよかったんですけど。このまま監督が出てこなかったらどうしようと思いました」

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■とっかかりは何でも会話力を磨く極意

 東日本大震災の発生直後、津波の被害がいちばん大きかった陸前高田に、丸岡さんは取材で入りました。2週間ほど取材をする中で、自然と涙が流れ出てきたと言います。テレビに映った丸岡さんの涙を見て“ジャーナリストとして失格じゃないですか”と問われたこともたびたびあるそうです。

「その問いには、あなたの角度からの見方は正しいといったんは受け止めます。でも、あの1000年に1度と言われる現場には当然、いままで誰も立ったことがないわけです。そういうときには全触角で感じ取っての取材になる。そこで自分の人間性を一切出さずに取材をするというのは、もう別の次元だと思います。生身の人間が現場に行き、被災者の方から話を聞くとなれば、テレビに映る映らないに関わらず、人間性が出てしまう」

 震災の取材後、丸岡さんは鬱を発症します。その凄絶な体験は、『仕事休んで うつ地獄に行ってきた』(主婦と生活社刊)で明らかにされています。人の感情の機微に敏感で、顔色を読むことに長けた“ひとたらし”であるがゆえに、人のつらさや悲しみにも大きく影響を受けてしまう部分があったのではないでしょうか。

「そうですね。『ひとたらし』と『仕事休んで~』が表裏一体という見方はできると思います。鬱になったから見えたものもある。鬱の本を出した後でないと、この本も書けなかったと思います。自分を俯瞰で見て、弱い部分もすべてひっくるめたうえで『ひとたらし』というタイトルの本が出せた気がします」

 丸岡さんが取材していた陸前高田の被災者のご家族は、鬱で休職したことを知ると、心配して寄せ書きを送ってくれたそうです。

「自分の大変さを脇において、私のことを心配してくれている被災者の方がいるというのは、本当に勇気づけられました」

 人とのコミュニケーションに悩んでいる人、自分の考えを思うように伝えられない人にこの本を読んでほしいと丸岡さんは言います。

「会話のとっかかりは何でもいいんです。エレベーターの中で一緒になった人に挨拶する。スーパーのレジで雑談をする。相手にチャンネルを合わせて話して、話題を転がしていく。普段の会話力を鍛えれば、相手との関係を見極めることができるようになりますよ」

取材・文/ガンガーラ田津美

撮影/竹内摩耶

<著者プロフィール>

まるおか・いずみ 1971年、徳島県生まれ。1994年、北海道文化放送にアナウンサーとして入社。 '01年、日本テレビ報道局中途入社、報道記者として活躍。 その後、『情報ライブ ミヤネ屋』のニュースコーナー担当。 '10年、ミヤネ屋を卒業、『news every.』のキャスターに。'13年、ホリプロ移籍。フリーキャスター、エッセイストとして活躍中。