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 夏の参院選の争点を憲法改正と明言した安倍首相。今の国会でも「いよいよどの条項について改正すべきかという新たな、現実的な段階に移ってきた」と述べるなど、憲法改正への意欲をむき出しにしている。

 災害対策を理由とした憲法改正の論議は昨年5月の衆院憲法審査会で、すでに行われていた。このとき、自民党は緊急事態条項の協議を呼びかけている。そんな政権に辟易しているのが東日本大震災の被災地だ。

 岩手県宮古市で被災者支援に携わった経験を持つ小口幸人弁護士は、「災害を改憲のダシにしている」と憤りを隠さない。

 そもそも日本は災害大国。その経験や教訓を踏まえた法律は数多くある。

「『災害対策基本法』には“災害緊急事態の布告”という緊急事態宣言のようなものが含まれている法律があって、場合によっては市民の行動や自由を制限することもできる。しかし東日本大震災では布告されなかった。震災当時を思い出してみればわかるように、水や食料の買い占めはやめてくださいと言えば、多くの日本人は積極的に協力します。違反だ、罰則だと言わなくても従うからです」(小口弁護士)

 いまの法律だけでも首相は被災地へ自衛隊を出動させられるし、警察も送れる。都道府県知事への指示も出せる。わざわざ憲法を変えるまでもない。

「災害で重要なのは、いまある法律を使いこなすこと。関係機関が持つ力を最大限に発揮できるための連携や調整、それらを円滑に行うための計画、人材育成こそが不可欠。備えていないと対応できないんです」(小口弁護士)

 最近持ち上がってきた緊急事態条項の論点に“国会議員の任期延長”がある。

「東日本大震災のあと、統一地方選挙を延期する法律が作られましたが、これに倣って国会議員の任期が延長できるよう憲法を変えようとしています」(小口弁護士)

 議員の任期を延ばす程度なら、大した影響はなさそうに見えるが?

「任期延長するかしないか、本当に延ばす必要があるのかどうかを誰が判断するのか。国会議員が自ら決めるなら“お手盛り”です。仮に延長ができるようになったら、いつまで選挙をやらないのかという話になる。国民からすると投票の機会が失われてしまう。つまり国会議員が何かの権限を持ち続けることを前提にする制度。即座に生活に影響はないかもしれませんが、国民から遠い政治になっていく可能性があります」(小口弁護士)

 議員が大勢死んでしまった場合、政治の空白が生じてしまうのでは?

「任期を延ばしても亡くなった人は生き返らない。結局、選挙をやるしかなくなります。災害が起きても実施できるよう選挙制度を変えればいい。専用端末を使って、避難所や仮設住宅でもボタンひとつで投票できるようにする。公職選挙法の改正だけですみます」(小口弁護士)

 なにより災害発生後だからこそ選挙をやるべきだ、と小口弁護士は訴える。

「もし福島第一原発事故の直後に選挙をやっていたら、脱原発は達成できていたのでは? 復興は長丁場。被災地では5年たっても堤防が完成していない。大災害が起きたときこそ、国の将来のあり方について最新の国民世論を反映させたほうがいいと思います」(小口弁護士)