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坪田義史監督

 リリー・フランキーが15年ぶりに単独主演を果たした日米合作映画『シェル・コレクター』。同作は、アメリカの小説家アンソニー・ドーアによる同名短編小説が原作。

 貝類学の世界で名声を獲得し、妻子と離れて孤島で静かに暮らす主人公・盲目の学者をリリーが演じている。全編沖縄でロケを行った同作。坪田義史監督に見どころを聞いた。

――沖縄在住の役者も出演していますが、“うちなーぐち”(沖縄弁)を使っていません。そのあたりの意図は?

「ロケ地は沖縄だけど、日本の南に位置する島には米軍偵察機が飛んでいるくらいの設定にしています。明確に沖縄と断言すると、いろんな情報が入ってきてファンタジーと現実の狭間を狙って作っている映画の世界観が崩れてしまうので」

――BGMでうっすら沖縄民謡の『芭蕉布』が流れたり、うーとーとぅ(沖縄で神仏を拝む時や、お墓、仏壇に向かって手を合わせる時に発する言葉)するシーンがあるなど、沖縄の要素も入っていますね。

「断言はしていないけど、沖縄らしさが匂えばいいなと。日本のサンクチュアリである沖縄の風景に魅かれてロケ地は沖縄しかないなと思いました。うーとーとぅは沖縄の方に教えてもらい、取り入れたんですよ」

――橋本愛さん演じる奇病に冒された嶌子の父親役を演じている普久原明さんなど、沖縄では有名な役者を起用していますが、ご存じだったんですか?

「“沖縄と言えばといえばこの人たち”と紹介してもらいました。いろんな劇団の人とかとも会ったのですが、やはりキャリアがあって人柄が良くて、というのに魅かれて決めましたね」

――リリーさんを主役に抜擢した経緯は?

「日米の合作のアートフィルムを作ろうと思っていたので、ボーダーレスな芝居を撮りたいなと思い、ボーダーレスな表現をされているリリーさんしかいないなと。でもリリーさんは多忙な方ですから、返事を待っている間はドキドキしていました。主人公はリリーさんしか考えていなかったので、断られていたらどうなっていたんだろう(笑)」

――リリーさんも「カルト映画になりました」とコメントしていましたが、インサートの映像とかもCGを一切使わず、良い意味でイマドキ感がないなと思いました。

「自然と人が対峙する映画なので、デジタルの加工はマッチしないと最初から思っていました。その中で盲目の主人公の記憶とか想像のシーンをどう表現しようかなと考えた時に、友人の映像作家・牧野貴さんと一緒に組んで、自然物のみの動画と静止画像何万枚ものの中から重ね合わせて幻覚シーンを作りました」

――撮影現場でのリリーさんはどうでした?

「リリーさんは武蔵美出身で僕も多摩美出身ということもあり、美大出身者の後輩みたいな感じでいろんなアドバイスをいただきました」

――寺島しのぶさんのヌードシーンもあります。

「寺島さんはずっとファンで、しかも今回きわどいシーンもあったりして緊張していたんですけど、実際、現場で会うと一緒に作品を作っている“共犯者”という感覚でした」

――若い池松壮亮さんと橋本愛さんには、今まで経験したことがない作品だったと思います。おふたりは監督の世界観をすんなり受け入れた感じですか?

「若手の2人はノッテいる方だけど、そんな威圧感は消し去って、ものすごくシンプルに心を開いてくれましたね。“この監督、変わった人だなぁ”みたいな感じで見てくれていました(笑)」

 妻子と離れて孤島で静かに暮らす盲目貝類学者が、島に流れ着いた女・いづみ(寺島しのぶ)の患っていた奇病を貝の毒で偶然治したことで、彼の生活に異変が訪れる……というストーリー。

 漫画家の内田春菊は今回、このようなコメントを寄せている。

《捨てたはずの俗世が襲いかかって来るこの感じ…。 シンプルにしようとしても出来ない人間の生活。都会で暮らす人たちにこそ観て欲しい映画です》

――内田春菊さんのコメントがこの作品をすごくよく表しているなと思いました。

「最近“スパイラル系女子”という言葉を生み出したんです。この映画も、寺島さん演じるいづみの渦に主人公が巻き込まれていきますよね。流行らないですかね、この言葉(笑)。でも、いづみのような女性ばかりでも困っちゃいますけど。内田さんのコメントのように、シンプルに生きようと思っても、特に都会で生きているとなかなかできない世の中だとは思います」

――最後に改めて今作の見どころをお願いします。

「自然と人が対峙するドラマが盛り込まれた映画なんですけど、視覚と聴覚を触発するような工夫が盛り込まれているので、見た人の感性に刺さればなと思っています。パソコンなどの小さなモニターではなく、ぜひ大きなスクリーンで見て感じてもらいたいですね」

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 映画『シェル・コレクター』は2月27日(土)より、東京・テアトル新宿、沖縄・桜坂劇場ほか全国ロードショー。