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 5月末、梅雨入り前の湿度の高い蒸した夜に、ひときわ繁盛している店があった。

「ハッピバースデー、トゥーユー♪ ハッピバースデー、トゥーユー♪」

 誕生日を祝う歌が店内に響きわたる。東京・中野区の閑静な住宅街に沿った道を行くと、ポツンとひとつ赤ちょうちんが灯っている。周囲は静かだが、店内は賑やか。多くの人がグラスを傾けている。

「炭火焼き鳥店『Y』です。一見さんお断りのこぢんまりとしたお店で、店主のSさんがひとりで切り盛りしている、隠れた名店です」(グルメ誌ライター)

 このお店、グルメ界ではかなりのツウが通う店。殻ごと食べるといううずら卵の串焼きや、やわらかな鶏ささみ明太マヨがけなど、その日の店主の気分で出てくるという。

「一見お断りの店として、テレビや雑誌で取り上げられることもあり、放送日や発売日の翌日には、全国の焼き鳥店から“レシピを教えてほしい”との電話が、ひっきりなしにかかってくるそうです」(『Y』の常連客)

 気分次第なのでメニューすらない。

「客使いが荒いことでおなじみ(笑)。ドリンクは自分で用意することが決まりになっているため、会計のときに杯数も自己申告するんです」(前出・常連客)

 実はこのSさん、個性の強い“名物店主”。彼を慕い、一般客のほかにも、多くの芸能人が『Y』を訪れている。

「柴田理恵さん、唐十郎さん、上地雄輔さんなど、多くの芸能人の写真が飾られています。フラッと飲みに出かけると、タレントさんたちが自分でドリンクを作っているからビックリしちゃう(笑)」(前出・常連客)

 そんな常連客たちが“東京のお父さん”であるSさんの“自称・永遠の25歳”の誕生日を祝うため続々と『Y』へ駆けつけたのが冒頭の日。彼らに交じって、とある女性有名人も、この店を訪れていた。

「久本雅美さんです。彼女もこのお店の常連。『Y』が開店したのは、'81年ですが、久本さんもそのころから通っていて、今年で35年目の超がつく常連。柴田理恵さんたちと劇団『ワハハ本舗』を立ち上げるにあたって、話し合いを『Y』で毎日朝まで行ったり、Sさんにアドバイスをもらったりしていたそうです」(前出・常連客)

 店主のSさんは、当時のことをこう振り返る。

「若いころからずっと通ってくれているけど、アイツは意外と泣き虫。それでも芯は強かったね。今ももちろん活躍しているけれど、それでも数か月に1回は必ず来てくれる。友達やら後輩やら、10人くらいで来てくれることもあるんだよ」

 そんな恩人の誕生日会とあって、自転車でお店まで駆けつけたという久本。いつもテレビで見るような高いテンションで現れ、Sさんや常連組と杯を酌み交わしたという。

「今度、杯を交わすときは、お前の結婚式だって言ってやったよ!」(前出・Sさん)