s-20160628_atsushi_2

 ソロアーティスト史上初の6大ドームツアーをスタートさせたEXILE ATSUSHI。「いまだから言えるというか……」と、厳しい状況の中で迎えたステージ初日までの葛藤。そして、経験できた奇跡。知りたかった彼の胸の内を話してもらった。

「自分としては、これまでにない最悪のコンディションだったんです。それなのに、“いままでで、いちばんよかった”とか、“過去に見てきたステージの中でも、最高だった”と言ってくださる方が、10数年来の音楽友人にもいた。どういうことなんだろう? という不思議な現象が起きて」

 大歓声とともに、ファンの持つパープルのフラッグがはためく中で始まったライブ。数曲を歌ったあと「お伝えすることがプロとして正しいことなのか、迷ったのですが」と前置きしながら、

《一昨日、このステージでゲネプロダクションと言って、本番とまったく同じことをしました。僕も、この日を迎えることが楽しみで力が入りすぎ、終わってすぐに声がかすれていることに気づきました。昨日は、しゃべる声も出ないくらいになってしまって》

 静まりかえった会場が大きな拍手と「頑張れ!」「あっちゃん!!」という声に包まれたのは、続けて語られた言葉から。

《スタッフからの「そんなATSUSHIでも、みなさんが受け入れてくださるんじゃないか」という言葉に願いを持って(ステージに)立つべきじゃないかと思いました》

 彼と会場を埋めるファンとの強い絆を感じた瞬間だった。このときのことを改めて本人に聞いた。

「いまだから言えるというか、まだツアーの途中なのにお話ししていいのかわかりませんが、ゲネプロダクションをやる少し前から、リハーサルを重ねるごとに体調が崩れていっていました。

 おそらく、精神的なプレッシャーが大きかったんだと思います。“史上初の6大ドームツアーになる”ということが潜在意識としてどこかにあって、初日が近づくにつれて大きくなっていった。

 でも、プレッシャーは、どんな方でも抱えているもの。言い訳にはならないです。それまでの準備がかなり順調に進んでいたぶん、すごく悔しかったです」

 EXILEとして活動して15年。これまで1度もなかった“公演中止”という言葉が頭をよぎった。

「絶対に無理だと思った瞬間もありました。前日の夜、スタッフから、“ATSUSHIくんとファンのあいだには、15年のあいだに積み重ねてきた信頼という貯金のようなものがある。だから、適当にやってこうなったわけじゃないということは、わかってくれると思う。

 これまでと同じように、いまの状態でステージに立つことに意味があるんじゃないか”と、言われたことが、うれしかった。貯金のようなものがあるという考えが、自分の頭にはなかったので。

 そのタイミングで(フリーアナウンサーの)宮根誠司さんからいただいた“ATSUSHIくんがステージに立ってくれるだけで、大阪の人は最高やねん。ハッピーやねん”という、あの関西弁のメッセージも僕の心を軽くしてくれました」

 EXILEのステージとはまた違う魅力を追求した今回のツアー。パフォーマーの姿がないかわりに、自分の名前でツアーを回れるほどの実力者が多数参加する40名からなるビッグバンドが、音の持つ力と迫力を、これ以上ないほどに感じさせてくれる。

「曲と曲の合間の間奏で、サックスのソロが入ったりするんです。決して派手な動きではないけれど、聴いていて気持ちがいい。そういうものを目指しました」

 '06年に声帯にできたポリープの摘出手術をして以来、徹底して体調管理をしてきた。だからこそ、すべての力を音楽に注いだ今回のステージでの不調は、苦しいものだったのだろう。

 確かに、いつもの優しく、美しく、力強い声とは少し違っていたが、彼がメロディーに乗せて届けてくれた言葉は、いつものようにスーッと心に沁み込んでいった。だからこそ、多くの人が握りしめたタオルで涙をぬぐい、鼻をすすっていた。

「ありがたいですね。ヘタでもいいから、メッセージを届けたいと思っていたので。僕自身も歌いながら涙ぐんでいることが、結構あります。京セラの2日目のアンコールでは、感情のダムが崩壊して、歌えなくなったところがありました。あのときは、“声が出ないぶん、サポートするよ”って、音楽を通して会話ができている感じがして」

 そんな、思いがけない感動を経験することができた今回のツアー。さらに、スタートさせてから、気づいたことがあったという。

「初日が始まるまで、僕らが音楽をお届けするというところまでしか考えがなかったんです。でも、実際に幕が上がってみたら、こちらが届ける以上のこと、会場のみなさんと僕とバンドでセッションができた。“繋がる”ことができたんです」

 こんな体験をしたからか、“もしかしたら、なにかが邪魔して、もう声を戻してもらえないんじゃないかと思ったりもします(笑)”と、冗談を交えながら、こう続けた。

「勝手に、自分はもっとうまく歌わなくちゃいけない歌手だと思っていました。でも今回で、生きざまと言ったらカッコよく聞こえますが、そういうものを共有してきたアーティストであり、グループなんだと教えてもらえた。

 キレイに上手に、いい歌を届けるに越したことはない。けれど、ライブの評価は自分の出来がどうだったかだけではなく、例えば思うように歌えないけれどステージに立ったというような、いろいろなことから判断されるんだと改めて感じさせてもらいました」

 今年に入り、ドームツアーだけでなく新プロジェクト『EXILE ATSUSHI LIVE & TALK SHOW “LIVING ROOM”』もスタートさせている。第1弾となった沖縄・石垣市民会館では、約1000人と触れ合ったライブ&トークショーを成功させるなど、活発なソロ活動が続く。だからこそ、噂されるEXILEからの勇退。

「そう思う方がいらっしゃるんですね……。ソロ活動をするたびに、毎回、この話が出てくる。それだけ興味を持っていただけていると考えるようにします。EXILEを離れることは、ないですよ」

 R&Bにポップス、ロックに懐メロに童謡。ジャンルを超えて音楽を愛する彼だからこそ、EXILEというホームとは別に必要なソロ活動の時間。そして、その歌声に期待を寄せる年齢、性別を超えたファンたち。

「“前回と同じくらい、いい”というステージはない。毎回、気づきがあって、成長がありますから」

 最近、ハマっていることは?

「お茶です。料理っていうほどのことはしないんですが、お茶でお肉を湯がいてポン酢で食べたり、ルイボスティーで大好きなおそばをゆでたり。お茶の旨みが入って、美味しいんです。

 以前、『another sky-アナザースカイ-』という番組で「水筒にアーティストの夢が詰まっている」と言ったことがあるんですが、このお茶を飲むと声が出るとかっていう願かけはあると思います。最近、水筒に入っているのは、ルイボスティーか漢方の鹿角霊芝(ろっかくれいし)。自分で淹れて持ち歩いています」

 ツアーが終わったらしたいことは?

「ん……、休みたいです(笑)。海外に行きたいですね。気分転換をしに。いま、つねに友人の英語の先生に同行してもらっていて、移動中は英語で話すようにしているので、短期の語学留学もいいですね。恋ですか? いつでもしたいですけど、余裕がない(笑)。

 今回みたいに声が出る、出ないっていうときに「なんで電話くれないの」って言われたら「ごめんなさい。別れよう」って、なると思います。ツアーが終わったら彼女をつくって、また次のツアーが始まる前に別れるなんてこともできないですし(笑)。まぁ、そこは自然の流れに任せて」

『EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016“IT'S SHOW TIME!!”』

ソロドームツアーのテーマソング『Beautiful Gorgeous Love』と、京セラドーム大阪で発表した新バンドプロジェクト RED DIAMOND DOGSの『First Liners』の両A面シングルが7月6日に発売されることが決定。

撮影/廣瀬靖士