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 フロイト、ユングとともに“心理学の三大巨匠”と並び称される心理学者・アドラーの教えに注目が集まっている。昨年発売された書籍『嫌われる勇気』は大ベストセラーとなり、企業や教育現場でアドラーに関するセミナーが開催されると大盛況。

 「言葉がけ」を変えるだけで、子どもの自信とやる気が育つと評判のアドラーが説く子育て講座の実例を紹介。

■だらだらする子どもを「早く!」と急かしてしまう

 共働きの夫婦が多い今、朝はどうしてもバタバタしてしまうもの! そんな忙しい時間帯なのに、子どもが学校へ行く準備もせずにノロノロしていると、きつい口調で“早くしなさい!”と怒鳴ってしまい、自己嫌悪に……。

「この“早く!”は、母親が子どもにいちばん言ってしまう言葉です。これで子どもがテキパキ行動してくれればいいのですが、実際には効果がありませんよね(笑)。効き目がないし、母親も子どもも気分が悪くなるだけで最悪です。

 みなさん、『子どもは各駅停車、親は特急列車』と思ってください。子どもと母親では流れている時間のスピードが違うのです。大人からすると、子どもの行動はすべてノロノロに見えてしまいます。

 早く行動する必要があるときは、“〇時までに準備できると、余裕が持てて安心だね!”といったように、子どもを急かさずに温かい気持ちで伝える工夫をしてください」(「勇気づけ国語塾」主宰・原田綾子さん)

<BEFORE>

「早く学校へ行く準備をしなさい! 早く!」

「早く食べちゃってよ! いつも遅いんだから! 早くして!」

<AFTER>

「7時までには準備できるといいね! 余裕が持てると安心だよね」

「片づけもあるし、あと5分ぐらいで食べ終えてもらえるとママ助かるわ♪」

■なかなか宿題してくれずつい「やりなさい!」と怒っちゃう

 母親からすると子どもの将来が心配で、“勉強しなさい!”“宿題をやりなさい!”と口うるさく言ってしまうものだが、これは逆効果であるという。

「こうした母ゴコロは理解できますが、勉強を強制すると、子どものなかに“勉強=イヤなもの”というイメージが植えつけられ、ますますやる気が削がれるおそれがあります。

 アドラー心理学には『課題の分離』という手法があります。勉強をしなかった責任を最終的に引き受けるのは、子どもです。そうであれば、勉強は母親ではなく子どもの課題ということになります。

 そこで、子ども自身に“いつ宿題をするか”を決めてもらい、あとは本人に任せて母親は見守るだけ。“早めにすませれば、あとが楽だと思うよ”といった感じで少しだけ背中を押してあげる。ルールを守れなかったとしても、これを糧にして次に生かせるよう、子ども自身に考えてもらうようにしてください」(原田さん)

<BEFORE>

「いつになったら宿題を始めるの? 早くしなさい!」

「もう宿題の締め切り前日じゃない! あれほど早くやりなさいって言ったのに!」

<AFTER>

「何時ごろ、宿題をやる予定にしているの? 早くすますとあとで楽かもしれないよ」

「ギリギリだと焦っちゃうよね。こうならなためには、どうしたらいいと思う?」

■きょうだいゲンカになると年長の子どもを責めてしまう

 年の近いきょうだいがいると、ケンカはしょっちゅう起こるもの。そんなとき、上の子どもだけを叱ったり、一方的に“やめなさい!”と怒鳴ったりして、ケンカに介入する母親も多いはず。だが、原田さんはケガや被害がなければ、介入せずに静観するのもひとつの手だという。

「子どもはケンカをすることで、母親の注目を得たいと思っているケースが多いです。子どもたちが“ケンカしてもお母さんはかまってくれない”と自覚すれば、それ以降ケンカしなくなることもあります。

 それでもおさまらないようなら介入しますが、そのときでも“どちらが正しいか”をジャッジするのではなく、ひたすら話を聞くようにしてください。

 無理やり仲直りさせたり、正義を振りかざしたりするのではなく、“どうして叩いたの? 何か理由があったんでしょ?”“何が嫌だったの?”“叩かれて痛かったね”など、子どもたちに寄り添って共感の言葉を投げかけるようにしましょう」

<BEFORE>

「お兄ちゃんなんだから、やさしくしなさい!」

「なんで仲よくできないの!?」

<AFTER>

「ぶつことはよくないよ。でも何があったの? 聞かせてくれる?」

「順番に話を聞かせてくれる?」

■親に依存しない自立した子どもに

 母親として子どもの成長を願うあまり、あれこれと口出し。すると、かえって子どものやる気と自信が失われてしまう。とはいえ、ふだんの生活や勉強、人間関係において子どもに問題があれば、少しでも手助けしてあげたいと思うのが母親のホンネだが……。

 子どもへの“言葉がけ”で気をつけるべきポイントは?

「今回は3つのケースをご紹介しましたが、大前提として『横の関係』で子どもと接することが大事です。

 上から目線の命令口調で指示されると、大人でもやる気がなくなりますよね。“もし自分が夫や上司、親に“ダメ! ダメ!”と言われ続けたらと想像してみてください。誰もが反発したくなるものでしょう。

 “ダメ!”“いけません!”などの禁止語や命令語もなるべく使わないほうがよいです」

 例えば、このように言葉がけを変えてみてほしい。

×そんな言葉づかいをしたらダメでしょ!

〇きれいな言葉を使おうね。お母さんはこういったほうがいいと思うよ。

「“ダメ!”と否定する表現がないだけで子どもの拒絶反応も少なくなり、言われたことを素直に守ってくれるようになるかもしれません」

 問題が起きたときに、親子で話し合うのもアドラー的解決法であるという。

「アドラー心理学では親子で民主的に話し合いをすることを重視しています。そのためにも、前述したとおり、親子が対等な『横の関係』でなければなりません。親子に上下関係(『縦の関係』)があると、子どもは萎縮して自由に意見を言えません。

 例えば、子どもがゲームばかりしているとき、無理やり取り上げるのではなく、子どもと話し合ってゲームをする時間を決めます。ルールを破ったとしても、罰を与えるのではなく、また話し合ってルールを再検討すればいいのです」

 子どもがこうした経験を積むと、常に自分で考える習慣ができる。いろいろな問題に直面したとき、自力で解決できる能力が身につくのだ。

取材・文/田中 潤 イラスト/シライ カズアキ