頻繁に起きている子どもを狙った性犯罪。防犯知識を教えるのは家族の役目。万が一に備え、まずは子どもに「自分が狙われることもある」と自覚を促すことから始めよう。親や教師の目が届きにくい夏休みを目前に、子どもの防犯についてプロに話を聞いた。

「子どもは大人の女性と違い、自分が性の対象として狙われるとは思っていません。その無防備なところにリスクがあります」

 そう語るのは、子どもの防犯に詳しい危機管理アドバイザーの国崎信江さん。

 警察庁の最新統計によれば、強制わいせつの被害認知件数は6755件のうち、19歳以下が3196件、強姦も1167件中432件を未成年が占めている(平成27年)。だが、これはほんの氷山の一角。というのも、強制わいせつも強姦も、被害者の被害届がないと捜査が開始されない「親告罪」だからだ。

 こういった性犯罪は教師や親戚のおじさんなど、身近な大人から被害を受けるケースも多く、子どもが被害にあったことをなかなか親に言い出せずに事件が表面化しにくい。

「とくに小さな子どもは性に対する知識が浅く、何をされているのかわからないまま被害にあっていることもよくあります。日ごろから自分の身体の大切さや、触られたくない部分を明確に教えてあげましょう」(国崎さん)

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■ネットを利用し親子で実態を知る

 また、子どもが少し大きくなってからはインターネットを使って、小児性愛者の存在を教えるのもおすすめだという。

「気をつけなさいといっても、子どもたちの心には届きません。子どもを性の対象として感じている人がいる現実を見せて、どう思うのかを聞いてみる。自分と同年代の子どもがどのように見られているか実態を知れば、意識も変わります」(国崎さん)

 気をつけなければいけないのは、女の子だけではない。件数は少なくとも、男の子にも性暴力や連れ去りの被害者はいる。男女を問わず公共のトイレなどは危険な場所だ。

 また、性犯罪者は大人の男性と思い込みがちだが、小さい男の子に男子中高生が「一緒に遊ぼう」と声をかけてくるケースもあれば、男子中高生に中年女性が「ちょっと触らせて」と近寄ってくるケースもある。いずれにしろ、子どもには男女ともにタイミングを見て、“現実”を伝えることを心がけたい。

■9割は怪しい“自称”芸能プロによるスカウト

 また、夏休みに気をつけたいのが自称、芸能プロダクションによるスカウトだ。とくに女の子は繁華街でのショッピング中などに、スカウトマンを名乗る人から名刺をもらうこともある。

 現在、芸能界で活躍している人にもスカウトがデビューのきっかけとなった人は多いが、「声をかけてくる9割は怪しいと思ってください」(国崎さん)

 事務所についていってしまい、相手に言いくるめられて契約書を書かされ、そのままヌード写真やわいせつな動画などを撮られるなどの被害が後を絶たないという。

 “契約書にサインをしないと帰さない”、たとえ2~3人でいたとしても“一緒に来た友達をひどい目にあわせる”などと脅されれば、子どもは泣く泣く応じてしまう。そうして撮られた画像は児童ポルノとして流出し、子どもの心を深く傷つける。

 実際に、芸能事務所の社長を名乗る男が、アイドルになりたい少女たちの気持ちにつけ込んで、わいせつ行為を繰り返していた事件もあった。

「子どもにはスカウトに声をかけられてもその場では名刺を受け取るだけにして、絶対についていかない、こちらの連絡先を教えないように! と伝えて」

■「どう思う?」と尋ね防犯意識を育てる

 なにより家庭内でいろいろ話し合いを持つことが重要、と国崎さんは強調する。

「ある学校で生徒に調査をしたところ、何らかの被害にあった経験のある子どもが全体の1割にも及んだそうです。でも、そのうち親や教師が把握しているのは、ほんの一部だったそう。

 子どもが親に相談できないのは、話したときに親がどのように行動するのかイメージできないからです。ふだんから“何があっても家族は味方。だから、ひとりで悩まないで”と伝え、子どもが何でも話せる環境をつくっておくことが大事です」

 自身も母親である国崎さんは、わが子への防犯対策をどのように実践しているのだろう。

「小学生の子どもには腕時計型のGPS端末を持たせて、どこにいるのかこまめにチェックしています。小さいころから、必ず私の見えるところにいるように言い聞かせてきました。見えていないと、何かあっても守ってあげられないからと。

 そして、子どもの事件や事故があったら、一緒にニュースを見て“どう思う? この事件はどうしたら防げただろう”と話し合います。そうすることで、何かあった場合に自分の子どもがどう行動するのかわかりますし、私がどのような行動をベストとするかを知ってもらえます」(国崎さん)

■事件を未然に防ぐ、大きな力

 怖いことや厳しいことばかりを言い聞かせるのではなく、チャンバラ風に遊びつつも“万が一のときに取るべき防御の姿勢”を覚えさせたり、日常の子育ての中に防犯教育を取り入れているという。

 こういった日々の取り組みを、家庭内だけでなく、親同士や地域全体へと広げたい、と国崎さんは語る。

「いまは“親だけで自分の子どもだけを守る”時代ではありません。例えば、近所の主婦たちが、買い物や子どもの送り迎え、近所へのお出かけなど、ちょっと外に出るときに“パトロール中”と書いた腕章をつける。自転車に“パトロール中”のステッカーをつけて走る。これだけでも不審者を遠ざけることができます。

 公園で遊ぶ子どもたちを交代で見守ることも効果的。地域の大人たちの大勢の力を有効活用すること。いくつもの目を張り巡らせることは、事件を未然に防ぐ、大きな力となります」

◎プロフィール

危機管理教育研究所代表・国崎信江さん。危機管理アドバイザー。母親としての視点から防災、防犯について各地で講演、執筆を行う。国や自治体の各種研究会にも所属。http://www.kunizakinobue.co

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イラスト/キタダイマユ