いまや、子どもたちの生活にもネットが欠かせない時代。でも、気軽に使っていたらトラブルに巻き込まれ、パニックなんていう事態も。ネットを安心して使うキホンを、親子一緒に学んでおこう。

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■にぎやかな交差点で掲げるのと同じ

 東京・渋谷のスクランブル交差点の真ん中で、少女が名前や携帯番号を書いたボードを掲げている写真。これは、大手IT企業グリーの社員であり、全国各地で「インターネットを正しく怖がる」というテーマで講演を行っている小木曽健さんが、いつも使っているものだという。

「こんなふうに“自分の大切な情報をボードに書いて、渋谷の交差点に30分ほど立っていられる?”と聞くと、当然みんな嫌がります。でも、インターネットにものを書いたり、画像をアップするのは、こういう場所で掲げているのと同じ。

 しかも、掲げたボードは下ろせますが、ネットでは自分が削除しても、そのコピーが拡散して、回収することは不可能です。まずは、これらをきちんと意識することが重要」(小木曽さん)

■スマホやSNSの犯罪が急増中

 夏休みになって自由な時間が増えれば、子どもたちはいつも以上にネットを活用し、同時に子どもをねらう変質者の動きも活発になる。昨年、スマホやコミュニティーサイト(SNS)を悪用した犯罪の被害にあった子どもの数が過去最大の1652人となった。

 被害者の年齢は16歳が最も多く451人、13歳以下も226人と少なくない。罪種は淫行、児童ポルノ、買春など性犯罪がほとんど。殺人や暴行など凶悪犯罪も40件と大変な数だ。

「多く発生しているのが、自撮りヌードの不本意な拡散。交際相手と別れた後の復讐や、自慢目的で仲間うちに公開されたものが拡散、回収はほぼできません。

 また時には、変質者がSNS上で同年代の同性のふりをして近づいてきて、うまく仲よくなって身体つきや下着のことを相談し、裸の写真を送るように話を持っていくことも。会ったことがなくても相手のことを信じてしまい、1枚送ったら“言うことを聞かなければバラまくぞ”という脅しとともに、会うことや性行為などを強要される。

 ここまでのケースはまれですが、まずは親や警察に相談を。親に話したくなければ、せめて県警などの電話窓口に、匿名でもいいからまずは相談して!」(小木曽さん)

 ネットは“人に託す”という行為の連続で、あとから自分で消したくなるような投稿であればなおさら、消す前に必ず誰かがコピーしているもの。コントロールはきかない。

 人に送ったり、見せたりしなくても、ウイルスに感染したパソコンからデータが流出したり、スマホごと紛失する危険もあるのだから、自分の裸の写真を撮らないことがなにより安心できる予防法だ。

■炎上しても耐えて反省、謝罪する

 もうひとつ注意したいネット上のトラブルが、自分が起こした不祥事をきっかけに、大勢のネットユーザーから爆発的に注目され、否定的なコメントが殺到する事態。いわゆる“炎上”だ。

 最近では、有名私立大学の学生5~6名が、営業中のスーパーの売り場で歌いながら踊る動画が投稿され、ネットで批判の声が上がり、注目を浴びてテレビのニュースでも報道された。投稿した動画やメンバーのアカウントは削除されたが、ネット上ではメンバーの名前や出身高校などが明かされ、大炎上した。

「騒ぎになるのに、なぜバカなことをネットに載せるのかと不思議に思うでしょう? でも、炎上するブログやツイートは、たいていふだんは友達しか見に来ないページ。だから“見ているのは友達だけ”と油断して炎上ネタをアップしてしまう。

 でも、たったひとりでもその投稿に違和感を感じれば、素早く注目が集まるもの。友達限定で公開しても、投稿を画像保存する機能でどんどん拡散します。炎上の規模が大きいと、誰かつながりのある人や近隣住民から名前や自宅など個人情報までバレてしまう」

 小木曽さんによれば、炎上したときにもっとも重要なことは、その投稿やアカウントを消さないことという。

「自動車の事故と同じで、なかったことにはできません。ネットの炎上には100万人以上が集まるケースもありますから、問題投稿のコピーだって誰かが必ず保存しています。もとになった投稿を消せば、コピーが拡散してますますコントロールがきかなくなるでしょう。

 きちんと対処すれば100万人は徐々に去って、“コイツは炎上させたけれど、その後のリカバリーができる人”というちょっとはマシな情報が加わって拡散してくれます」

 ほかにも、ネットではさまざまなトラブルが起きているが、小木曽さんは「インターネットに情報を公開する行為はすべて“自宅の玄関扉の外側に情報を貼る行為”と知っていれば、絶対に失敗しない」と力説する。何を書くにも、どんな画像を載せるにも、自分の家の前に貼れる内容かどうかを基準に決めればいい。

「ネットはただの道具。使う人の振る舞い次第です。その基準となるのは、自分の周りの人たちがその文章や画像を見てどう考えるのかを想像する感覚です。“インターネット”やそのトラブル対処法については大人も子どもも同じ1年生ですから、親子一緒に学んでほしいですね」

◎プロフィール

グリー 安心・安全チーム マネージャー・小木曽健さん インターネットで失敗しない方法を、全国で年300回講演。講演をもとに作成した無料教材が、消費者教育教材資料表彰の優秀賞と特別賞を受賞。

イラスト/キタダイマユ