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 シェアハウスとは、入居者がプライベートな部屋で生活しつつ、リビングなどの共有空間を使ってコミュニケーションをとれる住まいの形式。若者たちの暮らし方と思いがちだが、最近では高齢者の住まいとしても注目を集めている。

 そのひとつ、千葉県山武市の『むすびの家』は昨年11月にオープンしたばかり。約300坪の敷地に、2階建ての1人用住居の棟に8戸、2人用住居の棟に4戸がある。オーナーは、ここで暮らす田中義章さん(78)と坤江さん(78)夫妻。

「子どももいないし、将来どちらかが先に逝ったときにどうするか」と考え、坤江さんがシニア向けの住まいを造ろうと提案した。

「元気に明るく、なるべく最後まで自立して生きたい。それにはみんなで助け合いながら暮らすほうがいい。周りに人がいれば刺激になるし、体調を崩したときには病院や介護のことも相談できて心強いでしょう」(義章さん)

 生活は基本的にそれぞれが自分のことを自分で行い、自由に過ごす。住居も1戸ずつしっかり施錠できる扉と玄関があって独立しており、室内にはキッチン、トイレ、浴室など日常で必要な設備がそろっていて、一般の集合住宅の部屋と変わらない。

 ドアホンはテレビつき、コンロは3口のIHクッキングヒーターと、安全かつ快適に生活できる機能も備えている。坤江さんが言う。

「食事も個々で作っています。入居者がいずれ増えたら週に2、3回でも共用スペースのキッチンで、みんなで食事を作ってもいい。もちろん強制でなく。これまでの暮らしの延長線上でその人らしく過ごしながら、自由に参加できるイベントを提案していければ」

 現在は、日曜日に市役所前広場で開かれる朝市にそろって出かけるのが恒例だ。

 もともと田中さん夫妻は、自家菜園で野菜を収穫したり、大釜で大豆を炊いて味噌を手作りしたり、暮らしを楽しむ達人でもある。今後は入居者と一緒に続けていきたいと計画。敷地内には味噌づくりなどに使うかまどや作業小屋を、これから作る予定だ。

 夫婦で入居している佐藤征さん(72)は、以前は柏市のマンションで暮らしていたが、妻の土いじり好きから決意、引っ越した。

「マンション住まいは周囲との触れ合いがない。集まって人と話せる場があるのは魅力」(佐藤さん)  

 そう顔をほころばせる。先日は、九州から見学にやって来た人が共用スペースの和室に泊まり、夜はにぎやかな飲み会になったという。

 ちなみに、和室には入居者の家族や友人が宿泊でき、ほかに共用の広い浴室とトイレもある。誰かの身体が不自由になったときに利用することも考えて造ったものという。  

 佐藤さんは散歩中、地元の人に誘われ、グラウンドゴルフを始めたばかり。中庭でガーデニングを楽しむ妻ともども、いきいきと新生活を満喫している。  

 同じく住人の小澤健二郎さん(80)は23年前に妻を亡くして以来、ひとり暮らしを続けてきた。田中さんとは30年来の友人で、むすびの家が実現するにあたり声をかけられ、神奈川県川崎市からやって来た。

「こんな家を建ててくれて、人生の最終章によい場所を提供してもらった。そばに親しい友人がいると安心だね」(小澤さん)  

 長年の自炊の成果で料理も難なくこなし、趣味の書もたしなむ小澤さん。自分の生活スタイルを保ちつつ、人との触れ合いがある毎日に喜びを感じている。  

 田中さん夫妻はむすびの家を建てるにあたり、近所へ挨拶に回り、完成後にはお披露目会を開いた。地元に溶け込む姿勢もあるが、義章さんは、地域の利点をこう語る。

「この付近は昔からの農家と新しく家を建てた住民が混在していて、溶け込みやすい雰囲気なんです」  

 また、入居者が身体に不自由を感じたときに介護サービスを利用しやすいよう、周囲の施設を調べ、足を運んで備えを始めている。そして、最終目標は「家」での看取りだ。坤江さん自身、義父や叔母を看取っており、旧ホームヘルパー2級の資格を持っていて「手を貸したい」と話す。