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 平穏な暮らしを脅かすのは災害だけに限らない。1970年ごろに建設のピークを迎えたインフラは老朽化が進み、いまや崩壊への秒読み段階。活断層だらけ&いたるところにガタが来ている「老朽化社会」の実態に迫る。

■20年も職員の新規採用が行われていない

 左の写真の使用開始から50年を超えた水道管。いかにも脆そうだ。

「骨粗しょう症にかかっている骨のようなもの。地震どころか、ちょっとした衝撃でボキッと折れる。水道管が破裂したり、水がにごったりする危険性も出てきます」(水問題を専門とするジャーナリストの橋本淳司さん)

 そうして、水が漏れた。道路が陥没した。それでもすぐに駆けつけてくれるとは限らない。人手が圧倒的に足りないからだ。

「水道事業に携わる自治体職員は減り続けています。コスト削減を迫られて、この20年ぐらい職員の新規採用を行っていないのです。40代が若手という世界。技術の継承がままならない事態に陥っています」

 また、老朽化のツケは水道料金にも跳ね返ってくる。

「今後、水道管の更新をしていったと仮定して、2040年には、兵庫県播磨高原広域事務組合という水道事業者で毎月1万5671円の水道料金がかかる計算になる。千葉県市原市でも1万778円を支払わなければ、水道を維持できません。財政破綻の状態です」

 東京のように人口の多い地域は財源が十分にあるので、水道料金への影響は少なくてすむ。問題は人口減少の著しい過疎地域。

「そこで最近増えているのが水道事業者の合併です。例えば近隣の5市が別々のところに民間委託しているとします。だが、5市で1つの水道事業体を作り、それを民間に委託すれば経営をスリム化できる。事業所の合併によって、浄水場などの施設を減らすこともできます。その浮いたお金で水道管を更新するという方法がとられています」

■“水道のない町”が出てくるかも

 とはいえコストカットには限界がある以上、根本的な解決にはならない。

「人口減少が進むなかで、医療機関や商業施設などの都市機能を中心部に集中させる町づくりの議論が行われていますが、水道も同じことが言える。都市部に機能を集中させた結果、今後はインフラの更新や整備をしない地域、つまり“水道のない町”が出てくるかもしれません」

 そんな橋本さんの指摘を先取りするかのように、住民みずから、従来とは異なる“インフラ設備”を選択する地域も出てきた。

「井戸を自分たちでメンテナンスして使ったり、岡山県津山市にある地域では、小型の浄水装置を導入したりしています。大分県豊後高田市の黒土地区も、水道を小規模なものでまかなうと住民が話し合って決めた。こうしたやり方が今後、全国に波及していく可能性はあります。

 すべての水道管を更新、耐震化しようとする発想のもとでは、どうしても過疎地域ほど水道料金が高額になってしまう。小規模型の施設に移行するところと、耐震化すべきところを考えたうえで、あらためて耐震適合率を割り出すべきではないかと思います。同時に、選択の余地なく水道インフラの網から取り残された人たちへの救済策も必要となってくるでしょう」